チンピラ
「……何か用?」
物珍しいが、今はちょっと勘弁してもらいたい。
あまりここで目立ちたくはない。僕は今、冒険者になったばかりなんだ。もめごとを起こしたら、冒険者証をはく奪されてしまう。
「お前、さっき冒険者登録したばかりだろ?」
「そうだけど」
「なら、俺たちのパーティーに入れよ」
「えっ、嫌だ」
僕の入るパーティーは、リーシア率いる勇者パーティーだけだ。
「……ァ?」
「おいおい、ガキ。冒険者になったばかりなんだから、先輩の言うことは聞いた方がいいぞ?」
僕としては自然な答えを返したつもりなのだが、目の前の男は表情を怒りでピクつかせ、強引に僕と肩を組んでくる。
「そうなの?」
「そうだよ」
「へぇ」
そんな敵意を剥き出しで言われても、まるで説得力はないけどね?
というか、今更ながら何でこいつは僕を同じパーティーに入れようとしているのだろう。
「それに、その剣」
男の視線が僕の背中に向く。
「お前みたいなガキが持つには、随分と立派じゃねぇか」
「そう?」
「あぁ。俺たちが有効活用してやるよ」
ふぅむ、なるほど。そういうことね。
「この剣?」
「そっ。お前みたいな初心者の餓鬼が持つには立派すぎる。代わりに俺が相応しい爪楊枝を見繕ってやるぜ?」
パーティー内で物を貸し借りするのはよくあることだ。
冒険者にはギルドの方から最低限のルールを守るよう強制されている。物を奪ったりは当然駄目だ。だからこそ、パーティーを組んでしまうのだろう。
パーティーを組み、借りたことにして物を奪う。
合法的なカツアゲだ。
「嫌だよ」
嫌、というか無理だ。
僕が背負っている剣は剣であって、剣じゃない。僕の体の一部だ。スライム体を剣に見せているだけ。
「あぁ!?」
無理なものに無理と言ったのだが、男の額に青筋が浮かぶ。
冷静な話し合いで解決はできない。
「……んー?」
僕はちらりと受付を見る。
受付嬢は困ったような顔をしている。
でも、まだ止めるつもりはないらしい。
まぁ、冒険者同士の揉め事なんて日常茶飯事だしね。これくらいでわざわざ口を挟んでくることもないか。
「おい、ガキ」
「何?」
「俺たちを舐めてんのか?」
「別にぃ?」
僕の肩を掴む男の手に力がこもる。
痛みで矯正しようとしてきていた。
とはいえ、目の前に立つ男はただのチンピラ。魔法力以外のステータス値でいれば、僕よりも高い気もするが、それでも僕は勇者パーティーの一員だ。
これくらいで臆したりはしない。
「ほっ」
「……ぁ?」
そして、僕はステータスでは測れない技術も持っている。
僕は足払いで肩を掴む男の体をふわりと宙にあげ、そのまま相手の腕を掴んで体を捻る。
「ぐあっ」
自分の背中で背負うようにして男を地面に投げつける。
「んじゃ」
無事に敵を一人、地面に叩き伏せた僕は軽く手を挙げてそのまま冒険者ギルドを去る。
「てめぇ!待ちやがれぇっ!」
それを大慌てで一度は地面に倒された男が追いかけてくる。
「お、お待ちを!」
慌てたように後ろから声をあげた受付嬢の言葉はもう誰も止めることはできなかった。
「何処に行きやがる!」
冒険者ギルドを飛び出した僕は、すらこらさっさと後ろから追いかけてくる三人の男たちから逃げるように走る。ちょうど、彼らが追いかけてこれそうな速度で。
「ここら辺でいいかな?」
「……何のつもりだ?餓鬼?こんなところで止まって」
そして、僕は人気のない裏路地の方にまで逃げてきた。
「裏路地なら、……ボッコボコにしてもバレないよねっ」
冒険者ギルドでボコしたら、僕が暴行で冒険者証を没収されてしまう。
だから、裏路地まで相手を誘い込んだ。ここなら、やり返しても問題にならないよね。
「……何だ、テメェ」
わかりやすい挑発に、絡んできた男たちは一気に臨戦態勢に入る。
「馬鹿な餓鬼にはちゃんと現実をわからせねぇとなァ!」
そして、攻撃に入るまでも早かった。
迷いなく背中に背負っていた大剣を手に取った男が迷いなく一歩、足を前に進める。
「それは僕のセリフかも?」
「ほざけっ!」
その瞬間を魔法で狙い撃つ。
僕が放った弱めの雷撃は男に反応する隙も与えずに撃ち抜き、その意識を混濁させて地面に転ばせる。
「んなっ!?魔法」
「魔法一つで足を止めちゃ駄目でしょ」
一人が倒されただけで足を止めてしまった二人も、僕は魔法で一気に拘束する。
「な、なんだ!?これ!?」
「は、離せぇ!?」
「……ぅあっ?」
蔓の魔法で三人を完全に拘束した僕はそのまま彼らを宙に吊るす。
「人の壊し方を知っている?」
吊るされた三人へと僕はゆっくり近づいていく。
「人に悪意を向けることって、悪いことなんだよ?」
「んだ、餓鬼っ!?」
「……でも、時には悪意には悪意を返さなきゃいけないこともある。じゃないとわからない愚か者もいるから」
一度は僕に地面へと倒された男の前に立った僕は彼の手を取り、そのままその指先に自分の体から作った針を突き刺す。
爪と肉の間。
そこを針が貫き、血が垂れ、男は思わぬ痛みに絶叫する。
「ぁぁぁぁああああああ!?」
その絶叫は何処にも響かない。消音の魔法を既に使っているから。
「ほら、耐えなくていいから。早くに諦めてねぇ?」
悪意には悪意を。
強烈な悪意を浴びせ続ければ、その悪意は恐怖へと変わり、萎んでいくことが多い。
僕は彼らから悪意が消えるまで、静かに攻撃を続けた。
「……うぁ」
「……すみませんすみません」
「はぁ……はぁ……はぁ……」
彼らが根をあげるまでにそんな時間はかからなかった。
「今日のことは静かにね!僕もこれ以上痛めつけたりはしないから!」
三人から悪意はなくなった。
逆恨みの復讐に走ることもないでしょう。僕の暴力行為はギルドにもバレていないし、完璧だ。
「よし、行くか」
ギルドに戻って今度こそ、依頼を受けよう。
僕は裏路地を後にし、ギルドへと戻っていく。
「退いてぇぇええええええええええええええええ!」
「んっ?」
少し進んで裏路地からもう抜けると言ったところで、僕は女の子の声を聞く。
上、からだったよね?
「……えぇ?」
声に反応して、僕が上を見上げると、そこにはひらひら舞うスカートと、女の子のケツがあった。
それが、ものすごい速度でこちらに降ってきていた。
上を見上げた時にはもう既に目と鼻の先で、全然反応出来なかった。
「ぶべっ」
僕は上から降ってくる女の子のお尻に踏みつぶされた。
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