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お転婆王女

「……赤」


 衝撃で地面に倒れた僕は目の前に広がる光景を口に出す。


「きゃー!?何を見ているのよ!?エッチ!さいてー!」


 その言葉を聞いた少女は立ち上がらず、僕の上に座りこんだ状態で騒ぎ始める……目に入ったパンツの色を何も考えず口に出した僕もあれだけど、そこで騒いでいても、僕の目の前の光景は何も変わらないけど。


「……何か言うよりも前に、退いてくれない?下敷きにされているんだけど」


「はっ!?す、すみません……!」


 僕が退いてとお願いしたことでようやく、上に乗っかっていた女の子が退いてくれる。


「……いたた」


 思いっきり頭を打ったせいで普通にちょっと潰れた。

 周りからバレないよう僕は人間への擬態を元に戻しながら、立ち上がる。頭が潰れる感覚って、こんな感じなんだね。


「す、すみません。いきなり上から押しつぶしちゃって。ちょ、ちょっと私の方もバタバタしていたと言いますか……いや、でもそんなの関係ないわよね。ごめんなさい。私の不注意で……あっ!?でも、パンツ!?」


 最初はペコペコ必死に謝っていたその女の子は突然、自分のスカートの裾を抑えて今度はこちらを強く睨み始める。

 ずいぶんと慌ただしい子だった。


「ふーん?」


 この子には見覚えがある。

 というか、普通に話したことがある。


「……エレノア王女殿下」


「あら?私の名前をご存知で?」


「そりゃあ、この国の王女様ですから」


 ルックス王国アウレリア王朝第十五代目国王ヴァルター・アウレリア。

 その一人娘こそが目の前のエレノア王女殿下だった。

 肩口で切り揃えられた金色の髪に、澄んだ青い瞳を持つ少女は王族らしい上品な顔立ちをしているが、その表情はどこかころころと変わりやすく、今も怒ったり慌てたりと忙しない。

 身に纏っている衣装も仕立ての良さが一目でわかる上等なものだが、今は土埃で少し汚れてしまっていた。


「ふ、ふふん!私も有名になったものね!」


「それで?何でその王女様ともあろう人がこんなところに?」


「ハッ!?そ、そうだったわ?!わ、私ちょっと追われてて」


「……追われている?」


 ルックス王国の王都で王女が追われている?……この国の政治は国王の元に盤石で、王女が追われるようなことにならないと思っていたんだけど。


「そ、そうなの。そ、そ、っ!?」


「黙って」

 

 追手の気配が迫ってくるのを感じた僕はエレノア王女殿下に自分の体から作った体を隠せるフード付きのローブを被せると共に、彼女の体を壁にまで押し付ける。

 そのまま僕は少し背伸びして自分の顔を、エレノア王女殿下に近づける。


「……っ」


 傍から見れば、裏路地で口づけを交わし、乳繰り合っているバカカップルだ。

 追手としてこちらに近づいてきていた人の気配は、此方の近くで少し止まった後に再び遠ざかっていく。


「……行ったか」


 完全に人の気配がなくなったところで僕はエレノア王女殿下から離れ、彼女の口を抑えていた自分の手を離す。


「当たり前のように建物の天井を駆け抜けていくなよ。転んで地面に落ちたら人を巻き込むっての」


 その被害は大きいんだよっ。

 まぁ、エレノア王女殿下を追いかけていたのはルックス王国の諜報機関の奴らっぽかったな。あの人たちがただの移動でヘマするわけもないか。


「……き、キスされたかと」


「さて、と」


 僕は追手が去っていた方角から、エレノア王女殿下の方に視線を戻す。


「一応、追手はまきましたよ」


「……えっ?」


「まけたかどうかは微妙ですけど、とりあえず一旦は誤魔化せましたね」


「な、なにが起きていたの?!」


「さっきですよ。追手の人間は僕とエレノア王女殿下を裏路地でキスしているカップルだと誤認して去っていきました」


「……あっ、あれはそういう」


「それで?これからどうしますか?」


「どうする……そ、そんなの決まっているわ!私はまだ目的を果たせていないもの。こんなところで追手に捕まっている場合じゃないわ。当然、逃げるわよ」


「そうですか。なら、とりあえず、これでも付けていてください」


「へぶっ!?」


 僕はエレノア王女殿下の顔面に自分の体の一部を叩きつける。

 擬態にスキルによって、その僕の体はエレノア王女殿下に偽りの顔を与える仮面になっていた。


「逃げるのでしょう?手助けいたしますよ」


「へっ?良いの?」


 僕の手伝うよ、という発言にエレノア王女殿下はあほ面を晒す。


「はい。知り合ったよしみです」


「良いの!ありがとう!助かるわ!」


 そして、すぐに信じてくれた。

 ここでほいほいと信じてしまうのは王族として、どうなのだろうか?

 まぁ、良いや。エレノア王女殿下が何故、この国の諜報機関から逃げているのか、気になるしね。何か、僕の為になるようなことが裏で起きてくれていると嬉しいんだけど。


「じゃあ、まずは宿屋に向かいましょう!そこで一旦、作戦会議ねっ!……って、はっ!?わ、私お金持っていないじゃない!?」


「……えぇ」


 何をしているのだろうか、この人は。

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