支配者
「どういうことっ!?」
リリーを攫った。
そう聞いたエレノア王女殿下は激昂して立ち上がる。
「……あぁ、そういえば、エレノア王女殿下を捕えたんだったわね」
「どういうことか。それを、私は聞いているのよ」
エレノア王女殿下は腰に下げていた剣を抜いてマリアの首筋に突きつけ、再度、疑問の言葉を叩きつける。
「言葉通りよ。私は貴方のメイドを攫ったわ」
「……ッ!?」
シンプルな答えに激昂したエレノア王女殿下はそのまま剣を前に突き出し、そのマリアの首を貫こうとする。
だが、剣がマリアへと当たると共に彼女の体が煙のように消えていく。
「およ?」
いつの間にかマリアは僕の背後にいた。
僕のことを持ち上げてからまずは自分が座り、その膝の上に僕を乗せる。
「こんなこと!?……許されると思っているのかしら!」
「許されるわ」
「許されるわけがないでしょう!王宮に仕えるメイドの拉致。決して許されるわけがないわ!そして、王女であるこの私までも手をかけた。許される道理がない。人質を取っても無駄よ?」
あっ、エレノア王女殿下の中で僕が人質を取れたことになっている。
「レイは人質なんかじゃないわ。私はただ、裁かれないの」
「何の強がりを!」
「既に……この国は私の支配下にあるわ」
「……何ですって?」
「なんてことはないわ?マリア。その名を貴方とて聞いたことがあるのでは?」
「……マリア。まさか、あの魔女……マリア」
「えぇ、そうよ。私はあの、魔女のマリアなのよ。ルックス王国が産んだ天才児……国一つ乗っ取ることくらい簡単だわ」
「っ!?貴様!魔法で父上たちを操っているのか!?」
「別に、そんなことをする必要もないわ。商売で金を得る。王侯貴族とのコネを作る。恩を売る。黒い噂を突き止め脅す……基本的なことを一つずつ高度にこなしていけば、国を裏から乗っ取るくらい造作もないわ。特にこのご時世ならね?」
マリアとエレノア王女殿下の押し問答。
「……マリアが?」
その中で、僕はマリアの言葉に目をパチクリさせる。
人に興味ない。そんな様子を全面に押し出していたマリアが人の世に干渉している……?どういった風の吹き回しで?
「あ、ありえない!こんなこと!」
「私は死者蘇生の魔法を開発していたの」
「し、死者蘇生……」
「えぇ、そうよ。人の生き死を操る魔法である関係上、どうしても人の死体が必要になったわ。生きた人間を何人も使って実験を繰り返したわ。私がどうして生きた人間の実験体を用意出来ていると思う?この場も、……その一環なのよ。王都の地下深くにこれだけ大きな実験場を作れた理由は?」
マリアは微笑む。
本物の、魔女のように。あまりに……それは、あまりに邪悪な、小さな微笑みだった。
「それもすべて、私がひとえにこの国の支配者であるからこそ」
「く、狂っている……狂っているわ!そんなことで無辜の民を殺して良いとでも!?」
エレノア王女殿下があとずさり、叫ぶのも当然だった。
「選別よ」
「せ、選別?」
「貴方たち王侯貴族は、リーシアを平民だからと言う理由で勇者と認めなかった。そして、同じ平民のレイを殺した。だから、私もその論理に従ったのよ」
「何ですって?」
「価値のない平民を殺し、貴族たる私の価値を高める為に使ったそれだけよ」
「……ッ」
「それでぇ?生き返らせようとしていたのが平民の僕、ってわけぇ?」
上を向いた僕はマリアの膝の上から手を伸ばし、彼女の顔をそっと両手で掴んでそのまま下を向かせて、強引に視線を合わせに行く。
そろそろ話に割って入ろうかな。
「……そういうわけでもないわ」
逃げるように視線を横に逸らすマリアはそっと首を振る。
「嘘は良いよ?」
僕は魔法で雷撃を落とし、自分たちが乗っている祭壇を破壊する。
「よっ」
そして、そのまま祭壇の内部に安置されていた棺。
その中に入っていた僕の遺体を取り出す。
「明らかに僕を中心にこの魔法を作っているよね?」
「貴方が死んだ日から、勇者パーティーは空中分解。人類の為を思うなら、レイを生き返らせるのが最善だった。ただ、それだけの話よ」
「ぶー、マリアの本心が聞きたいな……何で、僕を生き返らせようとしたの?」
あのマリアが、人類の為とか絶対に言うわけがない。
神に誓って断言できる。
「……仲間を、思っちゃ悪いかしら?」
「別にぃ?いや、でもマリアに僕たちを大切に思ってくれていたのなら嬉しいな」
仲間の為ってのはほんとそう。
嘘の香りがしない。いやはや、魔法しか興味なさげで、初めて会った時も超絶塩対応だったのにずいぶんと仲良くなれたものだ。
「……レイが特別なのよ。私の魔法を、私を理解をしてくれたのはレイだけだったから」
「えぇ~?そんなことないと思うけどぉ?でも、そう思っていてくれたのなら、嬉しいね」
「待ちなさい!」
僕とマリアの間でほんわかした雰囲気が流れ出した中、横で見ていたエレノア王女殿下が声を荒げる。
「二人だけで……話を進めないで。何で、何で貴方までその、……魔女の味方みたいな顔をしているの!?リリーを助けてくれるっていう話は何処に行ったの!?」
そして、そのエレノア王女殿下は訴えるように僕へと叫んできた。
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