第3話「食欲の魔女に配信動画を吐瀉物扱いされた話」1/3
「……」私は突然の「悩み事があるなら言ってみろ」というエスルスの提案に固まっていた。
――初めて会った人間にどこまで話すの……? でも人外の力をもってそうなこいつになら助けてもらえるのかな……?
私はエスルスの顔を見た。
「どうしたんだい? キミの相談に乗るよ?」エスルスは首をかしげていた。
「……今ダンジョンに潜って映像配信をする仕事をしてる。でも、全然視聴者がつかないし、ダンジョン攻略もできないから。仕事を首になりそう……しかも……」
「うん……それで?」
「来月までに赤字分が回収できないならセクシー部門に……Hな映像に出演しないといけなくなる……」私は指が白くなるまで力を入れた。
「それは……ひどいね……」エスルスは目をつぶった。ツッコの手に指を絡めた。
「ちょっと動画を見せてもらってもいいかな?」エスルスは覗き込むように私を見てきた。
私は無言で自分のかばんの中からパソコンを取り出して再生した。
エスルスは画面をにらみつけていた。真剣な表情で見ていた。
「ぶりっこツッコのドキドキはいし~ん! さあ! 今日からダンジョン攻略を始めるツッコです! 剣を握るのも初めてで正直こわ~い! 一番安全だという始まりのダンジョンに入っていきたいと思いま~っす」
「やだ~……怖くて泣いちゃいそう……くすん……ツッコラーのみんな? 私頑張るからいっぱい応援してね! え~! 応援するからパンツ見せろって!? そんなこと言うとプンプンするんだからね! プンッ♡ プンッ♡」
「キャー! スライムだ~! こわーい、ツッコ怖くて動けなーい!」
ツッコにスライムがとびかかってきた。 ツッコは剣を抜くと、スッと魚を三枚におろすようにスライムを両断した。
「やだー! スライムヌルヌルしてて気持ち悪ーい。ツッコラーのみんな~……助けてよぉ~ぐすん」
(中略)
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ロクディモント:パンツ見せる暇あるならセクシー部門に早くいけ。
エイト:ツッコラーw きしょw
エスルスは動画を見終わると空を仰いでいた。
「キミの動画を見てみたけど、控えめに言ってあれだね……ご飯に例えると……」エスルスは頭を垂れていた。
「ご飯に例えると……?」私はエスルスの方に体を乗り出した。
――もったいぶるなこいつ。
エスルスは顔を上げて私を見た。
「控えめに言って吐瀉物だね」エスルスは吐き捨てるように言った。
「ツマラないのはわかるけど……その言い草はひどくないかぁああーー!?」私は机をたたいた。激怒した。手が痛くて涙が出た。
「ツッコ……キミは何を思ってこの動画を作ったんだい?」エスルスは手を組んで私を見つめた。真っすぐな、見透かすような目だった。
「え……ぶりっ子にすれば興味持ってもらえるかなって……」私は目を泳がせながら答えた。
――何やったらいいかわかんないんだもん……そんな目で見ないでよ……
「そうかい、どうしてぶりっ子だったんだい?」エスルスは質問を重ねた。表情は変わっていなかった。
「……私には何もないから。上司が女を前面に出せっていうからそうするしかないと思った……レーティングギリギリでモンスターと戦える格好とかを前提に考えたらそれしか思いつかなかった……」私は下を向いた。涙がたまっていた。
――だって、誰も教えてくれないんだもん。つらくても支えてくれたおじいちゃんもおばあちゃんも死んじゃったし……上司はクズだし、同僚もやなやつだし、私は何もできないし……
「……キミは本当に馬鹿だな……大馬鹿だ……」エスルスは目を閉じた。
「バカだよ……私は才能もないし、能力もない、セクシー部門で配信するしかできない馬鹿だよ……」私は泣いていた。
――初対面の奇抜なディアンドル美女にまでバカにされて……笑えるよホント……ああ、歩道橋からあのまま落ちておけばよかった。死ねばおじいちゃんや、おばあちゃん、お母さん……お父さんにも会えたかもしれない……
「キミはッ! キミは本当に大馬鹿者だ!」エスルスは机をたたいた。大きな音がした。エスルスは平気そうだった。
「……少し荒療治だけど……現実を知ってもらうよ……先に謝っておく……ごめん……」エスルスは、私の前に手をかざした。
「な……何よ……」エスルスの手が輝いた。
――な……何する気よ……
「破滅の味を身をもって体験せよ……」エスルスはつぶやいた。つぶやき終えるとゴミ箱をツッコの顔の下に置いた。
次の瞬間、私は別の場所にいた。セクシー部門で撮影をしていた。知らない男の人、たくさんの男の人、いろんなことをした。映像には視聴者かついた。でも、1閲覧あたり、1円。撮影コストは毎日5万円。赤字が続いた。病気になった。そして……
「……!?」体が現実の私のものに戻ってきた感覚がした。私は自宅に戻っていた。胃が持ち上がった。吐き気がした。
――ダメだ……吐くな……食材を作った人に、食材になった生き物たちのためにも吐くな……
胃からこみあげてきたものを飲み込んだ。涙が出た。
「……何で」私は持ち直した。
――ああなる可能性は知ってた。でも……実体験させられるとわけが違う……なんだったんだ今のは……
「キミは大馬鹿者だ。キミのご家族が、おじいさんが、おばあさんが、お母さんが……トオルがどんな気持ちでこの家を残したのかわかるか? キミを不幸にするためじゃない。武器を与えてくれてたんだ。キミにしかない武器を……」エスルスは首を横に振った。
「それに気づかない君は本当に大馬鹿者だ……」エスルスは私をにらんだ。
「私に何があるっていうの……」私の声は驚くほど震えていた。




