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理由

 寒い。

 冷たい。

 体が燃え滾るように熱い。血に体が沈み、息が荒れる。


「……ぁア」


 視界の端でリーシアがイムを連れて逃げようとしているのがわかる。

 あぁ、……私も逃げたい。にげ、たいよ……。

 

「ごふっ」


 剣を振るのが嫌いだった。

 延々と素振りをする中でマメが出来て。そのマメを潰すほどに剣を振って。

 それは痛くて、疲れて、本当に嫌だった。


 戦うのが嫌いだった。

 怪我をするのは痛い。誰かの命を奪うことさえ、嫌だった。


 それでも、私は認めて欲しかった。

 誰かに見て欲しかった。父上に認められたくて、だから、一生懸命自分の出来ることをやり続けた。

 それでも、ついぞ父上が私のことを認めることがなかった。見ることさえ、なかった。


「……レイ」


 だけど、私は光を見つけた。

 レイに出会った。私の人生はレイそのものになった。


 レイが死んだ。私のせいで。


 どうすれば、許してもらえるだろうか?私の怠惰で……レイが死んだ。人生から、光が消えた。

 剣を振る理由も、戦う理由も、何もかもが消えていった。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 リーシアが逃げに徹すれば、それに追いつけはしない。

 オルスロイも、スロースも、私の息の根を止めようと近づいてきていた。


「……ァァァァアアアアッ!」

 

 戦わなきゃ……立ち上がらなきゃ。

 逃げることを、諦めることを、レイは望んでいない。

 

「……レイに」


 私は立ち上がり、剣を構える。


「まだ立ち上がるか、素晴らしき覚悟よ。戦士として、報いよう」


「……油断は、しないでくださいね?」


 眩む視界の中で、オルスロイが拳を握り、こちらへと向かってくる。

 もはや、私はそれに反応することも出来なかった。

 あぁ……ここで私は死ぬ。


「ここ、で……剣を降ろしたら、レイに顔向けが……死んだ後も、レイに会えない。だ、からぁ」


 私は死ぬために戦った。

 死んで、立派に戦ったとレイに誇れるよう。

 

「レイ……また、会えるかな」


 あぁ、……ようやく私の旅が終わってくれた。



「ごめんね」


 

 声が聞こえる。

 背中に誰かの体重を感じ、ひんやりとした感触を覚える。


「先に、倒れちゃって」


 線の細い少年。

 レイは白い髪と幼げな相貌を持った男の子だった。

 

「でも、大丈夫。ラルムは少し、休んでいて」


 いつの間にか私の背後にいたその少年は少し、違った。

 線の細い体、幼げな相貌。それは変わらない。

 だが、薄い青色の髪はレイと違うし、背丈も彼より小さいように思える。私の肩を掴む手のひらの大きさだって、数センチも小さかった。


「レイ……!」


 だけど、その瞳はあの頃と何も変わっていない。


「魔眼解放」


 私を、私を見てくれるレイの虹色の瞳が輝きを増す。

 そして、その虹色は顔まで広がっていく。

 レイの瞳を中心として、虹の輝きを携えた薔薇の紋様が広がっていった。

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