第28話「プリンの恨みでコボルトを蹂躙したら漆黒のパラディンが大悦びした話」
私は全身から紫色のオーラを放ちながら迫りくるコボルトを見据えた。
「恨みはないけど……八つ当たりになっちゃうけど」私は腰のナイフケースに手を当てると握りこんだ。
「恨みはらさでおくべきか……」私は地面を踏んだ。
——プリンの恨みはらさでおくべきか……
地面をえぐると、コボルトの目の前に飛んだ。コボルト五体の胸元に白い線が見える。
私はその線をゆっくりなぞると、一番近くにいたコボルトはそのまま前のめりで崩れ落ちた。肉を裂くイヤな感覚だけが手の中に残る。
——一体。
他の四体が足を止め、周囲を見渡していた。
私がゆっくり歩いて近づくと、一体がとびかかってくる。もう一体はじりじりとにじり寄ってきた。
残る二体のうち、一体は様子を見ている。もう一体は後ずさりをしていた。
とびかかってきた一体にナイフを突き立てると、そのコボルトを勢いよく突き飛ばした。
コボルトは宙を舞うと、逃げようとしていた後ずさりする一体にぶつかり共に吹き飛んだ。
——二体。あいつは後だな。
その瞬間、にじり寄ってきたもう一匹が私に向かって走ってきた。棍棒を振りかぶり、私の頭めがけて振り下ろしてきた。
私は棍棒を受け止めると、無理やり奪い取りコボルトの左側から顔をはたいた。コボルトは右に吹き飛び、壁にぶつかり動かなくなった。
——なんだろう。全然怖くない。自分が自分はないみたいだ。
私は、様子を見ている一体に近寄ると小さく微笑んだ。
「プリン返せよ、この野郎」
完全に逆恨みであった。ナイフで首を一閃。喉元を切り裂いたつもりだったが、コボルトの首と胴体は離れていた。
「おい、ツッコ……どうしちまったんだよぃ!?」リーベは鞭に手を添えていた。
私は無視をして、つぶされてもがくもう一体に近寄ると、頭を踏み潰した。骨を砕くイヤな感触が足に残る。
私は眉をひそめた。
「ツッコちゃん、キミ、大丈夫かい?」フリードがゆっくりと肩に手を添えようとした。
「気安く触るなよ、このガンギマリ野郎」私はフリードの手を払った。軽く払ったつもりだが、フリードの体ごと腕をはじいた。
『どうしたんだぃ、ツッコちゃぁん。ずいぶんご機嫌なようじゃないかぁい』フリードは両手をゆっくりと上げると背中に担いだ黒剣と蒼剣に手を添えた。
「おい! ツッコ、フリード! やめろよぃ! 試験はもう終わりだ! ツッコは昇格で終わりだよぃ!」リーベは、慌てて二人の間に割って入ろうとする。
「ツッコ、どうしたんだい? キミがそんなにおこるなんて。まあ、プリンを勝手に食べたフリードをボコボコにしたボクが言うことでもないんだが」エスルスはワイプ内で空になったプリンの容器を指でくるくる回していた。
「お前、ふざけてるのか?」私はワイプ画面のエスルスをにらみつけた。
「おや、食事係の分際で、ボクにたてつこうなんて百年早いんじゃないのか?」エスルスは私をにらみ返した。
「なぁ、エスルス」私はワイプ画面に向かって人差し指を向けた。
「なんだい? ツッコ」エスルスは白銀の髪の毛を揺らめかせながら、その双眸を黒色に染め始めていた。
「お前、明日から飯抜きな」私は親指サムをゆっくりと立てると、ひっくり返しサムズダウンした。
「ツッコ、なんてことを言うんだ。ボクに死ねというのかい……」エスルスは顔をゆがませ、白銀の髪はシュルシュルとしぼみ、目を潤ませていた。
「ハッハーッ! 食欲の魔女とはよく言ったもんだ! 飯につられて牙を抜かれるたぁ情けねぇ女だ!」エントランスゴリラが置物と化したまま何かをのたまった。
「「即オチゴリラは黙ってろ」」私とエスルスの声が重なった。
——良かったエスルスも不快だったようだ。
スクワライドLOVE美:ツッコちゃん、別人みたいになってどうしたの……?
ツッコラーA:力に飲まれちゃってるねぇ……
名無しさんA:なんだよ、ツッコってやつ、普通に強いじゃん。Eランクとはいえ、コボルトが赤子扱いだぜ?
名無しさんB:いや、でもたかがコボルトだろ。
名無しさんC:でも、コボルト五体に囲まれて倒せるか?
名無しさんA:普通にCランクくらいの実力はいるよな。
ツッコラーA:そもそも、一体は戦わずして逃げようとしていたからねぇ……本能的に命の危険を感じたんじゃないかなぁ……
名無しさんD:それでも、Sランク配信者のフリードは倒せないと思うんだが……
「何やら面白い話をしているね……」フリードは黒い髪を掻き上げると、黒剣に手を添えぬいた。
『やっぱり僕が試したほうがいいんじゃないかぁい』
舌を出してよだれを垂らし、満面の愉悦の表情をうかべるガンギマリ超人が、紫色に輝き怒髪天を突く私を喜々として見つめていた。




