第33話「限界リスナーとガチムチバトルを通じて闘気の操り方を覚えた話」2/2
「あらあら、施設利用料の件でスクワライドを探しに来たらまさかこんなところで泥棒猫に出会うだなんて。怖いわ……」ヨウシャールは腰をくねらせながら演習場の中に入り、スクワライドの横に立つと私の様子を見つめていた。
その間も気にせず訓練を行う、私とリーベ。だが、一向にコツがつかめない。
——クソッ! どうすればいいの……?
「あらあら、この程度なの? これならDランク昇格は無理でクソ弟と一緒に魔石採掘まっしぐらね……」ヨウシャールは鼻を小さく鳴らした。
「アイツと二人きりで愛でもはぐくむことになるのかしら……怖いわ」ヨウシャールは口元に手背を当て、視線を天井へ向けた。
「は?」私は間の抜けた声を出した。
——クソ上司と二人きりの生活!? 昼は魔石を掘って、寝食を共にする!? 考えただけで身の毛がよだつ! 鳥肌が立つ! 怖気が走る!
「よそ見してんじゃねぇよい!」
リーベが鞭を振るう。
一撃目。
避ける。
二撃目。
避ける。
三撃目。
——あれ?
私は驚くほどに集中していた。
今まで鞭にまとわりついていた赤い闘気。その先に、白い線が伸びている。
鞭はまだそこにない。
なのに、どこを通るのかわかる。
——見える。次に来る場所が……見える!
私は白い線から逃れるように体をひねった。
直後、さっきまで私がいた場所を鞭が通り抜けた。
四撃目。
五撃目。
白い線を追う。
いや、追うのではない。
白い線が現れた場所から、先に逃げる。
一度も鞭は私に触れなかった。
「いきなり見違えるようじゃねぇかよぃ!」リーベは鞭を引き戻し、目を見開いた。
「おぉ……コツ掴んだねぇ」スクワライドは相変わらず頬杖をついたまま、眠たげに笑っていた。
「あらあら。そんなに弟と二人きりになるのが嫌なのね……可哀想なクズ」ヨウシャールは興味なさげに髪の毛を指に巻き付けていた。
「死んでも嫌です! というか殺られる前に殺るまであります!」私は左手で拳を作り、右手の平へ叩きつけた。
「あらあら、私も暇じゃないから帰るわね……せいぜい頑張るのね」ヨウシャールは私のことを一瞥すると、身を翻して背を向けた。
「さて、それじゃあ本番といこうかよぃ……」
リーベは腰に付けた双鞭を手に取ると、全身から赤い闘気が吹きだした。
「双鞭の軌跡と呼ばれるわっちの鞭をよけられるかよい?」
膨大な量の赤いオーラが双鞭を包み込み、二本の鞭を中心に渦を巻き始めた。
「避けて見せます!」私は両足を開き、重心を低く落として刃を斜めに構えた。
「へっ! いい返事だ! 行くぜツッコぉ! 八岐大蛇の揺り籠ウウゥッ!」リーベは両手を大きく後ろに引くと一気に振りぬいた。
二本の鞭が私の周囲を包み込み、球体を形作る。球体は縮むと一気に私に迫ってきた。
白い線が無数に見える。私は球体の中でその線を避ける。避ける。避けられないものにはナイフを添えてはじく。
無数の乱打が私を襲う。大きく白い線が見えたのでそこにナイフを構えると、周囲を包み込んでいた鞭の嵐が止まった。
「ハァハァ……マジで止めちまうのかよぃ……クソっ!」リーベは地面を大きく踏んだ。
「勝負ありだねぇ……時間は三時間ちょっとかぁ」
スクワライドは重い腰を上げ、ゆっくり立ち上がった。
「あとはこれをDランク昇格試験まで続けるよぉ。……さて、ツッコちゃんはそろそろおやすみだろうねぇ」
「お休みって、どういう……」
膝から力が抜けた。
紫色の闘気が、糸の切れたように全身から霧散する。
「え?」
視界が傾いた。
——あ……私、倒れる。
そう思った瞬間、誰かの腕が私の背中を受け止めた。
顔を上げる。セクハライドオジだった。
——また、こいつはこうやって自然とボディタッチをして、こんにゃろうぶん殴ってや……
そこで私の意識は途切れた。
————
時間は少し経ち、意識のないツッコをわっちと旦那はツッコの自宅まで送り届けていた。
「やれやれ、ツッコちゃんもまだまだ闘気の扱いに慣れないねぇ」旦那は、ツッコを背負ったまま、小さくため息をついた。
「仕方がないよい。ただでさえ、強い力なんだからな……わっちも最初はよくぶっ倒れて旦那に運んでもらってただろ?」わっちは旦那の顔を見上げながら、小さくはにかんだ。
「確かにそうだねぇ。それがこんなに立派になったんだから大したもんだよぉ」旦那は、わっちのことを見下ろしながら、広げた手のひらでわっちの頭を軽くポンポンと叩いた。
「変なこというんじゃねぇよい……恥ずかしいだろぉい」わっちは叩かれた頭を手で押さえ、顔を斜め下へ背けた。
「おや、あれはエスルスさんとセラさんかなぁ?」旦那は遠くを見ながら細い目をさらに細めて見つめていた。
「おーい! スクワライド君、迷惑をかけたね。ここからはボクたちが引き取るよ」エスルスは口に左手を当て、小さく右手を上げた。
隣に立つセラは静かにたたずんでいた。
否、震えながらわっちと旦那のことをにらみつけていた。
全身の筋肉を隆起させ、気を張らずとも見える蒼白い闘気を放ちながら。
「おい、お前ら……」セラは両の拳を固く握りしめ、自身の胸の前で鈍い音を立てて打ち合わせた。
「あたいの妹分に何してくれてんだゴラぁぁぁぁッ!」
セラは地面を強く蹴りつけ、前傾姿勢のまま地を這うように疾走した。
「おい、即オチ! 待つんだ!」エスルスが手を伸ばすが、空を切った。
その動きに気を取られたわっちの目の前に、山のような女が迫っていた。




