魔眼
固有スキルは瞳に宿る。
その、固有スキルの宿った瞳のことを魔眼───そう、呼ぶ地域もあった。
「魔眼解放」
進化によって得たスキル『人化』により、僕は再び人間の姿を取ることが出来た。
その、最も大きな恩恵は瞳を得たこと───固有スキルは、ただのスキルでは終わらない。
「……ッ!?」
ラルムに向かって迫ってきていたオルスロイの拳に対して空間断絶を合わせることで切断すると共に、彼を僕の視界の端に転移で遠くに飛ばす。
「……くハッ!かっかっか!実に面白い!よもや!あのレイが魔物になっているとはっ!」
「レイ……ッ!」
いきなり現れた僕に対し、オルスロイは笑い、スロースは歯ぎしりする。
「嘘……っ」
そして、逃げようとしていたリーシアの反応も劇的だった。
「レイ……嘘、なんで!?死んだはずじゃっ!?」
あり得ないと言った表情を浮かべて僕の前に立ち、肩を掴む。
「……レイの匂いだレイの体温だレイのレイのレイの」
ついでに言うと、ラルムは何故か前に出た僕の背中に顔を埋めてぶつぶつとつぶやいていた。
傷を治して欲しいのに、まるで傷を治すような素振りを見せなかった。何をやっているんだ。
「あぁ……レイだ。レイ。間違える、わけがないっ……またっ」
リーシアは静かに瞳から涙を流し、僕を力強く抱きしめる。
「うっさい!」
そのリーシアを僕は心を鬼にして遠ざける。
「御託は後!さっさと敵を倒すよっ!」
そして、彼女の手を取ってそのままくるり。僕は強引にリーシアと前を向く。
忘れちゃいけない。今、僕たちの前にはオルスロイも、スロースもいる。まだ全然ピンチのままだ。
「ラルムは一旦、回復。リーシアはオルスロイをお願い。僕がスロースを倒す」
「……えぇ、わかった。わかったわ」
僕の言葉にリーシアは頷き、繋いでいる手をぎゅっと握り返してくる。
「あぁ、……レイのお願いを聞くのも、久しぶりねっ」
「じゃあ、そういうことでっ」
「あっ……」
僕は自分の体を再びスライムに戻し、そのまま疾走。スロースの方に向かって行く。
「一度!僕から逃げたお前が、平然と倒すなんて言ってくれるなぁっ!」
スロースは虚空より剣を引き抜き、地面を走っていた僕に向かって振り下ろす。
「今日の僕は万全な状態だよ」
その剣を僕は己の体を変形させることで回避し、再び人に戻る。
「……ッ!?」
目の前に立つスロースの首に向かって僕は自分の手を伸ばす。
その手をスロースは大袈裟にのけ反って回避する。強引な回避で態勢を崩したスロースに向かって僕は攻撃魔法を放つ。
「舐めるなぁッ!」
放った雷撃をスロースはギリギリのところで結界を展開して防ぎ、再び至近距離から剣を振るう。
それに僕は反応できず、普通に首を落とされる。
「……うぅーん」
首が落ちた、と言っても僕の体はスライム。再び首を生やすことも出来る。
斬撃による攻撃を特に問題とはせず、僕は後ろに下がって詰めた距離を離す。
それにしても、進化したと言ってもまだまだステータス足りないから接近戦は無理だね、これ。というか、何処まで言っても僕が優れているステータスは魔法力くらいなものだが、それもスロースを相手に圧倒しているわけじゃない。
本当に、僕がスロースを倒すなら、一瞬のチャンスを掴むしかない。
「ふぅ……」
息を吐く。
右目に魔力を集中させる───チャンスは一度、確実に。
「ほら」
僕は手を振り、炎の津波でもってスロースを呑みつくそうとする。
その炎の津波に対して、スロースは己を守る結界を展開して強引に僕の方へと突き進んでくる。
炎の津波を一切、障害として見ていない様子だった。そのスロースの足を止める為、僕は再び魔法を発動。今度は膨大な水を天より落とす。
「……ッ!?」
炎と水。
それがぶつかり合い、水蒸気爆発が起こる。
爆風が吹き荒れ、砂埃と煙がこの場を覆う。視界を塞いだ中で僕は幾重もの魔法を同時に発動させる。スロースの周辺に浮かばせた魔力の塊が、純粋な魔力を光線として放つ。
何十発と放ったが、当たった感触はない。
「面倒なことをっ!」
でも、これらはすべてブラフだ。
スロースが風の魔法でもって視界を塞ぐ爆発の余波を消し飛ばした───その瞬間。
「さようなら」
僕は転移を発動させ、スロースのすぐ背後を取る。
手は、彼の首に沿わせていた。
「ふざっ───」
スロースの首が落ち、その中でも動いていた彼の腕は宙を切った。
「一人目」
既に僕は転移で離脱していた。
スロースが崩れ落ちたのを確認し、僕は視線をオルスロイの方に向ける。
「恐ろしいコンボだ」
その彼は、戦っていたリーシアではなく、僕の方を見ていた。
「その瞳。紋様。ずいぶんと固有スキルが拡張されたようだ。今のは……そうだな。己が見た場所に魔力を出現させていたな?好きな場所に、一瞬で転移出来るのは恐ろしいな。反応が無理なわけではないが、混戦の中だと絶望よ」
「そう思うなら、素直に引いてくれてもいいけど?」
息が荒れそうになるのを、僕は必死に抑えながらオルスロイに言葉を返す。
「ふむ。そうだな。リーシアよ」
「何かしら?」
「かつての仲間との再会を祝いたいだろう。素直に我を見逃さぬが?この場はもう満足だ」
「……どうする?レイ」
「そうだね。僕の、情報が伝達されちゃうのは嫌だけど……まぁ、良いか。この場の全員を殺せるわけじゃないからね」
ラルムも既に回復は済んでいる。
三人で戦えれば、勝算もある。だが、これ以上の戦いは苦しいところもあった。
「らしいわ?どうぞ」
「かっかっか!我は満足よ!ではな、勇者たちよ。また会おうぞ」
オルスロイはゆっくりと、悠々撤退していく。
その後を、僕たちが追撃することはなかった。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
いなく、なっただろうか?
オルスロイがいなくなったのを確認した後、僕は固有スキルの発動を切る。
「「……ッ!?」」
その次の瞬間、僕は崩れ落ち、自分の手で口を抑える。
「おえぇぇえええええ」
吐き出したのは血、───ではなく、水色のスライムだった。
これが、今の僕の血なんだなぁ。
「「レイっ!?」」
大慌てで駆け寄ってくるリーシアとラルムを見ながら、そんな呑気なことをぼんやり考えていた。
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