ルックス王国
「……目的、か」
リーシアを自慢したい。
それが、僕の根本の、旅の理由───でも、それをリーシアに断られてしまった。それなのに、まだそれにこだわるのはちょっと自己中すぎるのかもしれない。
でもまぁ、リーシアとラルムは何も同意していない僕と勝手に同棲を始める気マンマンなんだし、どっちもどっちだよね?
「こうして、旅に出る方が性に合う」
僕は目的もなく、あの二人と一緒に辺境で暮らすのは嫌だった。
目的もなくただ生活して!と言われても、何をすればいいか、わからなくなっちゃう。
「うん。切り替え切り替え。普通に言えば、……いくら何でも魔王放置はあかんよね?致命的な未来を招く可能性も高いわけだし」
僕は自分のエゴを貫き、一人歩を進める。
「そろそろかな」
クネパス王国はちょっと駄目。
ラルムがいなくなってしまったこともあって、前線の維持でこれから苦労することになるだろう。
その介護をするつもりもない。
もとより、彼の国は騎士の国。武力を研ぎ澄ませ、国家の主要産業が傭兵業なんていう馬鹿げた国だ。だからこそ、ここまで魔王軍と戦えているという節もあるけど、この性質は僕の目的に合わない。
クネパス王国は政争と無縁。
僕の一端の目的は人間社会への影響を持ち、今度こそ僕たち勇者パーティーの味方になってもらう。
その為の暗躍を行うのに、政争と無縁な国はあまりに向いていない。ここに居ても、出来ることは何もなかった。
───レベルアップを確認しました。
自分の前で事切れた狼の魔物が数匹、草原に倒れていた。
「ふぅ、流石に魔法頼りじゃなくとも最低限は戦えるね」
スライムとして進化を重ねた今の僕のステータス値はまだ魔法力以外ようやく三ケタに乗ったところ。
200以下しないが、それでもステータス値的にはCランク下位程度はある。冒険者並びに兵士として、初心者を脱し、一端として認められるくらいの値だ。
それをこの便利なスライム体で振るえば、そこそこ強かった。
「完全に人のフリをして……よし。冒険者になろうか。王都も見えてきたことだし」
僕がやってきたのは人類社会で今、最も大きい国であるルックス王国だ。
魔王軍によってかつての覇権国家、ドスリカ帝国が滅ぼされて以来、最大の国土と人口を誇る大国であり、魔王軍との戦争においても中心的な役割を担っている国家だ。
クネパス王国が武力を重視する騎士の国なら、ルックス王国は政治と商業の国。
貴族同士の政争も盛んで、王都には様々な思惑を持った人間が集まっている。その一方で、冒険者や商人、傭兵なども多く集まるため、人間社会に影響を与えるならここ以上に適した場所はない。
僕たちの仲間だった魔女が生まれた国もここだった。
彼女が素直に母国に帰っているとはあんまり思えないけど……まぁ、この国で影響力を高めていけば、いずれ彼女の情報も転がってくるのではないだろうか。
「止まれ。身分証は?」
ルックスの王都、テフラン。
そこに入る為の門の列に並んでいた僕は自分の番になって身分証を求められる。
「ありません!」
とはいえ、今の僕に身分証なんてない。
「これから冒険者になろうと思っていまして。辺境の村から出てきました。身分証はこれから作ります」
でも、問題はない。
普通に作れてしまうので。
「……その成りでか?」
「はい!ほら、背中の剣が見えませんか?」
「いや、年齢と……その、眼帯で隠している目のことを言っているのだが。それで冒険者は厳しいだろう」
門番は僕の小さな背丈と、眼帯で隠している右目を指摘する。
自分の前に立ちふさがる彼から悪意は感じない。ただ、素直に心配してくれていた。
「あぁ、別に視力は失っていないのでご心配なく。ただ、……あの、自分は辺境の出でして」
僕の固有スキルが宿った右目はちょっと色が個性的すぎる。
一発で死んだはずのレイだと疑われてしまうので、眼帯で隠す必要があるのだ。
とはいえ、固有スキル持ちが眼帯で目を隠すこともそう不思議なことじゃなかったりする。辺境の村だと、固有スキル持ちを不吉の象徴として扱う例もあるからね。
今の僕のように隠す人も一定数いる。
「……固有スキル持ち、か?」
「ですっ」
「そうか。なら、その眼帯は外しておいた方がいいぞ。この王都はお前が生まれ育った村とは違う。心配することもない」
「……まだ、少し」
「そうか……よし!身分証を得れば、通行料を払わなくていいことを知っているな?」
「うん」
「うし!なら、さっさと冒険者ギルドに行って身分証を取ってこい。今日のところは俺がまけてやる」
「えっ!?良いんですか?!」
「あぁ、構わん。それで良いご飯でも食べろ。ほら、早く中に入りな」
「ありがとうございます!」
僕は門番さんに頭を下げ、王都へと入っていく。
「気をつけろよー!」
「はーい」
良いやぁ、良い人だったね。
リーシアとラルムの持っていたお金を少しくすねてきただけで、そんなにお金は持っていなかったから助かっちゃった。
「ふんふんふーん」
僕はいい気分のまま、王都を歩く。
ここに来たのは初めてじゃない。ある程度であれば、地図も頭の中に入っている。
ほどなく歩けば、僕は目的地だった冒険者ギルドについていた。
「お邪魔します」
扉を開けて中へと入る。
冒険者ギルド。
それは、魔物を討伐し、素材を集め、時には人々から依頼を受けて様々な仕事を請け負う者たちが集う場所だ。
冒険者という職業は、国によって扱いが違う。
例えば、クネパス王国なんかにはギルドそのものがなかったりする。
ギルドの存在が許している国は三分の二程度かな?
十分すぎるほど多いギルドに登録すると、ギルドのある国で使える身分証が手に入るのだ。これを目当てに登録する人間も多い。
このギルドの存在を知っていたら、迷いなく僕とリーシアは最初にやってくる国としてギルドのある国を選んでいたね。母国であるルーイ小国にも、クネパス王国にもなかったせいで僕たちがギルドの存在を知ったのは旅を進めてからだった。
これがあれば、旅の最初。公的な身分がなくて頭を抱える羽目にはならなかった。
「さて、と」
まずは冒険者登録だ。
僕は受付へと向かう。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
受付に座っていた女性が、僕に笑顔を向ける。
「冒険者になりたいんですけど」
「冒険者登録ですね。かしこまりました」
受付嬢は慣れた手つきで書類を取り出す。
「それでは、こちらに必要なものを記してください」
「はーい」
僕はペンを受け取り、さらさらと書き込んでいく。
「……十六歳」
書き終えた書類を受け取った受付嬢は年齢の部分で止まる。
嘘ではない。僕の前世の享年だ。自認は十六歳のまま……とはいえ、前世の僕でさえ周りから十六歳に見られないくらい幼いみたい見た目だった。
そして、今はそれ以上に幼い見た目だ。
十六歳には見てもらえていないかな。
「何か?」
「いえ、何でもありません」
とはいえ、そう踏み込んではこない。
直ぐに流してくれる。
「それでは、登録料として銀貨一枚をお願いできますか?」
「はい」
「ありがとうございます」
受付嬢はお金を受け取り、手続きを進めていく。
「それでは、冒険者としてのランクは最低ランクのFからとなります。依頼を達成することで実績を積み、昇格試験を受けることが可能です。ただ、登録一か月は試し期間です。昇格試験も受けられませんし、何か問題を起こせば、冒険者としての登録が打ち消されます。気を付けてください。」
「わかりました」
前から知っている冒険者についての長い説明を、僕は初めて聞く体で聞いていく。
「以上で登録は終了です。こちらが冒険者証になります」
差し出されたカードを受け取る。
「それでは、これからよろしくお願いしますね。」
「はい!よろしくお願いします!」
適当につけた仮名に頷く。
これで僕も、今日から冒険者だ。
「さて、じゃあ早速依頼でも受けようかな」
「おい」
「ん?」
僕が掲示板へ向かおうとしたところだった。
背後から声をかけられる。
「お前」
「僕?」
「あぁ、お前だよ」
振り返ると、そこには三人の男が立っていた。
その見た目は明らかに粗暴で、チンピラとしか言えないような奴らだった。
「……おぉ」
どうやら、僕は前世で勇者パーティーとして登録した時には出会わなかった、色々なところで伝え聞く初心者狩りに出会ったようだった。
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