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再会

 父上に認めて欲しかった。

 それが、私のすべてで、それだけの為に剣を振っていた。

 だけど、何時しかそれは───。


「わ、私はラルム。クネパス王国の姫にして……騎士の名を持つ者」

 

 レイと出会ったあの日。

 初めて、剣を褒められたあの日、私は咄嗟に自分のことを大きく見せた。剣を褒められた。だから、剣を振る人間だと名乗った。

 ただ、父上に認められたくて、剣を振っているだけとは言いたくなかった。


「ラルム。ふふっ、良い名前だね。よろしく」


 その私の見栄を疑うこともなく、レイは笑みを浮かべて私の前にまで降り、こちらへと手を差し伸べてくる。


「よ、よろしく……」


 初めて、───生まれて初めて握った他人の手は温かく、柔らかかった。



 この時の私は十二歳。そして、レイはまだ十歳だった。

 彼はクネパス王国の隣国であるルーイ小国から、勇者の称号を得た幼馴染と一緒に村を出発したばかりの頃だった。


「旅の路銀が欲しい……?」


 彼がクネパス王国の王都に来た理由は単純で、勇者として旅へと出ることになった自分たちを支援してくれる人を探す為だった。

 村を出たはいいものの公的な身分はなく、まともな職にさえ在りつけない。

 魔物を殺してその素材を売ればお金を稼げるのだが、それを行うのにも各国それぞれで違った基準の販売許可証がいる。ただの村の子どもだった二人がそんなのを持っているわけもなく、ここまでの旅をずっと無一文でこなしてきたらしい。

 二人で魔物を狩ってそれを焼いて食べ、野ざらしの中、二人で眠る。

 そんな旅を送っていたらしい。


「レイ……と、そのもう一人は伝承の勇者なんでしょう?なんでそこに悩まされているの?販売許可証くらいくれても」


「何と言うか、平民なのが気に食わないみたいなんだよね。リーシアが勇者だと判明したあの日、いきなり村にお偉いさんが来て一方的に旅へ出ろ、とだけ言ってさようなら。何の支援もなくてさ」


 リーシアが死んだら、平民ではない貴き血の真の勇者が生まれる……そんなことを考えているのかも。

 レイは悔しそうに、絞り出すように言葉を漏らした。


「そ、それなら……大丈夫っ!私が父上に話を付けて来るよ」


 また、見栄を張った。

 私は出来もしないことを言った。


「ほんとっ。お願いっ!」


「……っ」


 レイの目は真っすぐ、私のことを見てくれている。

 ずっと、欲しかったものだ───だけど、だからこそ、私はそれを裏切るのが怖かった。


「……平民の勇者と、それに付き従う幼馴染か」


 王宮に戻り、無視されるとはわかっていながらも、彼との約束を破らないよう話したレイの話を父上は足を止め、聞いてくれた。


「ちょうどいいな。ラルム」


「は、はいっ」


「お前がその二人の面倒を見てやれ。クネパス王国内における魔物の販売許可証はやれないが、代わりにその二人のクネパス王国の騎士としての名前を与えよう。それがあれば、魔王軍との最前線で戦う身分となる。功績に応じ、我が国から金も出そう」


「……い、良いのですか?」


「あぁ、お前がお供につき、彼らを導いてやれ。必要なら、第二軍の部隊も貸してやる。そうだな、そいつらから戦地に立つイロハをまずは学ぶのが良いだろう」


 今に思えば、この時の父上の目的は自分にとってそう価値のない私をレイたちの元に送り込み、勇者との繋がりを確保することだったのだろう。

 私は、父上との距離も近くない。もしも、レイたちが早々に死んで、他国の人間が望むように貴族の勇者が生まれたとしても、他国との関係に荒波を立てずに済む───当時の私はそんな黒い考えなど露知らずにレイの役に立てることを喜んでいた。


「レイ」


「……あっ、ラルム。どうだった?」


「そう、心配そうな顔をするな。言ったろう?私は騎士だと。話はつけてきた」


 私はあの日、騎士名乗った。

 その日は幾度も、見栄を塗り重ねた。

 

 姫騎士としての私は、レイと共に始まった。

 

 彼の期待に裏切らないよう、見栄を張り続けた。

 強い私を演じ続けた。

 口調を変え、態度を変え、着たこともない鎧に袖を通した。


『……リ、ーシア』


 レイが死んだあの日、彼は幼馴染の名前を呼んだ。

 彼にとって、私は何だったのだろうか?

 私のすべてだったレイが死んで、私はどうすればいいのだろうか?



 

 レイが死に、国に帰った時、あれだけ冷たかったクネパス王国は私を英雄として迎え入れた。

 優しくなっていた父上に言われ、私は勇者パーティーの一人として、最前線に立って剣を握った。これまで無関心だったクネパス王国の騎士団の象徴となって。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 それがレイの望んでいることだ。

 あの女のように、戦いを放棄することなんてレイが望んでいるわけがない。

 私は森林の中を走る。


「いたっ」

 

 過去を、……もう今となっては遠い過去に思いをはせていたせいか、私はつい目の前の木の根っこに足を引っかけて転んでしまう。

 

「……ハハ」


 無様だ。


「……何の為に」


 もう遅い。

 起きるまでにも時間がかかった。

 敵拠点で襲い掛かってくる魔族を退けるのにも時間をかけたし、自分の今いる場所を把握するのにも時間をかけた。

 

 もう、クネパス王国の前線は崩壊しているだろう。

 あそこは私の力で戦線を維持していると言っても過言ではなかった。何のために、私は立ち上がらなきゃいけない。別に、……クネパス王国なんて、どうでもいい。


「……イム」


 起き上がれなくなってしまった私の体をずっとついてくるスライムが押してくる。

 

「君は、何なんだろうね?」


 レイに、……レイの失望を買うような行いをするのか?

 それを許して、私は私でいられるのか。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 私は立ち上がり、また走る。

 前線が崩壊していてもいい、クネパス王国が滅んでいてもいい。

 でも、私が姫騎士という称号を捨てるのは許せない。


「……えっ?」


 走り続け、私はクネパス王国の前線に戻ってきた。

 もう、灰燼に帰している思っていた。

 だが、まだ激しい戦いが行われていた。人と魔物がぶつかり合い、魔族の圧倒的な力も抗う。魔法が荒れ狂い、鉄と鉄のぶつかる甲高い音が響く。

 見慣れた景色、音。だけど、1つ違う。これまではその戦いの中心に私がいた。


「……リーシア?」


 だけど今、その中心には、懐かしい女がいた。

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