第50話「堅牢の殲滅士とBランク昇格試験を受けたら親子ゴーレムに出会った話」
シェリーさんから闘気の扱いについて習ってから一週間が経過し、Bランク昇格試験当日を迎えることになった。
私はシェリーさんとともに黄砂の古代遺跡に向かっていた。
私は肩から下げていた配信用カメラを取り出し、電源を入れた。スマホで映像を確認する。
「さて……今日はBランク昇格試験です。さすがにコメントを拾ってる余裕はないと思うので、配信はほぼ垂れ流しになります」
画面の端に視聴者数と、ものすごい勢いで流れていくコメントが表示される。
スクワライドしか勝たん子:ツッコちゃん、頑張ってね! 試験突破すればついにB級ね。応援してるわ。
「では、行ってきます」
私は小さく笑みを浮かべて画面を閉じた。
「準備は万端デスか?」
シェリーさんは砂丘を下りながら、私に声をかけた。
「いろいろお付き合いいただいたので多分大丈夫だと……思います」
私は地面を三脚でつつきながら、小さくうなづいた。
「とにかく集中と螺旋デス」
シェリーさんは人差し指を立てて、指先で緑の闘気を回転させた。
「うずまきクッキーですね」
私は地面を突き刺す。砂の音が変わった。
地面が揺れ、大きな音を立てると目の前にサンドワームが地面からせり上がってきた。
「今日はどうするデス?」
シェリーさんは、ぼそりとつぶやいた。
「闘気がもったいないので戦わずに逃げます」
私はカカトに意識を集中させた。紫色の闘気がうっすらと足を包み込む。
地面を踏み抜き、一気に砂丘を駆け降りた。
後ろで轟音が聞こえたが、振り向くことなく遺跡の前まで走り抜けた。
遺跡の入り口には一人の男が立っていた。両腕を組んでニヤニヤしている。なぜか右腕だけ半袖のワイルドスタイルであった。
——何、こいつ。ダッセ―格好だな。ファッションセンスヌルなのかな?
「おや、カラシニコフ部門長。これはご機嫌麗しい」
男は大げさに手を横に流しながら体を前に倒した。
「今日はゲラルドが試験官デスか……こちら宮國社員デス。今日は昇格試験よろしく頼むデス」
シェリーさんは少し眉をひそめていた。
「宮國です。ゲラルドさん、今日はよろしくお願いします」
私はゲラルドに手を差し出した。
「さて、時間もないので試験内容の説明をします」
ゲラルドは私の手に気づいていたが、それを無視して遺跡の奥へ歩き始めた。
「今日の試験内容は、一時間以上ダンジョン内に滞在すること。最低20体のミニゴーレムを倒すことの二点です」
ゲラルドは指を二本立てて左右に振った。
「わかりました」
私は差し出した手を下げた。
——なんかうちの会社の人、こういう挨拶無視するヤツ多すぎないか?
「あと、途中アクシデントが起きてもそこも含めて試験ですからね? この遺跡には強い魔物も出るといわれています。せいぜい気を付けてください」
ゲラルドは振り向いて、シェリーさんの方を一瞥した。
「強い魔物ですか?」
私は周囲を警戒しながら質問した。
シェリーさんが鋭い目線でゲラルドをにらんでいた。
——うわぁ……確かにこいつねちっこくて態度悪いけどそんなに怒らなくても……
「はい! 説明はおしまいです。それでは試験開始です。悔いのないように……!」
ゲラルドは大きく両手を叩くと、遺跡中にパァンという音が響き渡った。
静かな遺跡の中に音が反響する。奥の方からカタカタという物音が聞こえ始める。
目の前の通路からゴーレムが三体飛び出してきた。
『宮國社員、練習通りやれば大丈夫デス。あのアホウに目にもの見せてやるデス』
シェリーさんが小さい体から考えられないような低い声を引き絞った。
「分かってます! 行きます」
私はゆっくりとミニゴーレムたちに向かって歩みを進める。
一体のゴーレムが抜け出てくる。私の目の前までくると大きく左腕を振り上げた。
私は右腕の人差し指と中指に闘気を集中させる。指先の第一関節だけが淡く光る。
指先でゴーレムの左肘関節を突いて破壊する。
——よし、ナイフではなく、指でも壊せる!
ゴーレムは衝撃でしりもちをついた。
私は目に意識を集中させる。左胸に白い線。
正面を向き、二体のゴーレムを確認する。頭と、腰。
私は目の前で倒れているゴーレムの左胸を突くと、ゴーレムは力を失い静止した。
正面から二体のゴーレムが迫る。私は足元に落ちているゴーレムの左腕をつかみ投げた。
腕は片方のゴーレムにぶつかり、よろめき足を止めた。
変わらず近づいてくるゴーレムがゆっくりと腕を振り上げた。
私は足から紫色の闘気を噴き出し走る。指で頭部を破壊。
そのままよろめいているもう一体に近づくと腰を一気に指先で貫いた。
三体のミニゴーレムは動かなくなった。
「う~ん……やっぱり足の闘気のコントロールが苦手ですね」
私は指を振ると紫色の闘気が霧散した。
「いやいや、一週間ちょっとであれば上出来デス。この調子で頑張るデス」
シェリーさんが胸の前で小さく手を何度も合わせながら近づいてきた。
「そうですとも! いやーさすが部門長が直々に育てているだけあって優秀ですな! あと十七体あっという間に倒せそうですね!」
ゲラルドは大きく両手を広げてバチバチと手を叩いていた。音が何度も遺跡内に響いた。
シェリーさんはその隣で、顔を小さくゆがませていた。
「ええ……頑張ります」
私は小さく拳を握った。
——多分この調子ならいける。しっかし、このゲラルドってやつ。ザ・会社員って感じでイヤだな。シェリーちゃんにおべっか使うからすっごい本人イヤそうだし。
私は遺跡内を散策する。途中何度かミニゴーレム数体に遭遇するが、落ち着いて対処した。
気づけば一時間が経過し、ミニゴーレムを十八体倒していた。
私はリュックから水筒を出すと、一口喉を潤した。
「あと二体デスね。時間は基準を超えてますが最後まで気を抜かないように」
シェリーさんも隣で水筒に口をつけていた。
「もう合格間近ですから! アクシデントが起きない限りなんとかなりますよ!」
ゲラルドは豪快に笑った。
『さっきから五月蠅いデスよ』
シェリーさんがおでこに着いた桜の髪飾りを指でなぞった。
その時、地面が大きく揺れた。ズシンズシンという音が聞こえる。天井から砂埃が降ってくる。パラパラと土塊が地面に落ちた。
正面から巨大な鉄のゴーレムが、小さなゴーレム二体を連れて現れた。
「ええ……親子連れは呼んでないかな」
私は、拳を握り、じっくりとゴーレムたちを見据えた。大きく息を吐いた。
——あのでかいの、倒せるかな……いや、それよりも横の二体だ。
大きなゴーレムは光を失った単眼を私に向けると、その眼を赤く輝かせた。




