第41話「クソ上司をレインボークソ上司にクラスチェンジさせた話」
私は股間を押さえて悶絶するクソ上司を見つめていた。
——あー、うっかり蹴っちゃった。でも、こいつは使うことなさそうだから別にいいか。
「つッ!」
私は眉間に触れる。頭の奥がガンガン、ずきずきとする。
同時に吐き気がこみあげてくる。
——まずい、このままじゃ……食べ物を戻しちゃう……それはダメだ……
私は口元を押さえるが、喉に何かがせり上がった。
足元で震えるクソ上司と目があった。目を潤ませ、鼻水が垂れている。
私の吐き気は加速した。
——あ、だめだ、これ。無理かも。レインボーで処理してくれないかな……
「ひぇひぇ!? み、宮國ぃッ! 吐くなよ? 深呼吸だ! ひぇっひぇっふー! だ!」
クソ上司がラマーズ式ひぇひぇ呼吸をするよう求めてきたがそれどころではない。
「ごめんなさい」
私は今日食べた朝ごはんに謝罪をすると、盛大に胃の中の物をクソ上司の顔にぶちまけた。
「ひぇひぇぶぇっ!」
下半身に力が入らないクソ上司は私の口から出るレインボーで包まれる。
私の吐き気が収まり、荒い呼吸だけが残ったころ、ただでさえ醜いクソ上司は、レインボークソ上司にクラスチェンジしていた。
私はポケットからハンカチを取り出すと、口をぬぐい、ヨロヨロとその場を後にした。
————
私は家に着いた。どうやって帰ってきたかは記憶があいまいだ。
玄関に座り込んでいると、大きな声が聞こえる。
——頭に響くからやめてほしいな……
「おい! ツッコ!? 大丈夫か!?」
金髪ゴリラが眉を顰め、心配そうに私を見つめていた。ドタバタと足音を響かせて廊下を駆けてくると、私の脇に太い腕を差し入れ、羽毛のように軽々と抱き上げた。
「ごめんなさい……頭痛くて……気分悪かった」
私はセラの首元にしがみつき、頭痛を我慢しながら見上げていた。セラはドスン、ドスンと力強い足取りで薄暗い廊下を進み、私の部屋のドアを足で蹴開けて中へと入る。
セラは私の目をじっと見つめると、大きく息を吐いた。
「お前、また無茶なスキルの使い方しただろ?」
セラは私をベッドへそっと降ろし、足元から掛け布団を引き寄せた。
「無茶かどうかはわからないけど……白い線ずっと追ってた」
私は枕に頭を沈め、重い瞼をわずかに開いた。
「……どれくらいだ?」
セラはベッドの脇に腰掛け、膝の上に両手を置いて身を乗り出してきた。
「繭を見つけて……帰ってくるまで。たぶん30分くらい」
私は痛む側頭部を手で押さえながら、かすれた声で答えた。
「バカ野郎!」
セラは自分の太ももをパンッと力任せに叩き、立ち上がりかけた。
「……ごめん」
私はぎゅっと目を閉じ、体を丸く縮こまらせた。
「すまねぇ……でかい声を出しちまって。でも、謝るんじゃねぇよ……あのスキルは便利だけどあぶねぇんだ」
セラは手で後頭部の金髪を乱暴に掻きむしり、再び腰を下ろした。
「……ごめん」
私は布団の中で小さく呟きを繰り返した。
「アタイが教えなかったのが悪い。ああいう探索/分析系スキルは脳への負荷が高いんだ」
セラは大きな手のひらを私の頭に乗せ、優しく撫でおろした。
「……」
私は何も答えなかった。顔を滑らせ、セラの腕と胸元に顔をうずめていた。
「だから、あんまり長時間使うんじゃなくて攻撃を避ける瞬間とか、瞬間的な索敵だけに使え」
セラは背中を手でぽんぽんとゆっくり包み込むように叩いた。
「わかった」
私はセラの服で目をぬぐった。
「今日はもう休め。繭を取ってきたってことは昇格はしたんだろ?」
セラは私の体に布団をかける。肩までしっかりと。
「うん……」
私は小さくうなづいた。
「よくやったじゃねぇか……ってあたいの方が年下だったな。すまねぇ」
セラは私のおでこに優しく触れると、鼻をこすった。
「師匠みたいなもんだから大丈夫だよ」
私は小さく微笑んだ。
「……そうか。まあ早く寝ちまいな!」
セラはゆっくりと立ち上がると、壁際まで歩き、壁に背を預けた。
私は天井を見つめているセラを一瞥した。
——Dランク昇格か……
私は布団の中に顔をうずめ、目をつむった。




