第55話「堅牢の殲滅士がお菓子につられて家に来ることになった話」
私は翌日は朝から出社していたが不機嫌だった。
「ひぇひぇ~。宮國ぃ……すごいじゃないかぁ。次はAランク、その次はSランクかぁ。ボクのためにあと二つがんばるんだぞぉ?」
クソ上司が、目の前でニタニタ笑っている。出社直後に動画のコメントや、閲覧数のチェックをしようと席に着いた矢先にこれだ。正直不快感しかない。
「あー。私も魔石採掘部門行きは嫌なんで自分のために頑張ります。自分のためでーす」
私はパソコンの画面を見つめ、頬杖を突いた。
「ひぇひぇ!? なんだその態度は! せっかく高貴なるボクが褒めてやっているというのに!」
クソ上司が、腕をぶんぶんと上下に振っている。
——あ~。そのままひぇひぇコプターで空を飛んで行ってくれないかな。
「何を朝から騒いでるんデス?」
後ろからかわいらしい声が聞こえた。
私は体を起こし、振り向いて立ち上がった。
「シェリーさん! 先日はありがとうございました。無事にBランクに昇格できました」
私は背筋を伸ばし、自分よりも小さな上役に頭を下げた。
「私にお礼なんかいいデスよ。宮國さんが頑張っただけデス」
シェリーさんは私の下げた頭に手を添えると髪を撫でた。私は頬を緩ませた。
「ひぇひぇ? 宮國、ボクも頭を撫でてやろうか?」
クソ上司が、私の頭に手を伸ばした。
シェリーさんの右手がクソ上司の腕をつかむ。
緑色の光がシェリーさんの手からあふれ、ミシミシという音が響いた。
『ロクディモントさん……許可もなく女性の頭に触ろうとするなんて最低デスよ? もう一度教育が必要デスか?』
シェリーさんはゆっくりと左手で額の花飾りを撫でた。
「ひぇひぇ!? マ、部門長! 教育は……教育は不要です!」
クソ上司は、握られていない方の手で腕を押さえ、苦悶の表情を浮かべる。
顔からは汗が噴き出し、鼻水が出ていた。私の不快感はさらに高まった。
『わかったら消えるデス。私は宮國社員と話があるデス』
シェリーさんはクソ上司の手を離した。
「ひぇひぇ……失礼しました」
クソ上司は、ひぇこッと頭を下げると腰をひぇこひぇこと震わせながらその場からいなくなった。
「まったく、ロクディモントさんには困ったものデス。大丈夫デスか?」
シェリーさんはポケットからハンカチを取り出し手をぬぐった。
「ええ。大丈夫です。スカッとしました」
私は満面の笑みを浮かべた。
「スカッと……デス? 宮國さんも言うデスね」
シェリーさんはハンカチをゴミ箱に捨てた。
「お礼といっては何ですけど、またクッキー食べます?」
私は袖机の引き出しを開けると、クッキー缶を取り出しふたを開ける。数枚のクッキーが残っていた。
「いいんデスか!?」
シェリーさんは体を乗り出し、クッキー缶を覗き込んだ。
「どうぞ。少ないですけどお好きなのを」
私はクッキー缶をシェリーさんに差し出した。
シェリーさんは嬉しそうにクッキーを一枚手に取り、口に運んだ。
サクサクという音が響いた。
『やっぱり美味しいデスぅ……』
シェリーさんは目をつむり、頬を緩ませながら味わっていた。
私も一枚手に取り食べる。シェリーさんももう一枚。私ももう一枚。
クッキー缶の中は空になってしまった。
「ああ……もうないデス……」
シェリーさんは少し涙を目に浮かべ、口をへの字にしていた。
私はそれを見て震えあがった。
——庇護欲が! 庇護欲が刺激される!? だ、抱きしめたいけど。ガマン! ガマンだ! 私!
私は大きく息を吸い込み、咳ばらいをした。
「シェ……シェリーさん? お礼といっては何ですが、遊びに来ませんか?」
私は体をかがめ、涙をためてうつむくシェリーさんの顔を下から覗き込んだ。
「……」
シェリーさんは、目をつむって腕を組む。首を上に向けた。
「シェリーさん……?」
私は口を小さく開き、天井を見上げるシェリーさんを見つめていた。
「部門長である私がいきなりイチ社員の自宅に行くのはどうなんデスかね」
シェリーさんは首を横に倒し、うなっていた。
「で、でも私の家にはおいしいケーキとかほかにもお菓子があるんですけど」
私はおずおずとシェリーさんに声をかけた。
「え!? 行くデス!」
シェリーさんは、私の方に顔を向け目を輝かせると、その場で両手を握り小さくぴょんぴょんと何度も跳ねた。
私は無邪気に跳ねるシェリーさんを見つめ、昼休みにデパ地下でたくさんスイーツを買おうと心に決めた。




