再会
「レイ……久しぶりのレイだ」
「会いたかった……ずっと、ずっと、会いたかったんだ」
立ち上がるだけで過保護を発動させていた二人は今、彼女たちそれぞれに渡した僕の分身体を抱きしめ、ご満悦な表情を浮かべていた。
「ずっと、寂しかったんだからぁ……何で、何で死んじゃったのよぉ」
「私……私は、ずっと頑張ったんだぞ。お前がいなくなった後も」
涙を流し、僕の体をすりすりしているさまを見るのは、自分が愛されていたのだと改めて感じさせてニヤつきそうになるのだが、ずっとこのままと言うわけにもいかない。
「よっと」
「「あっ!?」」
二人の腕の中で好き放題するのを許していた僕の体を消し、新しく作れるようになった三体目の分身体に体を集約させる。
「いい加減、僕を解放してよ……ふふっ、見てて?」
僕は自分の体を変形させていく。
「スライムっぽさある方がいいよね?」
元の僕の人化はあまりに普通の人間過ぎた。
髪の毛にちょっと手を入れていく。髪を伸ばし、髪色に水色だけではなく虹色を足していく。そして、一部を更に伸ばして触手のようにしならせる。
ここまでやれば、もう立派な魔物だ。ついでに、人化した時についてくる服装にも手を加える。
指とかも別に要らないかな。手と服を混ぜ、そのまま一つの大きな腕にする。
「自由自在」
自由自在な腕だ。形を剣に変えたり、ハンマーに変えたり。スライムらしい自由な腕を作り出す。ついでとばかりにこの腕の先も虹色にしよ。単色だとつまらないし。
そんなには無理だけど、伸ばすことだってできる。
「でっかいハンマーにしてぶん殴ったりもできる」
ちなみに馬鹿でも思いつく最強戦術。
でっかくした腕でぶん殴って空間断絶、というのは出来なかった。ちゃんと小さな手のひらからじゃないと発動出来なかった。
僕の切り札と言える空間断絶だが、相変わらず発動に際しての条件がよくわからない。スライム体では普通に発動出来たんだけどね?
「女の子になることだって出来る。便利だねぇ」
戦闘面以外の差もある。
僕は見た目をがらりと変え、女の子の見た目を取る。
「「戻って」」
「……あっ、うん」
だが、それはリーシアとラルムには刺さらなかった。
真顔で詰め寄ってきた二人を前に僕はすぐ女装を辞める。
「んじゃ、この姿で」
一度、作った半人半スライムの姿に戻った僕は二人の前で椅子に腰かける。
「改めて……久しぶり、二人とも」
久しぶり。
僕からしてみれば、そう久しぶりでもない。でも、二人にとってはそうじゃなかったはずだ。表情が歪み、再び泣きそうになる。
「待たせたね」
「ほんとよ!」
「……あぁ」
再び、二人は僕へと抱き着いてくる。
「改めて……久しぶり、二人とも」
その二人を抱き返して告げる僕の言葉に、二人は何も返さなかった。
ただ、力強く抱きしめて、僕を見つめる。
何も言えず、ただ抱きしめていた。
「……レイ」
リーシアが、ポツリと言葉を漏らす。
「本当に……レイなの?」
「うん」
「夢じゃない?」
「夢じゃないよ」
リーシアは恐る恐る僕の頬へ手を伸ばす。
指先が触れる。
温かい。
生きている人の温もりだった。人化した僕にはちゃんと体温もあった。
「……あったかい」
その一言を漏らした瞬間、また彼女の瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。
「ほんとに……生きてる」
「うん」
「ほんとに、レイなのね……」
「うん」
「……ほんとの、本当に?」
「本当だよ。そんな何度も確認しないで?」
「しんじ、られないのよ……これが、夢じゃないって。貴方がいると……信じて、その後……また一人になったら、私は本当にどうにかなっちゃいそうで……私はぁ」
「ごめん……でも、僕はここにいるよ」
「会いたかった……っ」
震える声。
細い肩も震えていた。
「毎日探したの」
「……」
「夢の中では何度も会えた。でも朝になると、またいなくなって」
腕に込められる力が強くなる。
「リーシア……」
「だから全部どうでもよくなったの。人類なんて滅べばいいって、本気で思った」
その声には、勇者の面影はなかった。
ただ、大切な人を失った少女が泣いているだけだった。
「ごめん」
僕は静かに彼女の頭へ手を置く。
「待たせちゃったね」
「……良かった。良かったよぉ。いるんだよね……?ちゃんと、私が触っているのは、レイなのよね?再会、出来たのよね?」
「うん。リーシア。また」
「私は……ちゃんと、レイをっ」
一緒にオルスロイと戦った。
気絶しちゃった僕をここまで運んでくれただろうし、さっきだって散々と僕の体をこねくり回していた。
それでも、得られなかった実感をリーシアはようやく胸に抱える。ようやく、再会できた。
「ラルムも……ね?」
リーシアが泣き続ける中で、僕はもう一人。隣で俯き、小刻みに肩を震わせているラルムにも声をかける。
「謝らせて、くれ」
震えた声だった。
「全部、私のせいだ」
「違うよ」
私のせい。
その、いきなりな言葉に僕は何も驚かない。だって、何度も彼女の口から聞いていた言葉だったから。
「違わない!」
ラルムは顔を上げる。
涙でぐしゃぐしゃになった顔だった。
「私が弱かった!」
「……」
「私が、お前を守れなかった!守るべきは私だったのだ!?」
叫ぶ。
これまでずっと胸に押し込めていたものを吐き出すように。
「お前が死んだ日から、一日だって忘れたことはない!」
「ラルム」
「私が王族として背負うべきものを、お前に背負わせた!私が愚かだったから……お前ばかり、苦労することになったんだ。私が、押し付けたせいで……レイは」
「ラルム」
「……」
「別に、僕は押し付けられたなんて思っていないよ。ただ、僕が好きでやっていたんだ」
弱かったのは、僕の方なのだ。
ラルムのせいになんて、出来ない。
「頑張ったね」
「……違う。違う!?私は何も頑張れなかった!」
「でも、ラルムは最後まで戦っていてくれたでしょう?」
「……っ」
「ラルムのおかげで、クネパス王国は残っている。僕がいなくなった後も、僕の想いを汲んで戦ってくれたんでしょう?」
「でも、私は一番守りたかった人を守れなかった」
「ラルム。僕は守られるほど弱くないよ。君だって、僕に守られるばかりじゃない。ふふっ、ラルム。自分のことを高く見積もっちゃ駄目だよ?王侯貴族とのやり取りで、頼るとしてもそれはラルムじゃなくて、魔女の方かな?別にラルム、頭いい方じゃないじゃん?一番苦手まであるでしょ。王族だからって、馬鹿なラルムが僕よりもうまくやれた、なんて心外だなぁ~、僕の方がうまくやれるよ」
「そ、そんな!?」
「……でも、違ったね。ラルムは僕がいなくなった後も一人で戦って、国を守り続けた。僕が、ラルムのことを見くびっていた。ごめんね?……それで、ありがとう。戦い続けてくれて」
「わ、私は、……私はレイに認められる、戦いぶりだったか?」
「もちろん」
僕はラルムの言葉に迷いなく頷く。
「あぁ……そうか」
それを聞いたラルムは小さく笑い、そのまま僕から手を離してその場に座りこむ。
「苦しかった……」
それだけだった。
姫騎士でも、英雄でもない。
一人の少女の、本音だった。
「苦しかったぁ……!」
僕は何も言わず、彼女に続いてしゃがみ込んで、その背中を撫でる。
「ごめんねぇ……二人とも」
リーシアも、ラルムも、僕のすぐ近くで泣き続ける。
戻って来られた。
二人の涙は、僕の罪だ。
弱くて、愚かで、安易な解決策に飛びついた僕の罰。彼女たちの苦しさは、僕のせいだ。
一度は、失敗してしまった───だけど、二度目はない。
「……次は、泣かせないから」
そんな、覚悟と共に二人を強く抱きしめ続けた。
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