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姫騎士

 それはそれとして。

 僕は地面に埋めていた体を動かし、渓谷の中で一人起き上がる。


「(離れてても二つ、体を動かせるのはやっぱり便利だね)」


 既にもう渓谷にいた魔族たちは撤退していた。

 たった一人になった渓谷で僕はのそのそと進みだす。


「(いつまでもリーシアの隣にだけいる、っていうわけにはいかないからねぇ)」


 今、僕のもう一つの体はリーシアと一緒に森の中で眠っている。

 彼女を一人にはしていないからね。もう一人の僕が単独行動を始めただけだ。


 さて、何処に行こうか。

 魔王軍の元の侵攻ルート通りにレックス王国の重要都市の方に向かってもいいけど……とはいえ、あそこはもうしばらく襲撃ないだろうからな。

 せっかくなら、魔族と戦えるところがいい。

 あの魔王軍との一戦を交えた結果、僕のレベルは今、41。そろそろ進化も出来る頃だからね。出来るなら、戦いたい。


「(……彼女に、会いに行こうかな)」


 リーシア以外の勇者パーティー。

 僕たちを除いた残りの三人のうち、二人は解散してしまったというのなら、居場所がわかる気は一切しなかった。

 ただ、一人なら多分あそこだろうというのがわかる。


「(向かうか、クネパス王国に)」

 

 レックス王国からなら、クネパス王国も近い。

 会いに行くとしよう。僕たちの頼れる仲間、クネパス王国の姫騎士ラルムに。


 

 ■■■■■



 スライムの姿で二日。

 それがクネパス王国までにかかった時間だった。大した敵と出会うことも、人に出会うこともなく僕はクネパス王国の国境部にまで来ていた。

 人里には寄れていない、スライムなので。

  僕は人気のない荒野を進み続ける。


「(何処にいるだろうか?っと)」


 ここまでの道中は僕の記憶と現実の差異が如実に出ていた。

 思っていた村がなかったり、街が消え失せていたり。

 まず、国がひとつ消えているだろう。


「(ここら辺、だと思うけど)」


 それでも、クネパス王国の国境部の街が残っているのは遠くから確認出来た。

 クネパス王国は一年経っても僕の記憶にある姿とそう変わらない姿で残っていた。

 ちゃんと僕が思った場所にあった。

 

 一年前からこの国は魔王軍とぶつかり合う最前線だったが、クネパス王国は世界一の騎士国家で、ラルムがいる。

 きっと、魔王軍の侵攻だって止められているはずだ。

 クネパス王国の最前線があった場所に向かって僕は進み続ける。


「(……いた)」


 その道のりの先で、僕はクネパス王国の騎士団と魔王軍の姿を見つけた。


「魔王軍を通すなぁ!踏ん張れぇ!」


 クネパス王国の最前線。

 そこは僕の記憶ならば、堅牢な城壁がどこまでも続いていたはずだった。

 だが、その城壁はもう壊されてしまったのか。堅牢な城壁の代わりに、積み重なった石の瓦礫と木製の柵があった。


「おぉ!!!」


「汚らわしい魔物風情がぁ!」


 その簡易的な防壁に押し寄せてくる魔物たちをクネパス王国の騎士団が槍で押し返す。

 魔物の屍が積み重なり、それが防壁となり始める。

 

「ぎゃぎゃ!」


 だが、同胞たちの屍が積み重ろうとも魔物たちが歩みを止めることはない。

 ただ一心不乱に前へ、前へと進み続ける。

 そんな押し合いがずっと続き続ける。


「がぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああっ」


 その、膠着状態を破るかのように地面が揺れ動き、そして、割れる。

 一体の魔物が地面より這い出て、クネパス王国の作った防壁を下から破壊した。


「がぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああっ」


 巨大なミミズの魔物。

 ヌメヌメとした体から幾つもの触手が生えるその化け物が大暴れするさまはまさに災害だった。

 体を拗らせ、触手を振り回すだけで防壁が、人が潰れていく。


「く、くそっ……」


 その化け物を前にクネパス王国の騎士たちは後ずさりしていく。戦線に、ひとつの穴が空いた。

 ジリジリと、その穴に魔物たちが流れ込み始める。


「だ、ダメだ!引くな!前へ!前へぇ!」


 それを指揮官が認める訳には行かない。

 引くなと叫び、士気高揚の為、まず己が突き進もうとする。


「いや!ひけぇい!」


 再度の突撃。

 それが行われるよりも前にひとりの女性の声が響いてくる。

 一筋の風───否、人。後方より風のように駆け抜けてきたひとりの女性がミミズの魔物の前に立ち、その手にある剣を掲げる。


「剣───破閃」


 一振の剣閃。

 それが巨大なミミズの魔物を縦から一刀両断し、地面へと倒す。


「押し込め!我が領に魔物たちを一歩として入れさせてはならない!」


 ただの一撃で敵を倒したその女性が剣を掲げ、叫ぶ。


「「「おぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおっ!!!」」」


 その声で、士気が上がる。

 それだけの女性だった。

 風に靡く腰まで伸びた黄金の髪。

 敵を見据える青い双眸。

 神より与えられた背高く、しなやかな体を包むのは穢れひとつない白銀の鎧。


「ラルム」


 姫騎士ラルム。

 僕ら勇者パーティーの中で最も名誉高い彼女が、僕の記憶と変わらぬ姿で騎士たちの前に立っていた。

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