軟禁
「……そんな、駄目だよ」
僕はリーシアの言葉を否定する。
「僕たちは勇者パーティーなんだよ。魔王軍と戦わないなんて、許されるわけがないっ」
「勝手に与えられた名前よ。私に、魔王と戦う理由なんてないわ」
「そんな!?」
「逆に、レイは何でそんな魔王軍と戦おうとするの?……レイにだって、私しかいなかったじゃない。魔王軍と戦おうとする理由は何?」
「えっ……」
リーシア言葉に対して、僕は一度、言葉を詰まらせる。
「……ないの?なら、別にいいじゃない」
「そ、そんなことないよ……!……僕は、みんなにリーシアのことを知ってほしい。リーシアが立派な勇者だって、周りから認められてほしいんだ」
あの日見た、リーシアの美しさを自慢したいんだ。
「私はレイさえいてくれればいいわ」
「……」
僕は一度、口を閉じる。
「別に、私は自分の価値を認めてもらおうなんて思わないわ。また、あの幼少期のように、二人で平和に暮らしましょう?」
「……」
……。
……………。
それなら、別に忌み子の僕がリーシアの隣にいる必要がないじゃないか……あの時と、同じ。村で過ごしていた時のような、小さな世界に閉じ込められてただ二人でいるだけの生活は、何処か嫌だった。
何か、もやもやするのだ───僕が、何かをしたかった。
「むむむっ」
悩んだ末、僕はリーシアの言葉に首を振る。
「だとしても、魔王軍は人類の敵。すなわち、僕たちの敵でもあるんだよ?魔王軍を放置していい理由にはならなくない?魔王軍がいたままで生活なんて……」
「別に魔王軍の目的は人類を滅ぼすことじゃないわ」
食い下がる僕の言葉をリーシアは迷いなく両断する。
「別に、わざわざ犠牲を払って田舎で暮らしている私たちに魔王軍が干渉してくる理由はないわ」
「でも、そうならない保証もないじゃないか」
「だったら、その時の為に私たちは田舎で訓練して過ごしましょう?戦わずとも、私たちで高め合っている方がステータスは伸びるわ」
「今の僕は敵を倒すことで強くなるんだけど」
「魔物と戦えばいいわ。魔族じゃなくてね。魔物が多く生息して、魔王軍の管理下にない森林にでも向かいましょうか」
「僕たち三人だけで魔王軍と戦うなんて現実的じゃないよ。味方が必要だよ」
「そもそもとして、人間社会だって私たちの味方ではなく、敵。結局どういっても私たちは私たちだけで戦うのだから、関係ないわ」
「そんなことないよ。味方してくれる人だっていたし、みんながみんな敵だったわけじゃない」
「レイが死ぬのを容認した人たちなんて知らないわ。全員死ねばいい」
「まったくだな」
「……二人とも」
二人の態度は頑なだった。
「それでもっ」
だけど、僕も引くつもりはなかった。
「やっぱり僕たちゆっ、むにゅ」
言葉の途中、僕は自分の頬をリーシアとラルムの二人に潰される。
「もういいじゃない。私たちは私たちの生活を送りましょう」
「まずは家探しからだな。何処で私たちの生活を送るか」
「それなら、私に任せて?一年間……未練たらしく、レイとここで暮らしたいなぁ、なんて考えながら各地に小屋を建てていたのよ」
「……何をしているんだ。お前は」
「言わないで頂戴。私でも虚無の作業をしていたと思っているわ。でも、それが結果的に成功しているのだから良いでしょう?」
「……むむむ」
勝手に話が進んでいく。
「ほら、行きましょう?」
……駄目、かな。
今ここで言い争っても、二人は絶対に折れてくれなそうだ。
まずは、落ち着いてもらうところから……説得は、それから。きっと、わかってくれる。
「じゃあ、レイ」
「ん?」
「体を二つに分けて?」
「……何で?」
「今のレイは二つの体を同時に動かせるんでしょう?レイだけを戦いの場には連れ出さないわ」
「あぁ、そうだ。私とリーシア。それぞれでお前をもって、逃がさないようにしてやる」
「……わかった」
綺麗にバレていらぁ。
僕はリーシアの言葉に大人しく頷き、体を二つに分ける。
「よし!それじゃあ、一緒に家へと向かいましょうか」
「あぁ、ちゃんと良い場所を選んでくれよ?」
「……これ。僕、軟禁状態にされるやつだよね?」
「「……ハハっ!」」
体を二つ。それぞれが二人と手を繋いだ状態の僕は大人しく、彼女が用意していたという小屋へと向かうのだった。
それからしばらく。
「……まぁ、三体目がいるからいいんだけど」
二人がいなくなった天幕で再び、僕は三体目の自分を動かす。
進化の結果、僕の分身体はもう一人増えている。
「さて、これからどうしようか」
まだ、僕が再会できたのはリーシアとラルムの二人しかいない。
勇者パーティーの本格再開は他のみんなと再会してからもいいでしょう。
「それに、前回みたいなことにならないようにもしないと」
前は人間社会に僕たちを受け入れさせるのに苦戦し、結果、僕が死んでしまった。
今回こそ、うまく人間社会を味方につけたい。他の二人を探す中で、どうせ必要になる人間社会を味方につける為、暗躍してもいい。
「今回の僕は生き返れるからな」
この体が爆裂四散しても、二人と一緒にいた僕たちが残っていれば死ぬことはない。
今度こそ、うまくやれる。
「……とはいえ、だ」
前回の反省は、しっかり活かそう。
前は一人でやって失敗した。今度は誰かの手を借りよう。
「まずは、……魔女かな」
魔女、その二つ名を持っていたあの人は極端に人への興味が薄く、魔法にしか興味を示さない人だったけど、恐ろしいほどに頭が切れる。
人間社会を味方につけようとする際、彼女の頭脳はきっと役に立ってくれる。
「僕が頼んだら、力になってくれるかな……?」
あの人と魔法について語り合えたのは僕だったらしく、結構仲良くしていた。
多分、僕が頼んだら……興味ないことでも力を貸してくれるよね?そうだと良いな。
そんなことを考えながら一人の僕も動き出した。
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