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足掻き

 ラルムの口から血が垂れる。


「……ぐっ!?」


 だが、彼女の四肢から力が抜けることはなかった。

 その右手で己の心臓を貫いた剣を掴み、引き抜かれないように固定する。


「ラルムっ!?」


 そのラルムとスロースがもう一度やり合うよりも、一度は前に出たリーシアの戻る時間の方が短い。

  

「おっと」


 リーシアがスロースに向かって聖剣を振るい、彼は大人しく手から剣を離して引いていく。


「(ふ、ぐっ!?)」


 その代わりとして、僕がオルスロイの前に立って距離をつめようとする彼を体で止める。

 体当たりされた僕の体は当然のように粉砕されるが、また僕は新しい分身体を生成。粉砕された自分の体を活用して、オルスロイの体を拘束して動きを無理やりにでも止める。


「……スライム、か。あそこで戦っているスライムと同個体か。どちらも殺さねば、殺せぬ。なるほど。厄介な相手だ」


「(まぁ、よっぽどの馬鹿でもなきゃ勘づくよねぇっ)」


 分身体を活用した僕の再生は普通に一度、見せただけで種がバレて当然の代物だ。

 二体、同時に狙われれば終わりだ。


「退くか」


 僕は素直にもう一人の僕を撤退させ、隠れる。


「(まだ、死ぬわけにはいかないからね)」


 今度こそ、リーシアたちを置いていかずに勝ってみせる。

 それが、出来なければ僕がこうしてまた生を謳歌している意味がなくなってしまう。


「回復魔法は?」


「……最低限、はっ」


 視界の端では一度、スロースを退かせたリーシアとラルムは、突き刺された心臓の傷の手当てをしていた。

 回復魔法をかけながら慎重に剣を抜いて出血を抑え、心臓の鼓動を強引に再開させる。


「(あの子がここにいないことが悔やまれるね)」


 聖女と呼ばれた子がいれば、一瞬で終わっただろうに。


「(……ふぅー、どうするか)」


 状況は最悪だ。

 僕がオルスロイを牽制し、リーシアがスロースを牽制。ラルムは自分の回復。


「さて、何時出るか……どれ」


 リーシアは牽制になっている。

 だけど、僕は別にそうじゃなかった。

 軽い動きで距離を詰めてきたオルスロイにこのスライムの体では何も反応出来ない。ただ戟で潰される。


「ふむ。それを防げぬな?」


 だが、代わりに空間断絶で戟を根本から折ってやる。


「戻りも早い……転移か。まことに不思議な存在よ。手痛い反撃を喰らっておる場合でもないな」


 オルスロイは若干首を庇うような姿勢になりながら、僕と相対する。

 空間断絶。この一撃必殺技だけで僕はオルスロイへの牽制を担っているフリが出来ていた。


「別に無視すればいい」


 あくまで、フリ。

 一瞬でオルスロイは僕を捨て置き、リーシアとラルムを狙っていく。


「くっ!?」


 リーシアは折れた戟を投げ捨てて握り固めたオルスロイの拳を聖剣で防ぐ。


「それで斬れると思わぬことだっ!」


「斬れなさいよっ!」


 瞬きの間に五度のぶつかり合い。

 あまりに次元の高すぎる剣と拳の応酬をリーシアとオルスロイは繰り広げる。


「……っ!?」


 その横で、未だ傷を治せていないラルムは自分に迫ってくるスロースから逃げ惑う。


「(あぁ~!クソッ!)」


 二つの戦いが高速で展開され、それに僕は置いていかれる。純粋な速度を活かしての戦いになると、この僕の体ではまともについていけなくなる。

 俊敏性。

 そのステータス項目は動体視力にも影響する。僕はかつてのことを思うと信じられないくらい動体視力が下がっていた。


「(目だ、目が足りない)」


 固有スキルは瞳に宿る。

 その瞳がないという事実もまた、僕の固有スキルの力に蓋をしていた。


「ぁぁぁああああッ!」


 ラルムの絶叫が響く。

 腹から血を流し、まともに戦える状態ではないラルムは得意でもない魔法を乱れうちし、スロースを遠ざけようとする。


「(そっちねっ!)」


 少し、ラルムとスロースの距離が離れていた。

 スロースの方に向けて僕は大量の魔法を放ち、周りにいる魔物もろとも吹き飛ばす。


「いくら何でも、それは僕を舐めすぎだ」


 スロースは僕の魔法に対しては結界で一時的に防ぎ、弱いラルムの魔法はそのまま体で弾き飛ばして破れかぶれになった彼女との距離を詰めきる。


「死ねっ」


「……っ!?」


 ラルムの腹をスロースの蹴りが貫き、彼女は何十メートルも吹き飛ばされる。

 血が天を舞い、彼女の腹は陥没していた。


「はぁ……はぁ……はぁ……ぐふっ」


 ラルムが地面を転がる。

 彼女は立ち上がらない。


「(クソッ!)」


 その、ラルムへの追い打ちを許すわけにはいかない。

 僕は転移を発動させ、スロースの背後を取る。


「その転移。何処かで見たことがある……というか、嫌な奴のとそっくりなんだよ。目印がいるんじゃないか?」


 一瞬だった。

 僕の身が破壊されるのは。


 僕は自分の魔力を込めた目印にしか飛べない。ただ、スロースの方に向かって魔力そのものを飛ばし、それに向かって飛んだだけ。

 そんな襲撃、バレバレだった。


 僕の体がスロースの放つ雷撃で粉砕される。


「(まだまだっ!)」


 隠れていたもう一人の僕は少し前からスロースの近くにスタンバイしていた。

 スロースの足を止める為、僕は魔法を乱れうちする。


「だから、舐めるなって!」


 だが、それはスロースの魔法にかき消される。

 

「逃げるわよっ」


 いつの間にか、僕の隣にリーシアがいた。


「(ちょっ!?)」


「オルスロイの攻撃の勢いを利用して飛んできたわ。我ながらうまいでしょ?さっ、逃げましょ」


「(そんなわけにはいかないでしょっ!)」


 僕の体を掴んでこの場から逃げようとするリーシアの手元から、体を二つに分けて逃れて懲りずに魔法を放つ。


「それは何度も見たの。ごめんね?」


 だけど、その次の瞬間には僕の体が四方を結界で塞がれ、逃げられないようにされる。

 でも、それももうよかった。



 ───レベルアップを確認しました。レベルの最大値に達しました。進化が可能です。進化いたしますか?



 間に合ったのだ。

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