第54話「食欲の魔女がDIEヌードルをキメて焔の洞窟を駆け抜けた話」2/2
『さぁ……お待ちかねの時間ダァイ』
フリードは後入れDIEソースの袋を勢いよく裂いた。力を込めすぎたせいでDIEソースが数滴飛び、フリードの目に入る。残りのDIEソースはすべて容器の中に入った。
しばらく静寂が訪れる。
『ぎ……』
フリードが目を押さえ、顔を下に向けた。
『ぎゃああああああッ! 目が! 目が! 焼ける! 焦熱地獄に顔を突っ込んだようだぁい!』
フリードはその場でのたうち回っている。
「全く。DIEソースなんて仰々しい名前とはいえ、たかが香辛料だろう?」
エスルスは箸を手に取り、ゆっくりとDIEヌードルに伸ばす。
DIEヌードルの麺を持ち上げると口に運ぶ。
ずるるっ! と吸い上げ、咀嚼し、ごくりと音を立て飲み込んだ。
エスルスは箸を握ったまま動かなかった。
額からは汗がしたたり落ち、瞳が潤んでいた。
まだ動かない。
口をパクパクさせ始めた。
「ツッコ……これは……だめだ」
エスルスは絞り出すように声を出す。
「み、水をすぐに持ってきてくれ……頼む……ッ!」
エスルスは静止したまま、懇願した。
「わかったよ。仕方ないな」
私は机に手をついてゆっくりと立ち上がった。
「ツッコ! 早くするんだ!」
エスルスは目を見開き、箸を落とした。
「すぐ持ってくるよ」
私はキッチンにつながる廊下に向かい歩き始めた。
「だめだ! 間に合わない!」
エスルスは目の前にあったポットを手に取ると一気に飲み干した。
八十度近いお湯が喉を抜ける。
「何やってるの!? 熱湯だよ!?」
私は振り返り、エスルスの肩をつかんだ。
「大丈夫……魔力で冷やしながら飲んでるから……人肌くらいの温度だよ」
エスルスはポットから口を離した。
「ふう……落ち着い……がっ……はっ……?」
エスルスは目を見開き、舌を出すとよだれを垂らしながら喉を押さえた。
「エスルス?」
私はエスルスの肩に手を添えたまま、エスルスの顔を凝視した。
「喉が……さらに辛い……いや、痛い……」
エスルスは息も絶え絶えになっていた。
『Mein Hals ist zu einer Höhle aus Flammen gewordenッ!(僕の喉が焔の洞窟になってしまった!)』
エスルスは大きくのけぞりながら叫ぶ。そのまま後方に倒れこんだ。
『Und ich rase jetzt mitten durch diese Höhleェッ! (そしてボクは今、その洞窟を駆け抜けている!)』
エスルスは喉を押さえ、悶え、転がる。
フリードも目を押さえ、のたうち回っている。
私とセラは二人で目を見合わせた。
残ったカップラーメンの蓋を開けると、スープとかやくが均等に混ざるよう箸でかき混ぜる。
二人で仲良く、悶える二人を眺めながらずるずるとカップラーメンをすすり始めた。
「ツッコ、とんこつ味うめぇぞ、食べるか?」
セラは自分が食べていたカップラーメンを私に差し出した。
「カレー味もおいしいよ」
私はカップラーメンを受け取ると、自分が食べていた分をセラに差し出した。
「確かにうめぇな」
セラはカレー味のラーメンをすすっている。
「うん、おいしい」
私はラーメンの味を噛み締めていた。
——よし、目の前の地獄絵図に比べたらシェリーさんは可愛くておとなしい子だから、誘うの問題ない気がしてきた。
「醤油も食っちまうか」
セラは最後のカップラーメンに手を伸ばす。
「あー……うん、いいと思う」
私は焦熱地獄と、焔の洞窟から帰ってこない二人を一瞥したのち、セラと二人で醤油ラーメンを分けて食べた。
=============【作者より】
箸休めはいかがでしたか?次回はシェリー回を進めます。
〇今回の声に出して読みたいカッコいい言語・ドイツ語講座ァーッ!
●Mein Hals ist zu einer Höhle aus Flammen gewordenッ!(僕の喉が炎の洞窟になってしまった!)
Mein・・・「僕の」「私の」 myですね。
Hals・・・喉、首。
ist・・・〜である(英語の is)。文末の geworden とセットで「〜になってしまった」という完了を表します。
zu・・・〜に、〜へ(変化の行き先を示します)。
einer・・・女性名詞につく不定冠詞の形。ここでは zu が3格を取るため、eine が einer になります。
Höhle・・・洞窟、穴。
aus・・・〜でできた(材質や素材を表します)。
Flammen・・・炎、火焔(Flamme の複数形)。
geworden・・・werden(〜になる)の過去分詞。ここでは ist ... geworden で「〜になった」という現在完了になります。
直訳すると「僕の喉が炎でできた洞窟になってしまった!」になります。激辛のあまり喉が燃え盛る洞窟と化した絶望を叫ぶフレーズです。
●Und ich rase jetzt mitten durch diese Höhleッ!(そしてボクは今、その洞窟の真ん中を駆け抜けている!)
Und・・・そして、それから andですね。
ich・・・ボク、私 Iですね。
rase・・・(猛スピードで)駆け抜ける、突進する。
jetzt・・・今、ただいま nowですね。
mitten durch・・・〜のど真ん中を突っ切って、〜をまっすぐ貫いて
diese・・・この、その thisですね。
Höhle・・・洞窟。
激痛のなか暴走する疾走感を表現したフレーズです。直前の文と繋げることで、喉の灼熱感を通り抜けるカオスな疾走感が最高潮に達します。




