ベッド
「大したことじゃないですよ」
エレノア王女殿下の賞賛の言葉に僕は首を振る。
「スライム程度に手こずっていたら冒険者なんてやっていられません」
僕もスライムだけど。
「別に?スライムを倒したことに対してじゃないわ。無詠唱、ノータイムであれほどの魔法を放てていることに驚いているのよ」
「魔法は少しばかり得意なのです。どうですか?」
「ん?」
「これで少しは自分のことを信じてくれる気になりましたか?」
「ん?別に、私は貴方のことを疑ったことないわよ」
「んっ!そうですか!それならよかったです」
エレノア王女殿下に関してはもう少し人を疑うべきだと思うけど。
「とりあえず、今日のところはもう帰りましょうか。五匹のスライムを狩れば、明日の飯代にはなるでしょう」
「え?これだけでいいの?」
「朝食と昼食くらいは食べられますよ。夜は明日の稼ぎで食べましょう」
諸々の支払いで僕の所持金がゼロになったわけじゃない。
「今日はここら辺で切り上げないと、買取業者が店じまいをしてしまいます」
「あっ、確かに。それもそうね」
既に日が傾いている。
帰りの時間を考えると、もうギリだ。これ以上時間をかけていると、買い取ってくれる店が無くなる。
「むー。にしても、私も戦うつもりだったんだけどな」
「それは明日にでもお願いします」
「はーい……私の強さも自慢したかったんだけどなぁ」
「えぇ、今日の僕の魔法くらいのものを自慢してくれると期待してしますよ」
「……やっぱいいわ。期待しないで待っていて」
「期待して待っていますね?」
「ちょっとー!」
エレノア王女殿下の実力は何となくわかる。
僕が最後に知る一年前よりも一段くらい強くなっているように感じる。
「貴方、良い割と良い性格しているわよね?」
「お褒め頂きありがとうございます」
僕とエレノア王女殿下は軽口を叩き合いながら、王都へと戻っていった。
そして、今。
「……のぉぉぉぉぉおおおおおおおおお」
「何をしているのですか?」
金を得て、宿屋へと帰ってきたエレノア王女殿下は何故か頭を抱えて叫んでいた。
僕は消音の魔法を使っていなければ、隣から苦情が来ていたことだろう。
「いや!……その、そのぉ!」
「はい」
「……あの、……今日、私たちはここで泊まることに、なるのよね?」
「えぇ、そのつもりですが。エレノア王女殿下に寝床があるというのでしたら、止めはしませんが」
「いや、野宿するつもりだったから、本当に助かるんだけどぉ……へへ、男女が二人同じ部屋というのはぁ」
「追われている身であるエレノア王女殿下を一人にするわけにもいかないでしょう。それに、二つ部屋を借りる方が高いのです。予算オーバーでした」
「むぅぅぅう」
「いやでしたら、僕が出て行ってもいいですが」
「そんな恩知らずなことは出来ないわ!」
「別に僕は構いませんよ?」
このスライムの体に睡眠は要らない。
本でも読んで余暇を潰すつもりだ。その場所がここでも、外でもそんな差はない。
「流石に駄目よ!」
「なら、どうするので?」
「このまま寝るしかない……寝るのよ!」
「別に襲いませんが」
「そこは信頼しているわよ」
「……えぇ?」
この、エレノア王女殿下の信頼の高さは一体何処から来ているのだろうか?
「ただ、私がちょっと恥ずかしくて寝られるきがしなくてぇー!」
しばらく、部屋の中にはエレノア王女殿下の叫び声が響いていた。
「……ぐごぉ……ぐごごご……すぴー……ぐがぁ……」
そして、その叫び声はすぐいびきへと変わる。
寝られる気がしないとうだうだ言っていたエレノア王女殿下はあっさり意識を手放した。
「元気なのはいいことだけどね」
昔から変わらないね、エレノア王女殿下は。
会った回数はそう多くないけど、それでもその元気さから結構記憶に強く残っている。その変わらない彼女の姿に少し微笑んだ僕は自分の手元だけ魔法で照らす。
そして、クネパス王国から持ってきた本のページを開いた。
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