第27話「食欲の魔女がとっておきのプリンを食べたので怒髪天を突いた話」
私は腰を震わせ、地面をえぐり、顔を地中にうずめたままの即オチの拳闘士から目を離し、周囲に目を向ける。
入り口に私と同じように引きつった顔で即オチゴリラを見つめる黒髪の男性に気付く。フリードだった。
「ツッコちゃん、急に飛んできたと思ったら何があったんだい?」フリードはゆっくりと黒髪をかき揚げながら近づいてくる。
「あー……試験に遅刻しそうだったのでソレに乗ってきたんですけど即落ちしてしまって」私は即オチゴリラの背中を指さした。
「災難だったね。まあでも間に合ってよかった」フリードは優しく口角を上げると私を見つめてきた。相変わらず平常時はイケメンであった。
私が周囲を見渡すと、入り口にリーベが黒髪のツインテールを揺らしながら立っていた。
「おう! ツッコちゃん、来たのかよ!」リーベは満面の笑みで手を振っていた。
「え? どうしたんですか?」私は首を傾げた。
「何、変な顔してんだよい? わっちが今日の昇格試験の試験官だ」リーベは得意げに胸を張る。
「え!? そうなんですか? Aランクの試験官が付くとは聞いてましたがまさかLOVE美さんだとは」
「だから、ツッコよぉ……わっちのことはリーベって呼んでくんな? リアルでそれはきついんだよぃ」リーベは少し顔を引きつらせてツッコミを入れた。
「あはは、すみません。リーベさんが試験官なら頼もしいです」
「じゃあ、さっそく説明するぜ? 今日は、コボルト五体を配信しながら倒してもらう。危ないと思ったら助けるから安心しろよ?」リーベは真剣な顔つきで告げた。
「ツッコちゃん、何かあれば僕もいるから安心してくれよ?」フリードが爽やかな笑顔を向けてくる。
「おめぇはちょっと信用できないからな……わっちの目の黒いうちは剣抜くんじゃねえよ?」リーベがジロリとフリードを睨みつけた。
「大丈夫ですよ。今日は。それより、アレ片付けておきますね」
フリードはセラの震える尻に指を向ける。ゆっくりとセラに近づくと、ポニーテールをつかみ埋もれた顔を引きずり出した。
「おい、起きろ。こんなところで寝てるんじゃあない」フリードは低い声でセラをにらみつけた。
「はぃぃ♡ でも、足に力がはいらないのぉ♡」セラは堕ちた雌の、いや、メスゴリラの表情を浮かべ、フリードを見つめた。
「チッ……」フリードは聞こえない程度の音で舌打ちを鳴らすと、セラをコボルトの洞窟の入り口の壁に投げつけた。
「ひどいッ♡」セラは洞窟の入り口の壁面にぶつかるとそのまま、うなだれてしまう。コボルトの洞窟名物、エントランスゴリラの像の完成だ。
「あれって、セラ・ブラストだよな。実物も大概ひどいじゃねぇかよい」リーベは呆れたように壁際のメスゴリラを一瞥した。
「そうですね。でも、力は強いし、すごいですよ」私は一応、フォローを入れておく。
——まあ、おかげで試験には間に合ったしな。うん。
「そうなのかよぃ? わっちには想像がつかねぇなぁ」リーベは腕を組みながら首を傾げた。
「とりあえずドMゴリラはほっておいて始めましょう!」私はカバンから配信機材を取り出すと、電源を入れた。
「はーい、『ツッコのダンジョン配信脱力解説講座、飯テロもあるよ』始まりまーす」私はカメラに向かって手を振った。
「それじゃあ、わっちは後ろからついていくから好きに探索するんだよぃ」リーベは腕を組んでいた。
「今日はリーベさんを監督官として、Eランク昇格試験を受けます。コボルト5体はちょっと怖いけど頑張りますねー!」
私はカメラ目線でにこやかにほほ笑むと、コメントを音声読み上げにしてから奥に向かった。
ツッコラーA:ツッコちゃん頑張ってねぇ。
スクワライドしか勝たん子:今日は真剣な配信ね。ドキドキするわ。
「ありがとうございます」私は通路を進みながら小さく返事をした。
名無しさんA:おい、ここが例のツッコの飯テロ配信か?
名無しさんB:そうみたいだな。また、卑怯な手を使うのかな?
ロクディモント:宮國! ちゃんと昇格しろよ! ボクのためにも!
名無しさんC:どうせ、試験もコネとかで通るんだろ?
名無しさんA:マジかよ、困ったらフリード様に助けてもらうんじゃないのか?
スクワライドしか勝たん子:ちょっとあんたたち? 応援する気がないなら出ていきなさいよ。
ツッコラーA:そうだよぉ……みんな仲良くツッコちゃんを応援しようよぉ……
「え……何これ、同接1,000ってどうなってるの……?」私はスマホを握りしめた。
「あなたたち……」リーベは腰に提げた鞭を手に取った。
「私のエンジェルになんてこといってるのよぉーーーん! ツッコが卑怯!? てめえら全員秘境に送り込んで、悲況な体験させてやろうかしらーん!」リーベは鞭で地面を叩いた。甲高い鉄の音が洞窟の中に響き渡る。
その音に驚いたコボルトが数体、私たちの方に駆けてきた。
「ちょっと! リーベさん、何やってるんですか!?」私は両手を振った。
「ああ、すまねぇツッコ。つい苛立っちまったよぃ。まあでも試験開始ってことでどうでい?」リーベは鞭を腰に戻し、ツッコの後方に下がると腕を組んだ。
「やぁ、ツッコ、リーベさん、何やらにぎやかになっているねぇ」エスルスがワイプ画面に現れた。
「エ、エスルス! ちゃんと配信出来たんだ! でも今それどころじゃないよ!」私は迫りくるコボルトに身構えた。
「もう、この世界に慣れてきたからね。僕にとっては朝飯前さ。朝ごはんはたくさん食べたけどね?」エスルスはプリンのカップを画面に見せた。
「おい、お前。それ、私が取ってあったプリンじゃないのか?」私はワイプ画面に食いついた。
「おや? そうなのかい? 確かにツッコと書いてあるね。とてもおいしかったよ」エスルスはスプーンでカップの底をすくい口に含んだ。
「お前、そのプリンいくらするのか知ってるのか?」私はわなわなと震えた。
「知らないよ? おいしかったけどね」エスルスはプリンの蓋をなめた。
「1個、1,500円だよ。このやろう……ッ!」
私の全身は紫色のオーラで包まれ、深紫色の光が洞窟内にほとばしる。その衝撃で私の髪の毛はあり得ないくらいに逆立っていた。




