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世情

 僕がその疑問に答えを出すよりも前に、草木を踏み分ける音が近づいてきていた。


「はぁ……はぁ……」


 息を切らしながら現れたのは、五人の男女だった。

 鎧は血で汚れ、服は裂け、誰もが疲労困憊。

 その胸には王国騎士団の紋章が刻まれていた。


「(レックス王国の騎士団か)」

 

 その紋章には見覚えがある。

 彼の、国は最前線より後方の王国だったはずだ。

 当たりだ。明確な当たり。騎士団と接触出来たのであれば、簡単に今の情勢について知れるはずだ。


「ゆ、勇者様……!」

 

 その王国の騎士団の一人がリーシアへと縋りつく。


「まだ、ここにいらしていたのですね……どうか、どうかお願いですっ!」


「……何?」


「今、我が国が落とされる瀬戸際にあるのです!どうか……どうか、お慈悲を……我らをお救いください」


「私には関係ないわ」


「(……えっ?)」


 縋りつく騎士団の言葉に対し、リーシアが冷たく言い放った言葉に僕は硬直する。


「れ、……レイ、様についてはまことに残念でした……ですがっ」


「……感謝、してほしいわ」

 

 リーシアの声に感情はなかった。


「私からレイを奪ったお前ら人類を、……私が滅ぼしていないことを」


「……レイ様が亡くなられ、リーシア様たち勇者パーティーが解散して早いことでもう一年!我々人類は窮地に立たされています!きっと、この状況をレイ様も望んでおられないはずです。あの人は生前、リーシア様が人類の救世主となることを望んでおられ、その為に───」


「貴方がッ!?私のレイを語らないでっ!?」


 絶叫。


「……くどい。私の前から消えなさい」


 それから、また冷たい言葉だった。


「殺してもいいのよ?」

 

 リーシアは腰に下げていた剣を抜く。

 ゆらりと剣を持つリーシアの表情からは何の感情は見えない。


「……っごく」


 ただ、その立ち姿からはその言葉が嘘ではないと十二分に感じられた。


「(……りー、しあ)」


 その手に握られているのは生前の記憶と変わらない、勇者のみに持つことの許される聖剣だった。

 だが、その立ち姿はあまりに違う。その、矛先を向ける先も。

 ただ、聖剣だけが相も変わらず神々しい光を放っていた。


「こ、殺されても構いませんとも!国が!人が滅ぶという中で!ここで死のうとも、少し先で死のうとも!いずれも差異などありません!どうか、リーシア様!人類の為にッ!」


 首元に、剣を突きつけられる寸前。

 それでも、騎士団の一人は叫ぶ。叫んで、助けを乞う。


「……そう」


 このままじゃ、本当にリーシアが人を殺してしまう。

 そんなの、見たくない。


「(……何か!)」


 僕は咄嗟に騎士団の面々から逃げるように後ろへと進みだす。


「……スライムちゃん?」


 その、僕にリーシアは反応してくれた。


「……散りなさい。置いていかないで……もう、置いて、いかれるのはっ」

 

 騎士団の面々から視線を外したリーシアが目論見通り僕の後に着いてきてくれる。


「お、お待ちを!」


「た、隊長!もう無理ですって!?」


 騎士団の、人たちには申し訳ないが、ここはこれが最善手だと思う。

 僕は彼らが見えなくなるまで前に突き進み続ける。

 世情は、知れた。得たいものは……得られ、得られ……。


「(のぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!?)」


 すべてが、……すべてが裏目っているぅっ!?

 僕は悲鳴をあげる。

 最悪、最悪の状況だ。

 聞いた話を整理すると、僕が人の策に嵌められて殺されてしまったことにリーシアが激怒。そのままにリーシアは勇者さえも辞めてしまい、流れで勇者パーティーそのものも解散。

 要であった勇者を失った人類は魔王軍を前に惨敗を重ね、僕の記憶の中では後方の国であったレックス王国すら、滅亡際の状況というわけで……どういうわけだよぉぉぉぉおお!

 

「(そ、そんなに大事だった……?ま、まぁ、でも確かにそうかっ)」


 ずっと一緒だった幼馴染の仲間が人間の手で殺されているのに、これまで通りすんなり勇者として戦います!ってのは無理があったか!

 いや、……でも、今振り返ってもあの状況になるのは仕方なかったんだけどぉ……くぅ、僕の目論見があまりにも甘かった。

 で、でも、大丈夫だ。

 僕はここにいる。まだ、居るんだ。全然、自分の生に満足している場合じゃなかった。やることは無限にあった。

 ここで僕がここにいるとリーシアに伝え、また旅立ちの日のようにもう一度、魔王討伐の旅を誘えば、……誘えば?


「(喋れないぃぃぃいいいいいいいいいい!?)」


 このスライムボディでは、リーシアと意思疎通が出来ない!

 喋れないし、何なら手もないから文字を書いて、とかもできない。ど、ど、どうしよう!せっかく生き返れたのに何も出来ない!


「……何処に、行くのかな?」


 動揺の中、……何処に、そう。何処に行くのか、だ。


「(ま、まだだ……僕はまだ、諦めないぞ)」

 

 光明は進化だ。

 これが何をさせているのかわからないが、進化を重ねれば、魔物としての格が上がっていつかは喋れるようになるかもしれない。

 喋れる高位の魔物もそう珍しくはない。


「(進むべき道は、見えた)」


 レベルを上げ、進化を重ね、またリーシアを言葉を重ねるようにする。それが、今の僕の進むべき道だ。

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