事情
「焦らないでよ……約束は守る」
僕は視線をエレノア王女殿下から移し、魔法を発動させる。
「リリーっ!?」
そして、少し離れたところに安置されていた眠るリリーさんをこの場に引っ張ってくる。
「ま、まだ生きている……!」
エレノア王女殿下のすぐ目の前に寝かせたメイドのリリーさんへと彼女はすぐさま駆け寄り、その脈拍を確認する。
「まだ生きているよ。この場で起きた時から彼女が生きているのはわかっていたから」
「……そう。良かった……間に合ったのね」
「うん、そうだよ」
安堵の表情。
「……でも」
最初はそれを浮かべていたマリアの表情が次第に曇り始める。
「でも、その女が私の国の人間を攫って、実験体にしていたことには変わりないんでしょう?」
「まぁ、そうだね。それはちょっと僕もどうかと思う」
僕はエレノア王女殿下の絞り出すような言葉に同意する。
完全なる正論だった。
「れ、レイ!?」
「……何、そのレイならわかってくれる!とでも言いたげな表情。今まで誰も成功したことのない死者蘇生の魔法。その禁忌を僕を生き返らせるために数多の人を犠牲にした行いを肯定するわけないじゃん?」
「でも、……レイだって。……きっと、リーシアが亡くなったら、私と同じことをするでしょう?」
「……?別に他人の体を使わず、僕の体で色々試すよ」
「……それはリーシアの為に辞めておきなさいよ」
「大丈夫だよ。ちゃんとリーシアが死なないようにするもの……まぁ、一年間いなかった僕が言えた口じゃないけど」
「……」
マリアを軽くあしらった僕はまた、エレノア王女殿下の方に視線を戻す。
「エレノア王女殿下の言いたいこともわかるよ。でも、マリアは僕の仲間だから……ちょっとどうかと思うようなことをしていても仲間は仲間。
「な、仲間って……そうだよ!レールはただの冒険者じゃない!何で魔女の仲間なんかに……!」
「あぁ、そういえば、エレノア王女殿下にはまだ僕が適当につけた仮名しか教えていなかったか。ずっと黙っていてごめんね?僕の本当の名前はレイ。勇者パーティーの一人のレイなんだよ」
「えっ?れ、レイ……あの、一年前亡くなったというレイ?」
「そっ、そのレイ」
「し、死んだんじゃ……」
「……そうよ。レイはあの日、死んだ。なのに、何でここにいるの!?」
死んだはずの僕が何故、ここにいるのか。
その至極当然な疑問にマリアも食いついてくる。
「まずはその説明からしようか。エレノア王女殿下も座ってよ。今、説明するから」
「……わかったわ」
僕の言葉にエレノア王女殿下も腰を下ろしてくれる。
「えーっとね」
そうなってようやく僕は自分の身に何が起きたのかを語り始めた。
とはいっても、説明はそう長くならない。
「スライムとして……」
「転生、した?」
「そう、スライムとして転生した。それくらいしか語れることもないんだよね。でもほら、これは嘘じゃないよ。ちゃんとリーシアとラルムにもここに来る前会っていて、本人だと認めてもらっているから」
「……あぁ、ラルムが勇者と二人で行方を眩ませた、っていう報告は聞いていたが、そういう事情が。確かにやりそうだな」
「……マリアから見ても、そうなっちゃうんだ」
「うなぁ!?」
事情を話し終え、しばらく経ってからいきなりこれまで黙っていたエレノア王女殿下が叫び出す。
「つまり、ここに私の味方はいない、ってことね!?」
「……あぁー、そうなっちゃうかも?」
エレノア王女殿下とマリア。
どちらを取るかと聞かれれば、僕は後者を取る。それで味方とは言えないでしょう。
「……私だって、馬鹿じゃないわ。勇者パーティーに対して、父上含め、ルックス王国の貴族たちが当たり強かったのを知っているわ。レイが死んで、勇者パーティーが半壊し、人類は敗走を続けている。それを考えれば……マリアの行いに関して、文句を言える立場じゃない。王侯貴族ではない。民が、代わりに被害を被っているのは納得できない。でも、……やっぱり、それを私たちに言う権利はない」
「エレノア王女殿下……」
「……レイ。改めて……ごめんなさい。私たちのせいで、貴方たちの運命を歪めてしまった……」
「いや、僕は今、エレノア王女殿下が頭良さそうなことに驚いているだから……」
「私のことを何だと思っているの!?」
「ポンコツ王女?」
「ひっどい!?これでも、ちゃんとお姫様なんだけど!もう!……はぁー、ともかくとして!国を支配した巨悪に立ち向かえる勇気は私にないわ……だから」
少し離れたところにいたエレノア王女殿下はすすっと、僕の方に近づいてくる。
「こうしてレイに媚びを売って、マリアを抑えてくれることを期待するわ!」
僕のすぐ横でエレノア王女殿下はどや顔で他人任せを宣言する。
「むぎゅっ」
そのエレノア王女殿下をマリアが押し返す。
「今すぐレイから離れなさい?消すわよ?」
「ダメだよぉ?マリアぁ。今日からは僕が止めるからねぇ?」
「うぅんっ」
それを下から辞めさせる。
というか、今、こんな悠長な話をしている場合ではないと思うのだ。
「ところでマリア」
「何かしら?」
「……何か、嫌な魔力の流れが出来始めていると思うのだけど、気のせいかな?」
「嫌な、魔力の流れ?」
「そう」
「……ッ!?」
僕に夢中で周りへの警戒が疎かになっていたマリアは、僕の言葉を聞いてようやく周りの状況に気づく。
「なんか、……僕の遺体が生きている僕に反応しているのか、何か凄いことになっているんだけど」
この場には恐らく、マリアが魔法の研究に使ったであろう死者の魂が複数漂っていた。
その死者の魂がごちゃ混ぜになりながら、僕の遺体に吸い込まれ、そのまま辺りの魔力を体力に吸い上げていた。
「……あれ、アンデットとして復活しないよね?」
僕が訳も分からず首をかしげている横で、マリアはその元から白い表情をより一層青白いものにさせていた。
ご覧いただきありがとうございました。
ここより少しスクロールして広告の下にある『☆☆☆☆☆』から評価することが可能です。
ブクマ登録、いいねも合わせて評価していただけると幸いです。
また、感想は作品を作る上での大きなモチベとなります。
感想の方もお待ちしておりますので、気軽にお願いします。
表紙絵も公開しております。よろしければご覧ください。
カクヨムの近況ノート
『https://kakuyomu.jp/users/ninnjyasuraimu/news/2912051605226585125』




