お助けスライム
「私が切り開く!お前たちは後に続けっ!」
ラルムはその身より赤いオーラを吹き出させると、そのまま魔物たちに向かって突撃していく。
ただ、ラルムとぶつかっただけで並みの魔物であれば、跡形もなく消し飛んでいく。
「ハァァアっ!」
そして、並みの魔物とは言えない硬い魔物には剣を振り下ろす。
どんな魔物もその彼女の剣を前に斬り捨てられていく。
「ラルム様に続けーっ!」
「おーっ!」
その後をクネパス王国の精鋭騎士団である近衛騎士団が続いていく。
ただ押されるだけであったクネパス王国の前線がこれを機に変わっていく。
魔物たちの統率が乱れ、攻撃の足並みが揃わなくなり始める。
「押し返せぇ!野郎ども!」
その隙に騎士団も呼応していく。
彼らの士気が上がり、槍を握る手に力がこもる。軍団を動かすのは結局のところ士気だ。士気が高ければ、兵は己の持つ力を十全と発揮し始める。
その結果は実に如実だった。
「……クソ、またお前か」
その流れを、放置しているわけにもいかない。
ガンガン突き進み、傷口を広げていっているラルムを止める為に魔族も介入する。
「(あれは、魔王軍幹部のスロース……だったか?)」
一度、僕が魔王軍の城へと潜入した頃に戦ったことがある。
魔王軍幹部筆頭候補。
その肩書を持っている男であるスロースは他の幹部よりも一段上の実力を持っていた魔族であり、昔の僕は元々潜入任務で消耗したのも相まって逃げるで精一杯だった。
「今日こそは倒そうぞ!」
「それはこちらのセリフさ!」
「(人化の術……)」
そんなスロースの見た目はただの赤髪の好青年であるように見える。
元は巨狼の魔物。完全なる人化の術でその姿を作っていた。僕が今、最も欲するスキルだ。
「ハァっ!」
「……ちっ、人間がっ、簡単に倒れろよっ!」
ラルムの持つ剣と、スロースの手から伸びる爪がぶつかり合う。
戦場の中心で激しく個と個がぶつかり合う。
「進軍停止!敵を迎えうてッ!ラルム様をおひとりにするなよっ!」
「おぉ!」
また、戦況が変わる。
ラルムたちに連れ出された魔族たちが次々と戦場に入り、近衛騎士団と戦闘を繰り広げる。
「え、援軍を!こっちを止めてくれ!」
また、最前線にも魔族たちが立ち始め、士気高くあった騎士団の防衛にも陰りが見え始める。
押し込まれる部分も散見されるようになっていた。
「我らはここで終わるにあらず!まだ───ッ!」
それでも、クネパス王国の騎士団は声を張り上げ、もう一度奮起せんとする。
だが。
「「「がぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああっ」」」
その希望を叩き潰すように、地面から再び三体の巨大なミミズの魔物が姿を現す。
かなり、本気の攻勢だったようだ。地中から攻撃の出来るワーム系の魔物は強力な割に成体へと成長するまで時間がかかり、数が多くない。
それをこうも惜しまず投入するなんて。
「まずっ……!?」
ラルムは騎士として、最前線で剣を握る人間として、屈指の実力を持っている。
だが、彼女の力は己の前だけで戦場全体に影響を及ぼせるほどの大魔法が使えるわけではない。
別々の場所で現れた三体のミミズの魔物に対処できない。
「(その、弱点をふさぐのが僕たち仲間だよね)」
ここまで観戦に回っていた僕は一気に空へと巨大な魔法陣を描いていく。
空を追い隠し、光り輝く天輪。
「……レイ?」
光が天より落ちる。
不浄なる魔を払う聖なる光が三体の魔物を焼き払った。
「(ふぅー……っ)」
流石にあの魔法を三発はガッツリ魔力を持って行かれるな。
でも、これでちゃんと仲間としての役割を、ラルムの弱点を埋めるという役割を果たすことが出来ただろう。
ちなみに僕はオールラウンダーだ。
近距離戦では一撃必殺である空間断絶を使い、防御でもそれを。遠距離戦となれば、魔法がある。僕のステ振りは前世から魔法に振っており、世界でも屈指の大魔法使いであろうという自負がある。
中距離であれば弓だって使える。これと言った武器を極められているわけではないが、大半の武器を使えるように訓練を積んだ。
「はぁ!?なんだよ!あの魔法ッ!?」
戦場で輝いた三つの光。
それに動揺が広がる。人も、魔族も、何が起きているのか誰もわかっていなかった。
「(でっかくなっとくか)」
その中で存在感を示す為、僕は一気に巨大化してみる。
「……スライム?」
呆然と、誰もがいきなり現れた巨大なスライムに目を奪われている中で僕は再び動き出し、小さな姿に戻ってそのまま自分を風の魔法で飛ばす。
「わ、私?」
そして、僕が着地した先はラルムの頭の上だった。
「ちっ、なんで魔物がそっち寄り……おい、引くぞ」
スロースは引き時を知っている。
元よりずっと続く魔族が優位の状況。僕というイレギュラーを前に無理をすることなくスロースは引いていく。
それをクネパス王国の騎士団も追いかけることはなくなった。
「……ラルム様。その、スライムは?」
前線に静寂が戻った後、ラルムの元に近衛騎士団の一人が近づいてくる。
「いや、何だろう?私もわからないが……」
「処理しますか?」
そして、僕を処罰しようなんて物騒なことを言ってくる。
「いや、……この子が、私たちを救ってくれたかもしれないんだ。そんなことは止そう」
それをラルムは首を振って否定する。
「(ふふふっ、君ならそう言ってくれると思っていたよ、ラルムっ!)」
僕がラルムへと会いに来た理由として、彼女が唯一、居る場所のわかる相手だったというのがある。
ただ、それと同じくらいに大切な理由もあった。
「(ラルムは昔から密かに可愛いもの好きだからねぇ)」
僕がスライムをペットとして飼いたいと言った時に唯一賛同してくれたのがラルムだった。
可愛いもの好きの彼女なら、スライムとなった僕を優しく受け入れてくれると思ったのだ。
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