第48話「堅牢の殲滅士がダンジョン配信部門長に就任した話」
次の日、私が出社すると何やらダンジョン配信部門の居室内が騒がしい。
私は人をかき分けながら前の方に出ると、社長のエゲツラーと、シェリーちゃんが中央に立っていた。
「おやおや、皆さん。そろそろ静かにできませんか? カラシニコフ氏の挨拶ができないではありませんか」
エゲツラーは両手を左右に広げると、勢いよく打ち合わせた。
パァンッ!
破裂音にも似た音が響き、室内が静まり返った。
「エゲツラーさん、申し訳ないデス。私の見た目がこうなので皆さんが困惑するのも仕方ないデスよね……」
シェリーは目を伏せた。
「おやおや、カラシニコフさんのせいではございませんよ」
エゲツラーは左から右へ、ゆっくりと視線を巡らせた。全体を見渡すと咳ばらいをした。
「おやおや、キツネにつままれたような顔をしていますが、改めてご紹介しましょう。本日より正式に、我がエクリプスのダンジョン配信部門長に就任していただくことになった、シェリー・カラシニコフ氏です」
周囲の社員たちがざわめきだした。私も目を見開き、シェリーちゃんを見つめていた。
——え……小学生みたいな見た目で部門長? え? もしかして異世界転生してきた人生二度目? あるいはエルフ? 本家本元のロリババアなの……?
「初めまして。私はシェリー・カラシニコフデス。以前はある場所で戦役に参加していまして、堅牢の殲滅士という二つ名で呼ばれることもあったデス。物騒な名前ですが、皆さんとは楽しく元気に仕事ができればと思っていますので、よろしくお願いしますデス」
シェリーちゃんは深々と頭を下げた。
「私の基本的な考えについては、改めて時間を取って説明するデス。管理者の皆さんとは昨日すでに個別に話しているので、不明点があれば上司にも確認してほしいのデス。管理者の皆さんは、部下のサポートをよろしくお願いするデス」
シェリーちゃんは視線を左の方に送った。一般社員の集団から少し離れた場所に、何人か見覚えのある配信者たちが並んでいた。どうやら各チームの管理者らしい。その中にはクソ上司もいた。なぜか内股で尻をかばい、腰を小刻みに震わせている。いつにも増してキモい。
——なんだアイツ? トイレでも我慢してるのか? ってそんなことよりシェリーちゃんの二つ名。物騒過ぎない……? いや、シェリー部門長か……
シェリー部門長の金色の目が煌めくと、管理者たちが声をそろえて叫んだ。
「「アイ! 部門長!!」」
私はその光景に一抹の不安を覚えた。
だが、シェリー部門長の一言で強制的に現実に引き戻された。
「はい! それでは今日も一日頑張るのデス! 皆さん、エイエイオーデス!」
シェリー部門長は拳を頭上に突き上げた。
「「エイエイオォォォーッ!」」
前に並んだ管理者たち、クソ上司までもが、拳を突き上げていた。
「え、エイエイオー……」
私は同調圧力に屈しながら、手を頭上に突き上げた。
————
三十分後。エクリプス社のミーティングルーム。
私は部門長として初めての進捗会議に参加していた。
「次、ゲラルドチーム。進捗を報告するデス」
私はタブレット端末で部門全体の目標と進捗状況を確認しながら、タッチペンを走らせる。
「アイ! 部門長。当チームの進捗は、目標に対して八十パーセントです。数字上は順調ですが、一点、課題があります」
ゲラルドは苦虫をかみつぶしたような表情で、机の資料を見つめていた。
「課題? 話すデス」
私はタッチペンで机をコンコンと叩いた。
「実はチーム内に、メンタル不調者が出ておりまして……先日の配信が炎上したことで、本人は配信者を辞めたいと言っています。そんなことでどうする、と怒鳴りつけているのですが、一向に改善せず……申し訳ありません」
ゲラルドは頭を下げた。
私は指先に力を込めた。親指と人差し指が深緑色に輝き、握っていたタッチペンが粉々に砕ける。
「も、申し訳ありません。部門長! 引きずってでも配信を続けさせますので……」
ゲラルドが体を震わせた。
私はゆっくりと立ち上がり、机に沿ってぐるりと回るとゲラルドを見下ろした。
『貴様は社員を何だと思ってるんデスか……』
私は拳を握りしめ、真っすぐ上に伸ばした。深緑色の光が激しく拳を包む。
『社員は貴様の気分で壊していいオモチャじゃないデス!』
私はゲラルドの頭上に、握りこんだ拳をたたきつけた。
ゲラルドの体は床を突き破り、その下の地面へ頭からめり込んだ。腰をひとしきり震わせたあと、動かなくなった。
「当該社員の配信は一時停止。今日は休ませて、専門部署につなぐデス。復帰計画は本人と話し合ってから決めるデス」
私は胸ポケットから予備のタッチペンを取り出し、タブレットの画面に走らせた。
「全く……社員には優しくしないとついてこないデス。皆さんも社員の安全第一でお願いするデス」
私はゲラルド以外の管理者陣の顔を一人ずつ確認した。全員が息をのみ、一斉に何度もうなずいた。
——うん。あっちの世界にいた頃より、皆さんの理解が早くていいデス。こっちの世界は平和ボケだらけで心配してたけど何とかなりそうデス。
「次、問題児チームデス」
私は問題児へ興味なさげな視線を向けた。
——このチームは上司が上司デスからね……チームとしては一番マズいデス……
「ひぇひぇ……うちのチームは、今月の目標は達成しています……ただ、宮國社員がSランクにならないと、ボクも宮國も魔石採掘部門に異動となってしまいます。当面はそれが課題です……」
問題児は、尻を押さえながら報告書を読み上げた。
「宮國社員がSランクになる上での課題はあるデスか?」
私はタブレットを操作した。問題児チームの社員録を確認する。
「ひぇひぇ……気合と根性で頑張れと言ってます」
問題児は嬉しそうにこちらを向いた。
私は大きくため息をついた。
「申し訳ないデス。幻聴が聞こえたみたいなのでもう一度お願いするデス」
「ひぇひぇ……気合と根性で……」
「もういいデス。宮國社員は私が直接見るデス」
私はタブレットで予定を確認する。
——この後、宮國社員は特に予定が入っていない。私の予定も空いているデス。ふむ……少し確認してみる必要があるデス。
「今日の進捗確認は以上デス。各チームの社員と個別に1on1を実施し、社員ごとの活動計画を作成するデス。本人の意向も必ず確認するデス」
私は椅子から飛び降り、ミーティングルームを後にした。
居室へ戻ると、自席に座っている宮國社員を見つける。
私はその姿を見つめ、ニタリと口角を吊り上げた。




