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食欲の魔女と底辺OLのダンジョン飯テロ配信~「赤字ならクビ」と言われたので、ポンコツ魔女に飯を食わせてブラック企業の売上を超えます~  作者: ダニエルさん
第2章:Sランク配信者なんて無理無理無理! でも、魔石採掘部門にはいきたくない!

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第56話「堅牢の殲滅士に背中をトントンしてもらった話」 2/2

「は?」

 私の目の前は真っ白になった。体から紫色の闘気が滲み出す。


「あらあら? まさかプリンごときでやる気なの? 怖いわ」

 ヨウシャールの体からピンク色の闘気が溢れ、全身を薄く包んだ。


「や……ヤダなぁ。私がそんなことするわけないじゃないですか」

 私は体から溢れる闘気を押さえつけた。

 ——こんなことで怒っちゃダメだ……コイツは確かに私にやるなんて一言も言ってない。ムカつくけど! ムカつくけど!!


「あらあら、たかがプリンなんだから……」

 ヨウシャールはおもむろにプリンを袋から取り出した。


「怒ったりしないわよね?」

 ヨウシャールはプリンを二つ地面に落とすと、ピンク色に輝くハイヒールで踏み抜いた。

 グチャグチャとプリンは崩れていく。


「てめぇ……食べ物になんてことしてるんだよ!」

 私の全身から紫色の闘気が噴き出し、バチバチと音を立てる。ヨウシャールの胸ぐらをつかんだ。


 次の瞬間、体が揺れ、空が見えた。


 ヨウシャールに足を払われ、体が浮いている。私は後頭部をつかまれていた。


 私は咄嗟に頭を手で覆い、闘気を集中した。


 そのままプリンの上に顔面を叩きつけられた。


「あらあら、急に掴みかかってくるなんて怖いわ……」

 ヨウシャールは私の顔をプリンにグリグリと押し付ける。


「……でも大好きなプリンの上で良かったわね」

 ヨウシャールは立ち上がりパンパンと手を払った。


「ぐっ……ゲホッ……」

 私は地面に手をつき、よろよろと立ち上がった。

 ——口の中が切れた……頭もまだズキズキする……


「あらあら、起き上がれるなんてタフなのね……すごいわ」

 ヨウシャールは興味なさげに呟くと、私が買ったケーキの袋を手に取った。


「ちょっと……それ、私の……シェリーさんたちのケーキ……どうするの?」

 私はフラフラになりながらヨウシャールに近づいた。


「あらあら、迷惑料よ? せっかくいい気分でプリンを食べたかったのに。あなたに会って最悪な気分なの……ひどいわ」


 ヨウシャールは私の体を軽く押した。


 私はバランスを崩し、その場に尻もちをついた。


 ヨウシャールは私を見下ろし、小さく鼻を鳴らすと、カツカツとヒールを鳴らしながらその場を離れて行った。


「待って……待ってよぉ!」

 私はプリンと血にまみれた顔を涙で濡らしながら声を漏らした。


 ヨウシャールは振り向くこともなく、私の前からいなくなった。


 私は人気のない路地裏で、グチャグチャになったプリンを見つめながら大きな声を上げて泣いた。


 私のその姿は半分だけ欠けた月の光に照らされていた。


 ————


 私はしばらく泣いたあとカバンからビニール袋を取り出してプリンの容器を詰めた。

 ——ゴメンナサイ。ちゃんと食べてあげられなくて。


 タオルで顔を拭き、ビニール袋につめると立ち上がりデパートに戻った。


 先程のケーキ屋で同じケーキを買う。涙を流しながら買ったので、店員さんが眉を下げていた。店員さんは私の顔を何度か心配そうに見ながら、ケーキを箱に詰めてくれた。

 ——ゴメンナサイ。びっくりするよね……


 シェリーさんとの待ち合わせのために、デパートの駅側出口に向かう。入口でチョコレートの限定販売が開催されていた。

 ——ノア・ガナッシュ……ダンジョン配信者でも有名なパティシエだったよな……


 私は五個入りの詰め合わせを手に取った。アルコールが入ってないことを確認し、購入した。


 駅に向かうと迷彩柄のワンピースの少女が柱のそばで立っていた。桜の髪飾りをつけた頭を左右に揺らし、キョロキョロと周りを見渡していた。


「シェリーさん、お待たせしました! おいしいケーキを買いましたよ」

 私は精一杯の笑みを浮かべて、幼気な少女にしか見えない部門長に声をかけた。


「あ、宮國さん、今日はよろしくお願いしますデス!」

 シェリーさんもそれに答えるように満面の笑みを浮かべた。


 私の顔を見て少し眉をひそめたが、すぐに元の笑顔に戻った。


「少し遠いですけどよろしくお願いします」

 私は定期入れを改札機にかざした。


「はいデス! 案内よろしくお願いするデス」

 シェリーさんも私のあとに続いた。定期入れは猫さん柄だった。


 電車では隣り合って座っていた。シェリーさんは時折私のほうを見つめるが何も言わなかった。


 私はその時間が心地よかった。


 でも、先程のヨウシャールとのやり取りを思い出す度に口の中に鉄の味、プリンの甘味、カラメルの苦味が広がった。


 私の目からは涙がこぼれた。


 シェリーさんは私の体に手を添える。

 

「イヤなことがあったら泣いてイイデス。私のお父さんもこうしてくれたデス」

 シェリーさんはトン、トン、と小さく背中を叩いてくれた。


 私はシェリーさんの小さな肩に額を預けて、声を出さずに泣いた。

 ——ゴメンナサイ……悔しい……ムカつく……情けない……許せない……


 シェリーさんは何も言わず、私の背中をとん、とん、と叩き続けた。 

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