第43話「漆黒の聖騎士のせいで吐瀉物動画までミリオンバズしていた件」
私は、エスルスにフリードとセラの食事の対応をお願いして会社に向かった。
エクリプスのロビーを抜け、ダンジョン配信部門の居室に入る。
社員証をかざして入室しようとしたとき、背後から声が聞こえた。
「ひぇひぇ……宮國ぃ……」
クソ上司が、鷲鼻を揺らしながら私のことをにらんでいた。目を細めてこちらを見つめるところにどこかセクハライドオジに既視感があり、不快感が増した。
「おはようございます。昨日は失礼しました」
私は小さくだが、頭を下げた。
「ひぇひぇ? お前から謝ってくるとは珍しいな」
クソ上司が小さく肩を揺らした。
「大切なご飯を戻してしまったので。本当に申し訳なかったと思っています。食材たちに」
私は、扉を閉める。オートロックがカギをかける。
扉の向こうでカバンを漁る音と、ひぇひぇ語で何かを叫ぶ声が聞こえたが私はそのまま自席に向かった。
ふと、ひぇひぇ語が聞こえなくなったので、振り向くと扉の向こうで黒髪の少女と、クソ上司が会話をしていた。クソ上司はひぇこひぇこと頭を下げていた。
——あの少女何者かな? 小学生……?
クソ上司と少女はどこかに行ってしまったので、私は振り返り自席に向かう。
PCをカバンから出し、起動すると投稿動画を確認する。
私は手を止める。フリードの一件以来再生数がおかしなことになっている。
第1回『ツッコのダンジョン配信脱力解説講座、飯テロもあるよ』、150万再生。
第1回『ツッコのダンジョン配信脱力解説講座、飯テロもあるよ』番外編。とんかつを作った回だな。235万再生。
私は目頭を押さえた。
——なんてこった。ミリオン配信者になっちゃってるよ……というかご飯作ってエスルスがクアドラプルアクセル決めただけの回がこんなことになってるのが、一番信じられないけど……
私はマウスホイールをカリカリとまわし、また手を止めた。
画面に映る数字を見て大きく息を吐いた。
第1回『ぶりっこツッコのドキドキ配信』370万再生。
私は胸を押さえ、天井に向かいゆっくりと顔の角度を上げていく。天井を見つめ、仰いだ。
——うん?
私はゆっくりと首を正面に戻す。もう一度画面を見つめた。370万再生。ヨシっ! 指さし確認も忘れない。
震える手をマウスに添えて、左手も右手に重ね、恐る恐る動画のリンクをクリックする。
コメント欄を見て息を飲んだ。
名無しさんA:3ゲトー!
名無しさんB:これが最近話題のツッコの配信?
名無しさんC:フリード殺したってやつだっけ?
名無しさんD:いや、あれデマだったらしいぞ。前、普通に殴り合いしてたし。
名無しさんE:そうなのか? 俺は飯食ってる動画見たけど。
名無しさんA:ツッコ、Fランクのくせにフリードボコってたよ?
名無しさんC:え、じゃあ殺したのってマジ?
名無しさんD:時系列が違うって。殺した噂→フリードボコる→フリードとご飯だろ?
ガンギマリスト:そうよ。よく知ってるわね。
名無しさんD:フリードボコるときも、ご飯の時もセラってAランク配信者もいた。
名無しさんE:あー、いた。アイツって何者なの?
ケセラセラ:セラ姉さんは、ものすごくたくましくて、色っぽくて、おもしろくて、姉御肌の最高のコンテンツなんだよ。
名無しさんA:コンテンツ扱いは草w
ケセラセラ:Sランク配信者より強いんだから、バカにしないでよね。フリードやスクワライドにも負けないわ。
スクワライドLOVE美:それは聞き捨てならないわね。
ガンギマリスト:聞き捨てならないわ。
スクワライドしか勝たん子:ちょっと、御三方。またケンカはダメよ。個別にグルチャでやりなさい。
スクワライドLOVE美:仕方ないわね。ガンギマリスト、ケセラセラ、いつものところで。スクワライド様がヴァンズィーンよ。あと、ツッコちゃんも。
ケセラセラ:了解。セラ様こそ究極。
ガンギマリスト:了解。フリード様こそ至高。
名無しさんA:ところでこの動画って何なの?
名無しさんB:なんか胸からこみあげるものがあるよな。
名無しさんC:うん、吐き気をもよおす動画。
名無しさんD:でも、この動画から最近の料理や、Eランク昇格試験の動画見ると変化がすさまじいよな。
名無しさんE:ほんとだよな。ぷんっ♡ ぷんっ♡ なんて言ってるこの動画とは別人。
名無しさんF:普通に今の動画は好感持てる。これはちょっと見てるとめまいがするけど。
名無しさんA:スクワライドとか、周囲の人もすごいよな。
名無しさんD;フリードは5か月前、セラは3か月前に急に動画配信始めたんだよな? それでSランクとAランクってやばくね?
名無しさんC:うん。やばい。
名無しさんA:そこによくわからない、銀髪の魔女。こいつもすごいのかな?
エスルサーA:エスルス様は強くて、美しくて、食にうるさくて。そして。
エスルサーA:本当に残念ポンコツなお方。だが、それがいい。
名無しさんD:ツッコのダンジョン配信からいきなり現れたんだよな。
名無しさんA:解説や指導してたし普通にすごいんだよな。それでツッコも配信も変わった。
ツッコラーA:そうだろぉ。ツッコちゃんはすごいんだよぉ。
名無しさんD:出たな。ツッコラーw
私はコメントを追い続けた。時々出てくるツッコのドキドキ配信に関する悪評に羞恥心で顔をゆがませながら、眼からは涙があふれデスクを濡らしていた。
——だめだな。今日は涙もろい。朝からセンチだし……なんなんだよ。これ。
私は顔を上げ、涙をハンカチでぬぐった。ティッシュを手に取りズズビーッ! と鼻をかむ。
胸に手を当て深呼吸をする。
——Sランクになるのは大変だ。正直この先が怖い。
私は左手に右手を重ねてギュっと握った。
——でも、私にはエスルスやフリード、セラ、リーベさんがいる。あと、セクハライドオジも施設料を負担してくれる。
私は机から、配信用機材用のバッテリーを取り出し、カバンの中の物と入れ替えた。
——次はCランク昇格、B、A、S。あと4回。頑張ろう。
私はきれいになった柳井のデスクを一瞥し、カバンを手に取ると、Cランクダンジョン『黄砂の古代遺跡』にむかい、エクリプスを後にした。




