第47話「クソ上司が部門長にお尻の穴を増やされそうになった話」2/2
「な……何かありましたか?」
私は恐る恐る口を開いた。
「いえ? なんだかもったいない使い方だなと思っただけデス」
シェリーは視線を自分のPCに落とした。
「な……何か変だった?」
私は机に手をつき、身を乗り出した。
「変デス。闘気を垂れ流してなんでそんな無駄な使い方するのか不思議だったデス」
シェリーは手を止めて立ち上がると私の目の前まで歩いてきた。
「やっぱり無駄かな……」
私は椅子に座ったまま、膝に手を置き、シェリーを真っすぐ見つめた。
「闘気を、血液のように体の中で流すイメージを持つのデス。こんな感じデス……」
シェリーが人差し指を立てる。指先だけが深緑色に光っていた。
深緑色の光が人差し指の先から付け根へ流れ、手の甲を横切る。そのまま中指を駆け上がり、指先へ移動した。
「すごっ……どうやってるの!?」
私はシェリーの手を握りしめた。
「ひぇひぇ! 宮國! いきなり新人いびりなんかやめてくれよぉ! 部下がパワハラ認定なんかされたらボクが困るんだからなぁ!」
シェリーの向こう側にクソ上司がエンカウントしていた。イベントバトルだろうか?
「あ、おはようございます。別にいじめてないです」
私はシェリーの指から手を放し、クソ上司を白い目で見つめた。
——いいとこなんだからあとにしろよ。空気読まねぇヤツだな。
「ひぇひぇ、そんなことよりシェリーちゃん。給与口座の登録や、社員証の発行とかいろいろあるのでついてきてくれるかな?」
ロクディモントはシェリーに向かって、猫撫で声、もとい……感情逆撫で声を上げた。
「分かりましたデス。ツッコ先輩、あとでまたお話したいデス」
シェリーは小さくお辞儀をすると、ロクディモントとともに居室を後にした。
私は人差し指を一本立ててみる。指先に力を集中する。
——血液を流すイメージ……
私の胸から右腕を通り、紫色の光が走る。全身から噴き出していた闘気が消え、指先へ集まった。
だが、指先に留まったのは一瞬だった。闘気は紫色の霧となって外へ漏れ、そのまま消えてしまう。
——あれ? 今の、全身から噴き出す感じじゃなかったぞ?
私はもう一度試してみる。今度は左腕へ流す。結果は同じだった。
——ああ……体の中を移動させるのは、こういうことか。でも、指先に留められず外へ漏れてる。どうすればいいんだ、これ?
————
数時間後、エクリプス社の研修室。
『おい! クソ野郎。貴様は前回の動画で何をやろうとしたか述べてみるデス』
部門長が迷彩のワンピースを揺らしながらボクの前を行ったり来たりしていた。
「ひぇひぇ……助けた女の人を彼女に……しようとしました」
ボクは正座をしたまま、顔を上げることもなく震える。視線だけを部門長に向けていた。
『ホゥッ! 脳みそにもクソが詰まっているかと思ったが、人語が理解できるくらいの知能はあるようデス……』
部門長が桜の髪留めを外し、手の中で握りしめる。
深緑色の光が指の隙間からあふれ、次の瞬間、小さな髪留めは無骨なカラシニコフへ姿を変えていた。
『だが、なぜ自分のやっていることが一般的にクソだと理解できないのデス? その頭には脳みそが入っていないんデスか?』
部門長はボクの頭をカラシニコフの銃口でゴンゴンと叩いた。
「ひぇひぇ……そんなにまずいでしょうか……」
ボクはゆっくりと顔を上げた。
『ハッハッハ! これは笑わせてくれるデス。まさかこんなことも理解できなかったとは……貴様は倫理観を母親の腹の中に置いてきたようデス……着任してやっていることといえば貴様の尻拭いばかりデス!』
「ひぇひぇ……申し訳ありません」
ボクは床を見つめ、そのまま額をこすりつけた。
部門長はボクの後ろに回り込むとお尻に銃口を突きつけた。
『どっちみち拭かねばならんのなら、穴をもう一つ増やしてやるデス』
部門長が引き金を絞った。
ダダダダダッ!
「ひぇひぇーーーッ!」
ボクの尻に、爆発したかのような激痛が何度も何度も走った。
『ハーッハッハァッ! 少しは頭を冷やすんデスゥッ!』
部門長の高笑いと銃声が、研修室に響き渡った。




