第49話「堅牢の殲滅士にクッキーを食べさせたらニッコニコになった話」1/2
「ツッコさん、ちょっと時間いいデスか?」
私はパソコンに向かっていたが声をかけられて顔を上げた。シェリーちゃん、いや。カラシニコフ部門長が桜の髪留めを指でなぞりながら、私のことを見つめていた。
「はい! シェリー……カラシニコフ部門長。大丈夫です。いかがいたしましたでしょうか」
私はカラシニコフ部門長に気づくと椅子から勢い良く立ち上がり両腕を体の横にピンと揃え、直立した。
——やべぇ……前、生意気にもセキュリティの指導とか、困ったら声かけてなんて言っちゃったよ……もしかして私魔石採掘部門に送られちゃう!?
「カラシニコフ部門長……はちょっとイヤデス」
カラシニコフ部門長は頬をぷくりと膨らませた。
「えーっと……じゃあ何とお呼びすれば……」
私は頬を突っつきたくなる衝動にあらがいながらカラシニコフ部門長を見下ろした。
——ヤダ、何、この可愛い生き物。ホントに部門長なの!?
「シェリーちゃんか、カラシニコフのニコを取ってニコちゃんがいいデス」
シェリー(ちゃん!)はニコニコと上目遣いで私のことを見上げてきた。
「シェリーさんでお願いします……さすがに上司をちゃん付けでは呼べないです」
私は息も絶え絶えになりながら、デスクに手をついた。
——ぐあああっ! まぶしい、私はブラック企業に心を腐らされているので聖属性が強すぎる!
「むぅ……まあいいデス……それよりもSランクにならないといけないんデスよね?」
シェリーさんは、眉を小さくひそめた後、口に人差し指を当てた。
「はい……次はBランク昇格をめざしてるんですがちょっと課題がありまして……」
私は苦笑いを浮かべながら頭をかいた。
「課題デスか? 具体的にどんな? ツッコさん、椅子に座るデス。」
シェリーさんは隣にあった椅子を引き寄せると腰かけた。両手を組んで膝の上に乗せる。目が鋭く光り、威圧感がすごかった。
「前に教えてもらった闘気の運用がうまくできなくて……とどまらなくてはじけちゃうんです」
——なんだ、この子? さっきまでのほわほわした雰囲気はどこにいったの? 社長に睨まれたイヤな同期状態なんだけど。
「ふむ? やってみるデス」
シェリーさんは背筋をピンと伸ばし、私の手元を覗き込んできた。
「はい。やってみますね」
私は前に教えてもらったように、心臓から血液が流れるイメージを指先に集中させる。紫色の光が指先に集まるが、指先でバチバチと光がはじけ、霧散した。
「こんな感じになっちゃいます」
私は散っていく光を見つめながら肩を落とした。
「ちょっと私の指先を見るデス。ゆっくりわかりやすくするのでしっかり見るデスよ?」
シェリーちゃんは人差し指を立てる。人差し指の先が緑色に光っていた。
「それができないんですよ」
私は小さく肩をすくめた。
『宮國社員、私はしっかり見ろといったデス』
シェリーさんの金色の目がぎらついた。指先が大きく緑に光る。
私は目を凝らした。白い線が緑の光に重なって見える。白い線がぐるぐると緑の光の中で回っている。
目をつむりもう一度開く。よく見ると光自体がぐるぐるとらせん状に指先を上下していた。
「あ……回転してる?」
私はハッと息を呑み、シェリーさんの指先に顔を近づけた。
「よくわかったデス。前に血液の流れといったのが良くなかったデス。実際には指先で回転させて循環させるデス。血液そのものというより、輪を描くように循環させるイメージデス」
シェリーさんはタブレット端末を机に置くと、タッチペンを走らせた。
手のひらの絵を描き、手の甲から指先に向かい線を引く、指先に渦状の矢印を描く。開いているスペースになぜか猫ちゃんの絵を書き足した。「循環だニャー」というセリフ付きで。
「循環……やってみます」
私はもう一度指先に集中させる。指先が光る。その場で円を描くように闘気をコントロールする。
指先に淡い紫色の光が集まり、鈍く光った。光が指先でくるくると回ると光り続けた。
数秒後にはさっきと同じように霧散してしまった。
「やっぱり駄目です……」
私はため息をつきながら自分の指先を見つめた。
「いや……いい線行ってるデス。もう一度見るデス。」
シェリーさんは再び自分の指先に緑色の光を灯してみせた。
「ツッコさんの最初はこんな感じだったデス」
指先からバチバチと光があふれていた。
「それが今はこうなったデス」
指先の光がくるくると回る。
「理想はこうデス」
指先の光が淡く輝いた。
「あ……回転が大きすぎるのか」
私は指先にもう一度力を込める。
先ほどよりは紫色の光が描く円は小さかった。
今度は十秒程度で霧散した。
「悪くないデス。あとは練習あるのみデス」
シェリーさんは満足そうに何度も頷いてみせた。




