第52話「堅牢の殲滅士が愛銃でため池を作った話」
私は遺跡の入口でゲラルドを見つけた。ゲラルドは地面を足で何度も削っていたが、私に気づくと両手を擦り合わせながらこちらに向かってきた。
「おや! 部門長。ご無事でしたか。宮國社員は先ほど先に帰りましたよ! さすが部門長の愛弟子なだけありますね! 俺もあやかりたいもんですなぁ!」
ゲラルドはへこへこと頭を下げながらすり寄ってきた。
『そうデスか。ご苦労だったデス。ただ、彼女の実力デス。そこは勘違いしちゃダメデス』
私はゲラルドが近づいてくるのを手を伸ばし制した。
「いやー! さすが部門長! 言うことが立派ですなぁ! 私も自分の部下に言ってみたいものです!」
ゲラルドは大きく何度もうなづいていた。
私はゆっくりゲラルドに近寄ると、ゲラルドの左腕をつかみ、無言で袖を引き裂いた。
「ちょっと! 何をするんです!?」
ゲラルドは破れた袖を押さえた。
『さっきのアイアンゴーレムの体に挟まっていたデス。心当たりはないデスか?』
ポケットからアイアンゴーレムの左腕に挟まっていた布切れを取り出すと、二枚の布切れをゲラルドの顔に投げつけた。
「いや、たまたまじゃないですかね?」
ゲラルドは目をそらし、虚空を見つめていた。
『ふざけるなデス。貴様の朝の格好とこの布切れの一致。どう考えてもおかしいデス。何が目的デス』
私はゲラルドの胸倉をつかみ、ギリッと歯を鳴らした。
ゲラルドの体が小さく揺れた。
「……ガキのくせに粋がるのも大概にしろよ……」
私の腹に衝撃が走った。
「俺に意見しやがるから気に入らなかったんだよぉ! お前が直々に面倒見てる宮國を落とせば、少しはその生意気な鼻もへし折れると思ったんだ! 社会も知らねぇガキが!」
ゲラルドの膝が私の腹に入っていた。衝撃で後ろに吹き飛ばされ、遺跡の壁にぶつかった。
壁は大きく崩れると、土煙が上がった。
「軽いなぁ! クソガキ! ちょっと蹴っただけで吹き飛びやがって……」
ゲラルドは両腕を引くと、両手を握りこむ。茶色の光が両手に集まった。
「理想ばっかり掲げて! 中身はペラッペラのことばかり言いやがって! 言葉も体と一緒で軽いなぁ!」
ゲラルドは両手を前に突きだした。ゲラルドの手のひらに周囲の土塊や砂、煙が集まっていく。徐々にドリルのような形状を象っていき、高速回転を始める。
ギャルルルルルッ! という甲高い音が洞窟内に響く。
「ここでくたばっちまぇよぉ!」
ゲラルドの手からドリルが放たれる。一発ではない。周囲の土塊を、砂を巻き込みながら何本もの土のドリルが私の体めがけて飛んでくる。
私は全身を薄い緑の被膜で覆いながらゲラルドの目を見つめていた。
「ひゃっはっは! 死んじまったかぁ?」
ゲラルドは下卑た笑みを浮かべた。
私はゆっくりと立ち上がると、体に残った布切れを払った。
『まったく……舐められたものデス』
私は体に着いた土埃を払う。迷彩柄のワンピースに隠されていた無数のドッグタグが露わになる。首、両手、両足には大量のドッグタグが結びつけられていた。
「なっ……身体は無傷だと!?」
ゲラルドはまた両手を前に向けた。茶色の光が集束し始め、ドリルを打ち出した。
『遅いデス』
私は手の中に握りこんでいた桜の髪飾りに闘気を込めた。
緑色に輝くと同時にダンッ! という銃声が洞窟に響き渡った。
ゲラルドの放ったドリルは、バリッという鈍い音を立てて粉々に砕け散った。
『取っておきの指導を食らうデス』
私はゲラルドに銃口を向けた。
「うるせぇーー! くたばりやがれぇ!」
ゲラルドは両手を左右に開いた。中空に無数の岩でできたドリルが浮かび上がった。
『救えない大人デス……』
私は引き金を引き絞った。
私の愛銃はダダダダダダダダッ! と銃声を鳴らし続けた。
緑の弾丸が土のドリルを一本、また一本と撃ち砕く。回転する土砂は次々と崩れ、最後の一本が弾け飛ぶと同時に、茶色の光も消えた。
茶色の光が消えた後は、緑色の銃弾がゲラルドの両腕、両脚を正確に撃ち抜いた。
ゲラルドはその場に崩れ落ちた。
私はゲラルドのもとにゆっくりと近づくと股間に銃口を押しつけた。
「ひっ……た、助けてくれ! 俺が、俺が悪かった」
ゲラルドはボロボロの体を揺らし、震えていた。
『貴様の子孫が繁栄すると思うと反吐が出るデス』
私は銃口を引いた。何度も銃声が響いた。
ゲラルドは途中から泡を吹いて、意識を失っていた。
ゲラルドの股間を囲うように地面へ無数の穴が開き、その窪みにはいつの間にか大量の水分がたまり、小さなため池ができていた。
私は桜の髪飾りを頭につけ直すと、ボロボロになったワンピースを、身体を隠すように巻き直した。
「社会人経験デスか……確かに私はまだまだデス」
ゲラルドを担ぎ上げると、遺跡の出口にゆっくりと歩きだした。
「でも、人の命を預かる責任なら……貴様よりは、ずっと知っているデス」
静かな遺跡の中でチャラチャラとドッグタグの鎖がこすれる音が響き渡った。




