魔法陣
エレノア王女殿下の精神世界。
「……末期か?」
そこは既に真っ暗闇の世界だった。
僕の時のように過去の映像などはなく、ただただ真っ暗が広がっている。
「私のせいだ」
しばらくその暗闇の世界を歩いていると、真っ暗の世界の中で一人、しゃがみこんでいるエレノア王女殿下の姿があった。
「私のせいでリリーが捕まった」
「私が王族なんかに生まれたから。私の運命に彼女を突き合わせてしまったから。私がいたから。私がリリーに関わったから。だから、リリーは苦しんで。全部私のせいだ」
「私なんか、死んじゃえばいいんだ」
何を見せられて、囁かれていたのか。
闇に沈んでいっているエレノア王女殿下は一人、ぶつぶつと自罰的な言葉を吐き続けていた。
「何をしているの?」
そんなエレノア王女殿下の首根っこを掴み上げ、顔を強引にあげさせる。
「……れ、い?」
「言ったでしょう?お任せあれ、と」
メイドのリリーさんはきっと生きているだろう。
半ば、確信があった。
「必ずやメイドさんを助けてあげましょう」
僕は一度したときのようにこの場を魔法で破壊してやる。
「こ、ここは……?」
魔法の影響下から逃れたエレノア王女殿下は呆然と辺りを見渡す。
「起きたぁ?」
「……レイ。今のは……わ、私はぁっ」
まだ、精神干渉魔法の影響から抜け出せてなさそう。
僕のことを視界に捉えてなお、再びエレノア王女殿下は魔法の影響になくとも勝手に沈んでいってしまう。
「いやはや、精神干渉魔法というのは恐ろしいね。人を簡単に壊せてしまう……はい!」
なので、僕も精神干渉魔法を使ってしまおう。
エレノア王女殿下の前で僕は手を叩き、彼女に精神干渉魔法をかける。
「ハッ!?」
「どう、意識がはっきりしてきた?強引に、心の闇を遠ざけたんだけど」
「……えっと、……そっか。私は今」
「心が晴れましたか?」
「……一応」
僕の問いかけにエレノア王女殿下が頷く。
彼女の瞳にはもう光が宿っている。ある程度は回復してくれたでしょう。
「……でも、どうしてもやっぱりリリーのことが気になって」
「彼女に関しては僕に任せてと言ったでしょう?」
「……ッ」
エレノア王女殿下は目を細め、僕を仰ぎ見る。
「ん?」
「……えぇ、そうね。私は、貴方を信じるわ」
「そう言っていただけて光栄ですよ。ですから、どうか。エレノア王女殿下も心を強く。愁傷にしているのはエレノア王女殿下に似合いませんよ?」
「そうかしら?」
「はい」
「そう、ねっ!元気なのが私の取り柄だもの!心配かけてごめんね?」
「別に構いませんよ。それにしても、です。」
僕は自分たちが今立つ祭壇を中心として地面に描かれた魔法陣を眺める。
「ずいぶんと不完全な魔法陣だ」
大規模な魔法を発動させる下準備として描かれることの多い魔法陣は、一目見るだけである程度それがどのような作用をもたらすのか何となく理解出来る。
「行いたいのは召喚魔法かな?禁忌の領域……目的は死者蘇生と言ったところか?死者の魂を召喚する魔法、とは言いつつ無茶苦茶で欠陥ばかりだ。何処から召喚するのか、何を召喚するのかも指定されていない。ただ、殺した死者の魂と等価交換的に何かを召喚しようとしているだけの魔法。何が召喚されるのかは完全にランダム。これを魔法とは呼びたくないな」
僕に本格的な魔法を教えてくれた人が語っていたことだ。
魔法とは理論的産物であり、その発動にわからないは存在しない、と。すべてを説明してようやく一つの魔法をマスターしたと言えるというのが彼女の言葉だった。
「ずいぶんと君らしくない魔法陣だと思うな。ねぇ……?マリア」
ひとしきり分析を終えた僕は視線を少し上に向ける。
「……気安く、名前を呼ばないでもらっていいかしら?」
僕が視線を送った先から現れた場所より現れたのは一人の女性だった。
その紫の目の下には濃い隈が浮かび、長い黒髪は手入れされていないのか、ところどころ乱れている。
肌はどこか青白く、伏せがちな瞳には生気が薄い。唇から漏れる吐息さえも気怠げで、立っているだけなのにひどく疲れているように見える───だが、それでなお、人を魅了してやまない妖艶な美貌を持った絶世の美女であった。
「えー、酷いなぁ?」
その彼女こそ、僕たち勇者パーティの一人。魔女の二つ名を冠するマリアだった。
ご覧いただきありがとうございました。
ここより少しスクロールして広告の下にある『☆☆☆☆☆』から評価することが可能です。
ブクマ登録、いいねも合わせて評価していただけると幸いです。
また、感想は作品を作る上での大きなモチベとなります。
感想の方もお待ちしておりますので、気軽にお願いします。
表紙絵も公開しております。よろしければご覧ください。
カクヨムの近況ノート
『https://kakuyomu.jp/users/ninnjyasuraimu/news/2912051605226585125』




