第25話「瞬撃の拳闘士に遅刻しないようにライドオンした話」
ツッコラーA:そうだなぁ。時間を取ってもらえればいいけど、とりあえずまずはEランク昇格の試験を受けたらどうかな?
「次回はいつなんだい?」エスルスは顎を軽く引き、手元のスプーンを弄んだ。
スクワライドLOVE美:次回は、明後日よ。さっきの力があれば多分問題ないと思うわ。
「明後日かよ。そりゃ扱いこなせりゃ何とかなるだろうよ。使いこなせりゃな」セラは地面に寝そべったまま、両腕を頭の後ろで組み、鼻先でフンと息を吐き出した。
ツッコラーA:ああ、確かにねぇ……なかなか扱いの難しそうなスキルだからねぇ……
「ね……ねぇ? みんなで何の話してるの?」私は首を左右に振り、交互にみんなの顔や配信画面を見つめた。
「いや、ツッコ、お前よく立ってられるな。そろそろガス欠だろうがよ」セラは片方の眉を釣り上げ、寝ころんだままつま先で私の足元をコンコンと突いた。
「え……?」私の体を包み込む紫色の光が徐々に消えていく。
光が完全に消えた時、私は意識を失った。
————
私が次に目覚めた時、けたたましい着信音がなっていた。私は重い体を引きずりながら携帯電話を手にする。
「はい、宮國です」
「ひぇひぇーーーっ! 宮國! 何してるんだ、今何時だと思ってる! ボクのために起きるんだよぉ!」
「あ……さーせん、今起きました。何時か?……って」
——朝から体は重いし、耳が腐りそうなモーニングコールだし、こんな最悪な目覚めはないな。ギネスに乗せられそうな最悪の朝だ。
私はテーブルの上の置き時計を見つめ、目を疑った。
10時。始業時間は9時だ。私はいつも5時には起きて、ご飯を食べて8時30分には出社している。
「ひぇひぇ! 何を寝ぼけてるんだ! さっさときて今日の昇格試験の準備でもしろ! 13時開始まで時間がないぞ!」クソ上司は受話器越しに机をバンバンと叩く音をたてた。
「ちょっと待ってください。試験は明後日じゃ!?」私は跳ね起きるようにベッドの上で身を乗り出し、携帯電話を握りしめた。
「ひぇひぇ? お前何を言ってるんだ? 今日が試験日だぞ? 大丈夫なのか?」クソ上司はあきれたように鼻を鳴らし、爪でカリカリと何かを引っかく音を立てた。
「えー……」私はスマホの画面と壁のカレンダーを交互に二度見した。
私はテーブルの机をもう一度見た。日付はEランク昇格試験のある日だった。
「あ! いぃ!? う? えーーっ! Oh……」私はア行をすべて読み上げるような勢いで飛び起きた。
「ひぇひぇ? かきくけことでも言ってほしいのか!? さっさと支度して来い! 遅れたらボクもお前も魔石採掘所行き確定だぞ! ボクを困らせるんじゃない!」クソ上司は私を心配するそぶりも見せず自分の保身だけを気にするスタイルだった。安定のクソである。
「すみません! すぐ向かいます! 今向かってます! もうすぐ着きます」
——ボクを困らせるんじゃないって……丸一日連絡取れなかった社員の心配ぐらいしろよな……私が悪いんだけど!
私は蕎麦屋の出前を彷彿とさせる返事をしたのち、電話をガチャ切りすると、爆速で着替えた。
「おや、ツッコ? 起きたのかい?」エスルスはマグカップを口元に運び、蒸気越しに私へ視線を向けた。
「ごめん! 行ってくるよ!」私は靴のかかとをトントンと打ち付けながら叫んだ。
「そうかい。闘気を使い切ってぐっすり寝ていたからね、フリードとセラにもフォローを頼んであるから現地で合流するんだよ?」エスルスは脚を組み替え、優雅にカップをソーサーへ戻した。
「……」私はエスルスの言葉に返事することなく、玄関を抜け、農道を走る。
全力で駆け抜け、何とか最寄り駅に着いたが、時刻表を見て愕然とする。
【人身事故に伴い運転見合わせ】
「え……? 嘘……」私は、看板の前に呆然と立ち尽くしていた。
——え? このまま間に合わないと魔石採掘場行き? 太陽を見ることもない暗い穴の中でクソ上司と魔石を掘るの……?
「おい、ツッコ、何ぼさっとしてんだよ?」
私は後ろから聞こえてきた声につられてゆっくりと振り向いた。顔は看板を見つめた時と同じように引きつったままだった。
「なんだよ、その面? 乗りな! 会場まで運んでやるよ」金髪ゴリラポニーが私の目の前でしゃがみこんだ。
「え……どういうこと?」私は、胸の前で拳を作り、後ろに半歩下がった。
「言葉のまんまだよ。アタイが運んでやっからさっさと乗りな」セラは腰を手で叩くと、背中に乗るように促した。
「ごめんなさい、何言ってるかわからないです」
「あー! まだるっこしいやつだな! もういいや! 優しく運んでやろうと思ったけど」セラは私の体を持ち上げると、中空に投げ上げた。
私はセラの大きな背中に落とされ、しがみ付く。ゴリライドオンだった。
「飛ばすぜ!? 舌ぁ、噛むからよぉ……」セラの足が青白く光る。
「しゃべるんじゃねぇぞぉ!」セラは地面を蹴ると、土煙を上げ、地面をゆがませながら駆け抜ける。
隣を走る自転車を、バイクを、自動車を置き去りにしながら風になる。
私は高速で滑走するゴリラの背中に必死にしがみ付き、半泣きのまま運ばれていくのであった。




