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捕虜

「……そう、私は負けたのね」


 ぼそりと横で呟かれたラルムの言葉で彼女が起きたことに気づいた僕は彼女の傍にかけ寄り、自分の体を擦り付ける。


「(おぉ?)」


「……イム」


 その僕をラルムがそっと、抱き寄せて力強く己の腕で包む。

 少し、苦しい。


「起きたか、ラルム」


「……ッ、スロース」


 少しまどろんでいた様子のラルムもスロースの声を聞き、その場で立ちあがる。


「勇者パーティー、……ってのは面倒だな。神からの祝福を受けし……あぁー、勇者からの祝福だとかなんとか。それらでお前らを殺した瞬間にドカン。神の祝福が漏れて、俺らに甚大なダメージが入る。だからこうして、まずは生け捕りにしなきゃならない」


「……っ」


 僕も持つ称号『勇者の寵愛』による加護、とでも言うべき権能だ。

 これがある為、魔王軍はおいそれと僕たちを殺せない。僕たちを殺す為には捕えた上で数多くの下準備をし、儀式を伴う大規模な魔法でなければ、安全に殺すことさえ出来ない。

 これが僕たち勇者パーティーの一番の強みとも言えた。


「お前を処理するのは後だ。先にクネパス王国を潰す」


「待てっ、そんなこと、私が許すわけ……!」


「許す?そんな権利、もうないでしょ?」


 スロースはラルムの足につけられている枷を指さす。


「吸魔の枷だ。もうまともに魔力を練ることさえもできないだろう。魔力による身体強化も使えなきゃ、ただの娘。脅威にならないさ」


 罪人並びに捕虜につける吸魔の枷は絶対と言える。

 僕たちは魔力を用いて、ステータス上に表示される超人的な力を発揮できるようになる。魔力は僕らの根幹で、それの操作を止める吸魔の枷はどんな強者も一瞬で無力化させる。

 つけられるだけでまともに戦えなくなるこの強力な代物はこの上で、高い耐久性まで持っている。魔法をぶつけて壊そうとしても、その魔法の魔力を文字通りにこの吸魔の枷は吸い取ってしまう。

 物理的に壊そうとしてもシンプルに頑丈な為、本当にどうしようもない代物だった。


「そこで、待っててよ。祖国が滅びるのを」


 もうラルムに出来ることは何もなかった。


「ぁぁぁああああああああッ!」


 だが、それでラルムは諦めることもなかった。

 彼女は迷いなく叫び声をあげ、そのまま鉄格子へと突進する。


「~~っ!」


 だが、返って来たのは鈍い衝撃だけ。

 鈍い衝撃音が牢に響いた後、ラルムは声にならない悲鳴を上げ、その場に蹲る。

 

 カールの裏切り。

 そこで包囲されたラルムはそれから三十分ほどは抗って戦い、確実な被害を魔族たちに与えていた。だが、多勢に無勢。全身に傷を負い、彼女は気絶してその場に倒れた。

 ラルムは牢屋に運び込まれてからも半日ほど寝たきりだった。


 長い睡眠で十分な休息は取れたと言えるかもしれないが、それでも体はボロボロのまま。

 たった一度の突進による衝撃だけでも残った傷が一緒に痛み、ラルムに苦痛を与えていた。


「……くっ」


 それでも、ラルムは再び立ち上がって鉄格子へと体当たりしようとする。

 

「(……これ以上は)」


 その二度目は僕が間に挟まることで阻止する。


「……っ、ご、ごめんっ」


「……このスライムは、一体何なんだが」


 間に割って入った僕をスロースは首を僅かに傾げながら見下ろす。

 僕はあの森林で、ラルムの助けには入らなかった。己の力を隠し、ただラルムにぴったりと張り付くことで離れ離れになることだけを防いだ。

 ただのスライム。スロースはそう判断し、僕を放置した。


「まぁ、良い……さっさと僕も仕事に戻らなきゃいけないし」


 スロースは見張りだけを残し、牢屋の前から去っていく。


「……は、ははっ」


 それをジッと睨みつけていたラルムはその彼の姿が視界から消えた瞬間、何かが切れてしまったかのようにその場へと崩れ落ちる。


「わ、……わたし、駄目だった。……あの時と変わらない、落ちこぼれのままだった」


 ラルムの瞳から涙が流れる。


「ど、どれだけ頑張ったって……どれだけ、見繕ってもっ。私はぁっ……結局」


 今、ラルムの表情は絶望に染まっていた。

 壊れてしまったかのように、涙を流しながら乾いた笑みを漏らし続ける。


「(……絶望の表情は、ラルムに似合わないよ)」


 吸魔の枷は絶対だ。

 だけど、それには例外も存在する。


「(まだ、諦めるには早いから)」


 僕の空間断絶は、吸魔の枷をいともたやすく壊すことが出来た。


「えっ?」


 ラルムの自由を奪っていた吸魔の枷は僕の体へと落ちる。柔らかいスライムの体がクッションになり、音はならなかった。

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