第33話「限界リスナーとガチムチバトルを通じて闘気の操り方を覚えた話」 1/2
「ツッコちゃん、鞭から出る闘気の流れをよく見るんだよぉ」スクワライドは地面に座り込み、膝に肘をついて顎を手で支えていた。
「闘気の流れを見る……? どうやればいいんですか?」私はだらしなく座り込んだオジの方に目を向けながら、目の前で明らかに怒り狂っているリーベの顔を見つめていた。
「旦那ぁッ! そんなこともわからないヤツにわっちが勝てないっていうのかよい!」リーベは鞭を両手に持ち左右に引くとパァンッ! という乾いた音が響いた。
「う~ん、すぐには無理だろうねぇ。でも、さっきも伝えた通り半日あればなんとかなるよぉ」スクワライドはポケットに片手を突っ込み、もう片方の手でゆっくり頭を掻いた。
「だから! 火に油をそそぐようなこといわないでくださいよ!」私は、目を潤ませリーベを見つめた。
「おっ……ツッコ、そんな目で見たってわっちの怒りは収まらねぇよ!?」リーベは唇を噛み締め、私をにらみつけていた。
「リーベさん、お手柔らかにお願いします」私は目を震わせながら、小さくお辞儀をすると上目遣いでリーベを見た。
「あーっ! そんな顔するんじゃねぇよい! 仕方ねぇなぁ! 闘気ってのは一般人には見えにくいが、使えるやつが集中すりゃあ、軌跡が見えるんだ……」リーベはそっぽを向いて叫ぶように声を上げた。
「だからよい……がっつりと闘気込めてはたいてやるからしっかりよけるんだよい」リーベは体を私の方に向き直ると、カエルをにらむ蛇のような目で私を見つめてきた。
「リーベさん……」私は目をぬぐい、息を飲んだ。
——うだうだ言ったって始まらないんだから……やるしかないか……
私は腰のナイフを抜くと、リーベをにらみ返した。リーベの鞭から先ほどと同じような赤いオーラがにじみ出ているのが見える。
リーベがゆっくりと手を上げ振るう。赤いオーラが自分の方に伸びてくるのが分かる。
——見える!
私はナイフを上にあげるが、動作が間に合わず私の腕の横を鞭が通り抜ける。
鞭は大きな音を立てて私の肩に炸裂した。
「いったぁあああーーッ!」私は左肩を押さえて、その場に膝をついた。
「ツッコ……なにやってんだよい」リーベは頬を掻いた。
「ツッコちゃん、エスルスさんから聞いたけど跳理の極意? っていうスキルが使えるんだろぉ? それ使わないとだめだよぉ」スクワライドは顔に手を当て下を向いていた。
「え、スクワライドさん、エスルスのこと知ってるんですか?」私は握っていたナイフを素早く鞘へ収めた。
「ミノタウロスと戦った時に助けに行っただろぉ? その時に連絡先を伝えてあったんだよぉ」スクワライドは人差し指を立てて一度上下に振った。
「そうなんですか」私は顎を引き、そのまま軽く首を縦に動かした。
「それでねぇ? 跳理の極意を使えばSランク相当を倒せるっていうんだからさ。ちゃんとやらないとねぇ」スクワライドは両手のひらを上に向けて肩をすくめた。
「え……どういうことですか?」私は右手の親指で己の胸元を指し示した。
「ツッコ! 覚えてないのかよい? セラをぶっ倒しちまったんだぜ? それにあたいにぶっ殺すぞって啖呵も切ってくれたんだぜ?」リーベは持っていた鞭の柄で自分の肩を叩いた。
「え、あのゴリ……じゃなかった。セラさんを? しかもリーベさんにまでそんなことを!?」私は人差し指と中指で自分の眉間を挟んだ。
——ちょっと待て、記憶にないぞ。冷静に考えるとどうやってEランク昇格試験合格したんだっけ?
「そうだよい。フリードをワンパンで沈めたセラをぶっ倒しちまった」リーベは地面を右足の爪先で二回小突いた。
「いやいや……いろいろ追い付かないんですけど。フリードさんがセラさんにやられたんですか? セラさんはAランクで、フリードさんはSランクですよね?」私は広げた左手の手のひらをこちらへ向け、右手を横に振った。
「ランクと実力が合わないヤツもいるんだよい。セラなんかその典型だよ。ありゃあバケモンだ」リーベは腕組みをして胸の前で交差させた。
「そっか」私は胸に手を当てた。
——私にはそれだけの力があるってこと? じゃあ、それを使いこなせれば、魔石採掘部門に行くことがなくなる!?
小さく息を吸い込むと、目をつむり胸元に意識を集中した。胸の奥にある熱い部分を探る。
その熱を体全身に広げるように意識を集中する。
私の体から紫色の光がにじみ始め、全身を包み込んだ。
「リーベさん。お願いします」私はナイフを握りしめ、腰を落とした。
「やるじゃねぇかよい……だが、まだ入り口に立っただけだぜぇ?」リーベは鞭の持ち手を握りこんだ。
リーベが縦に手を振ると鞭が私めがけて飛んできた。
私はナイフを前に構え、受け止める。鈍い音が周囲に響く。
「できた!」私は両膝を伸ばして一歩前に踏み出した。
「何喜んでるんだよい? 遊び半分の素直な一発を退けたくらいで気を抜くんじゃねえよい」リーベが左に手を引くと、はじいたはずの鞭が私の左肩をとらえた。
「痛ッ!……くない?」私は左肩を押さえ、ゆっくりと撫でた。
「闘気でガードしてるからねぇ。ツッコちゃんが放出してる量ならまあ痛くはないだろうねぇ」スクワライドは顎をさすりながら満足げに頷いた。
「さあ! 続けるよぃ!」リーベは鞭を振るった。
私はそこから何度も挑戦するが、二度目、あるいは三度目の鞭の動きにとらえられていた。
痛くはないが、疲れはたまる。息も絶え絶えで集中力も切れてきた。
二時間が経過したとき、演習場の入り口の方から声が聞こえた。




