事情
お金を持ってきていない。
そう叫んだエレノア王女殿下を連れて僕は宿屋へとやってきていた。
「それで?一体王女様がどうして逃げていたのですか?」
わざわざ高いお金を払って二人分の部屋を取った僕はいの一番にベッドへと飛び込んだエレノア王女殿下に疑問の言葉を投げかける。
「えーっとね?……始まりは、一緒に育った私付きのメイドが盗賊団に攫われてしまったことだったわ」
「盗賊団?」
「えぇ、そうよ。そう聞いた瞬間、私はすぐにお父様に掛け合ってメイドを助けるようお願いしたのだけど……お父様はメイド一人の為に騎士団を動かせない、って」
「……あの国王が?」
「そうなの!信じられないでしょう!?……だから、もう私だけでもリリーを助けに行くのよ!盗賊団に攫われて……誰も、助けに行かないなんて許さないわ」
「……ふぅむ」
盗賊、か。
ちょっとばかりきな臭いな。ただの盗賊団の可能性もあるが……ただの盗賊団風情が王宮に仕えるメイドを攫えるだろうか?
それに、王宮に仕えるメイドが攫われて国がそう黙っているかな?
ただの盗賊団を潰すくらい難しくないだろう。普通に犯罪組織なのだ。治安維持も兼ねて討伐してしまうのが自然だろう。
国が叩き潰すように苦労するようなデカい盗賊団なんて一年前はいなかったよな。
ルックス王国はたった一年でなりあがったばかりの盗賊団をつけあがらせるような生ぬるい国じゃなかったと思うんだけど。ルックス王国の今の国王陛下とか、政治と商業の国のトップとは思えないくらい血気盛んな人だったけど。
「ちなみに、そのメイドさんが攫われた状況はどんな感じだったのですか?」
「……あまり、詳しくは教えてもらえなかったわ。薬草採取の為に王都の街を少し出て行ったところを襲われたそうよ」
「なるほど」
少し、きな臭い。
良いね。これくらいきな臭い方が僕好みだ。うまくやれば、僕が成り上がる為のきっかけをつかめるかもしれない。僕は人間社会で影響力を持てればいい。
ただ普通にデカい盗賊団だったら、そこを乗っ取ってもいいよね。
「とはいっても、エレノア王女殿下は強かったですっけ?ミイラ取りがミイラになる可能性は?」
「……うっ」
僕の言葉にエレノア王女殿下は二の句を詰まらせる。
「そ、それでも!私は見過ごせないわ!誉ある王族の一人として、友が苦しんでいる状況をただ黙って見ていることなど出来ないわ。例え、この身が穢され、殺されようとも」
「その前にお金を稼ぐところからですけどね」
「えっ?」
「二人分の宿屋を取ったのでお金がもうそんなにないです。今日の分のご飯代しかないです。エレノア王女殿下も食べるでしょう?」
「わ、私の分もおごってくれるの!?」
「目の前でひもじそうにしている人の前で一人、ご飯を食べるようなことはしませんよ」
「……っ。とは言っても、そう長く共にいるわけじゃないし。もう一度、助けてもらっているのにこれ以上お世話になるのは」
「何を言っているのですか?ここまでご一緒したのです。見捨てたりはしないですよ」
ここでさようならするなら、二人分の宿をとらない。
「で、でも……そこまでしてもらうのは」
「どうせ、一人で戦ってもいい結果にはならないでしょう。遠慮なく頼ってください。僕は自由な冒険者。自由であるが為に、やることもそうないですから。盗賊団を倒せば金になるでしょうし、幾らでも力を貸しますよ」
「うぅ……」
「お任せあれ。僕が必ずやメイドさんを助けてあげましょう」
「わ、私の戦いに誰かを巻き込むわけには……」
「むっ、ここまで言わせておいて。また食い下がるのですか?それは逆に失礼ですよ?」
「……わ、わかったわ。そ、その……ありがとう」
「えぇ。ほら、顔を上げてください?貴方にその申し訳なさそうな態度は似合わないですよ」
「そうかしら?」
「はい。何時もの調子の方が魅力的ですよ」
「み、魅力……!?わ、わかったわ!それもそうね!明るく行くわ!」
「はい。そちらの方がいいですよ」
「ふふっ、ありがとう。ところで、貴方は冒険者としてのランクはどのくらい?」
「あぁ、今日登録したばかりです」
「駄目じゃない!?」
軽く答えた僕の言葉にエレノア王女殿下は頭を抱える。
うーん、元の調子に戻り過ぎじゃないだろうか?
■■■■■
僕たちが宿を出発した段階でもう既に昼はとうに過ぎ、日暮れが近づいてきているような時間帯だった。
とはいえ今日、何の依頼も受けずにほぼ無一文の状態で明日の朝を迎える訳にもいかない。
僕は王都を出た先に広がっている草原で生活しているスライムを倒す簡単な依頼を受けていた。
初めての同族殺しだ。
「これで五匹目」
とはいっても、別にスライムへの愛がある訳でもないので何の抵抗なく倒すけど。
天から落とした雷撃の魔法でスライムの体を消し飛ばす。
「何もないところからまた湧き上がってくるの不思議だよね」
一度は消し炭になって消えてしまったスライムの体を構成する液体が何もないところからまた湧き上がり、それを僕は採取する。
スライムを倒す時に吐き出すこのスライム液は数々のことに役立つ。
簡単に倒せるうえ、数も多いスライムなので供給も多いが、それに見合う需要もあるので常に一定の額になる。
「……凄い」
スライム討伐。
それを後ろからついてきて見ていたエレノア王女殿下が賞賛の声を漏らしていた。
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