第53話「限界リスナーたちがBランク昇格を祝い投げ銭祭りを始めた話」
私は試験会場からバスと電車を乗り継ぎふらふらになりながら自宅に着いた。
——ああ~……疲れた。訓練したとはいえ、やっぱり闘気使い慣れないなぁ……今日はご飯はカップラーメンでいいかな……
「ただいま~……」
私は家の扉を開ける。靴を脱ぎ、玄関口に座り込んだ。天井を見上げ、しばらくぼーっとしていたが返事はない。
「エスルス~? セラ~? フリードさん~? いないんですか~?」
ゆっくりと立ち上がり、居間の方に向かう。
居間でエスルスとセラとフリードが座卓に集まり、パソコンに食いついていた。
「あれ……いるじゃん。何してるの?」
私はパソコンを見つめている三人に近づき、後ろから声をかけた。
「ああ。ツッコかい? 素晴らしい戦いだったじゃないか! ボクたちは勝たん子さんたちと盛り上がっていたところだよ」
エスルスはパソコンの画面が見えるように体をずらした。
スクワライドしか勝たん子:わっしょいわっしょい!
ツッコラーZ:投げ銭まつりじゃ! わっしょいしょい!
「んん!? 何が起きてるの?」
私はマウスを手に取り、コメント欄をスクロールした。
「何ってツッコのBランク昇格を祝って投げ銭祭りをやってんだよ!」
セラが自分の胸をドンッと叩いた。
「うん……それは見ればわかるけど」
私はコメント欄を試験中の時間帯まで遡る。一つ一つ目で追った。
名無しさんA:おい、アイアンゴーレムだぞ! これ、詰んだんじゃね?
名無しさんB:いや……残り二体。奥のヤツ倒せばわからないぞ?
名無しさんC:こいつ、ブッパする癖あるから無理じゃね?
ツッコラーB:何を言ってる。彼女は成長するんだぞ? 今までの動画で何を見てきたんだ。
名無しさんA:そうだよな。ツッコは動画のたびによくなってる。
スクワライドしか勝たん子:みんな、動くみたいよ!
エスルサーA:ツッコが……飛んでいる。エスルス様のリスペクトだ!
エスルサーB:鳥になっている!
エスルサーC:鳥の王の再臨だ!
スクワライドしか勝たん子:ツッコちゃん! 走り抜けて!
ツッコラーB:行け行け! もう少しだ!
名無しさんB:ゲラルド、こいつうざいな。半袖ダサいし。つまづいて転ばないかな。
名無しさんC:ほんとだよな。ファッションセンス皆無。ワイルドの意味をはき違えてる。
ツッコラーC:ゲラルド、Aランク配信者。ファッションセンスはFランク。
名無しさんA:草
スクワライドしか勝たん子:やったわ! ツッコちゃん、昇格よ!
ツッコラーB:祝いの投げ銭祭りじゃー!
ツッコラーD:投げ銭祭りじゃ! わっしょい! わっしょい!
私は画面を見つめ、小さく息を吐いた。目をぬぐい顔を上げた。
「私、Bランクに昇格したよ」
私は震える声を絞り出しながら三人を見つめた。
「知ってるとも。全部見ていた」
エスルスは私の頭を優しくなでた。
「なかなかやるじゃねぇか! 脚の闘気運用はまだまだだけどな!」
セラは私の背中をどんと叩いた。全身に響く。
——いったぁ! こいつ、加減をホントに知らないな。
「ツッコちゃん、ほんとによく頑張ったね。僕も嬉しいよ」
フリードは私の手を両手で優しく包み込む。私が顔を上げると、小さく微笑んで、ギュっと手を握った。
——おっふ……後ろからゴリラの攻撃で物理的に心臓を止められそうになったところに精神攻撃は反則です! 心臓が乱取りを始めたようにドコドコしてます!
「フリードさん……手を放してください……」
私は顔を真っ赤にしてうつむいていた。
セラがマウスを手に取るとカチカチとクリックする。試験配信を少し巻き戻した。
私は赤い顔のままパソコンの画面に目を向けた。
「なあ……ツッコ。一つ聞いていいか? この女の子のことなんだが」
パソコンの画面にはシェリーさんの姿が映っていた。
「うん? 私の会社の部門長になった子だけど何かあった?」
私はセラの方に顔を向ける。セラは眉をひそめ、奥歯を噛み締めていた。
「ツッコ、この子はシェリー・カラシニコフだよね?」
エスルスは腕を組んで、指先で肘をトントンと叩いていた。
「何で知ってるの?」
私は座卓に手をついて体を乗り出した。
「……シェリー・カラシニコフは向こうの世界でトオルが最後に拾った子供だよ。一時期僕たちとも生活をしていた」
フリードは天井を見上げながら、息を吐き出すように話した。
「彼女は向こうの世界でトオルが行方不明になると同時に姿を消したんだ」
エスルスは目をつむった。
「元気そうで何よりだが、こんな顔をする娘ではなかったよ……」
ゲラルドを金色の目で鋭くにらむシェリーさんを指さした。
「お父さんとシェリーさんに何があったの?」
私は体を震わせながらゆっくり立ち上がると三人を見下ろした。
三人は三人とも苦虫を噛み潰したような表情をしていた。
「あー! アタイらもわかんねぇよ!」
セラが頭をガシガシと掻いた。
「……今、ツッコちゃんの会社にいるなら会って話をしたいな」
フリードはゆっくりと立ち上がる。
私の肩に手を添えるとじっと見つめた。
「今度、うちに呼んでくれないか?」
フリードの瞳が潤んでいた。悲しげに伏せかけた瞼の奥で、瞳が潤んでいた。
——イケメンの憂い……尊い! じゃなくて!
私は目をそらしながら呼吸を整えた。
——ひっひっふー……は、ラマーズ法だ。ラマーズ法といえばクソ上司式……よし! なえた!
「わかった……明日、相談してみる」
——明日、部門長を自宅に招く。普段の私なら絶対に発生しないミッションだ。大丈夫かな、これ……。




