第39話「瞬撃の拳闘士のデコピンでぶっ飛ばされたら諜理の極意が使えるようになった話」1/2
フリードは手を下ろした。私の腕のあざは消え、痛みも引いていた。
「ほら、ツッコちゃんこれで大丈夫だよ?」
フリードは私の腕を優しく人差し指でなぞる。
「ひゃぅっ! ありがとうごじゃいましゅ……」
私は手を引いて、背筋を伸ばした。
——ガンギマリのくせにイケメンソフトタッチは反則です……
「しかし、ツッコちゃん、同い年だったんだね。僕も24歳だよ?」
フリードは前髪を左右に分けながら、小さく微笑んだ。
「え……? 同い年なんですか? エスルスは?」
私は目を見開き、ゆっくりとエスルスの方を見た。エスルスはフォークを口にくわえたまま腕枕をして横になっていた。
「ん? ボクひゃい? ボクはにじゅうひゃっさいだよ?」
エスルスは口にフォークを咥えたまましゃべる。
「おい、何話してるかわかんねーから、フォークを離せ、ってか行儀悪いんだよ。飯抜くぞ」
私は腰に手を当て、ジト目でエスルスを見下ろした。
「おっと、御免被るな、それは」
エスルスはさっと体を起こすと、フォークを手に握る。正座になり、背筋を伸ばした。
「ボクは28歳だ。来週が誕生日だよ」
エスルスは私の方をじっと見つめた。
「来週が誕生日なの? お父さんの命日と近いんだね」
私は膝の上で両手をギュッと握りしめた。
「ああ……ボクがトオルと会った日を私の誕生日にしているからね。年齢も適当だよ」
エスルスは遠い目をして、目を細めた。
「エスルスは自分の誕生日が分からないの?」
私は少し首をかしげ、静かに問いかけた。
「ボクは孤児だったからね。自分の年齢も、誕生日も把握できてないんだ」
エスルスは肩を小さくすくめて、なんてことないように笑った。
「だからトオルが決めてくれたんだ」
エスルスは湯呑みに手を伸ばし、温もりを確かめるように包み込んだ。
「そっか……そうなんだ。お父さんとはどうやって出会ったの?」
私は前傾姿勢になり、エスルスの顔を覗き込んだ。
「トオルはある日突然ボクの前に現れたよ。本人も自分がどこにいるのか、わかっていないようだったけどね」
エスルスは口元を緩めた。
「ボクがお腹を鳴らしたら嬉しそうにポケットの中に入っていたチョコレートをくれたんだ……あれは何よりもおいしかったよ」
エスルスは自分のポケットに手をやり、なつかしむように指先を動かした。
「お父さん、どんな人だった?」
私は声のトーンを落とし、静かに耳を傾けた。
「優しくて、とても強い人だった。ボクを育て、導いてくれた、フリードもどこからともなく拾ってきてね。ボクたちは家族のように暮らしていた」
エスルスはゆっくりとうなずき、お茶を一口すすった。
「お前ら誰の話してるんだ? ツッコの父ちゃんは食欲の魔女の知り合いなのか?」
セラは豪快に頭をポリポリと掻きながら割り込んできた。
「トオル・ミヤグニだよ。キミも知ってるだろ?」
エスルスは湯呑みを置き、セラへ視線を向けた。
「トオルってあのトオルか!? アタイもトオルから闘気の扱いを教えてもらったんだよなぁ!」
セラは太い太ももをバシッと叩いて声を張り上げた。
「お父さんってみんなと関わりがあったの?」
私は目を丸くした。
「ああ、そうだよ。ボクらはあっちの世界でトオルに助けられてる」
エスルスは柔らかい笑みを浮かべた。
「僕に剣の基礎を教えてくれたのもトオルだよ?」
フリードは自分の胸にそっと手を当てた。
「なんかうらやましいな」
私はぽつりと呟き、うつむいた。
——私はお父さんに何も教わってないんだよな……
「ボクはキミがうらやましいよ」
エスルスは私の顔を覗き込むように視線を合わせた。
「え?」
私は顔を上げた。
「トオルが残してくれたものがたくさんあるじゃないか、家も、キッチンも、料理も……」
エスルスはグルリと居間を見渡した。
「そして、チョウリの極意もね?」
エスルスは悪戯っぽく片目をウインクしてみせた。
「そっか……確かにそうだよね」
私は小さく微笑み、自分の手のひらを見つめた。
——お父さんが残してくれたものが私を少しずつ変えてくれてる……
「なあツッコ、お前トオルのスキルが使えるんなら一個、面白い訓練を教えてやるよ」
セラは口角をニヤリと上げ、極悪非道な笑みを浮かべた。




