第21話「瞬撃の拳闘士を公園で見つけてテイクアウトした話」 2/2
「エスルス、フリードさん、ただいま帰りましたー」私は玄関の扉を開け、居間まで案内する。
「お邪魔します。しかし、大きい家だね」セラは居間を眺めてきょろきょろ眺めていた。
「ずいぶん、遅かったじゃないか。待ちくたびれてお腹がペコペコだよ」エスルスが銀髪を揺らしながら居間に入ってきた。
「あれ、あんたは食欲の魔女……かい?」セラがエスルスの方に向き直り、上ずった声を上げた。
「おや、君は、即オチの拳闘士のセラ・ブラストじゃないか」エスルスが目の端を緩ませて、口角を上げた。
「変な名前で呼ぶんじゃねぇよ……あんた、相変わらずヤな奴だな」セラは拳を握った。
「ツッコ? このゲテモノはどこで拾ってきたんだい?」エスルスはセラのことを気にも留めずに私の方に振り返った。
「おい、今、そいつのことなんて呼んだよ?」セラは、体を震わせ、エスルスをにらんだ。
「おや? 即オチ風情がボクになんて目を向けるんだい?」エスルスは深淵のような暗い目でセラをにらみ返した。
「三度は言わねぇぜ? 今そいつのことをなんて呼んだ?」セラが拳を握りこむと指先から青い光が滲み出した。
「ボクのご飯係のツッコだ。文句でもあるのかい?」エスルスが手をかざすと地面が揺れ始めた。
「ツッコ……柳井を……相棒を地獄に追いやった女はお前か……」セラはその獣のような顔を私に向けた。
「宮國通子ぉぉっ……」ややうつむき加減で目の下に影が差す、その顔はゴリラそのものだった。
金髪のポニーテールがなければ人であることを否定せざるを得なかった。
私は息を飲んだ。
喉元を自然と溢れた唾液を通り過ぎるかどうかというその瀬戸際で。
ゴリラはすでに私の目の前にいた。
「Hohlkopf!(バカめ!)」エスルスがセラの脇腹にケリを入れた。
ゴリラは中空を舞い、中庭に吹き飛んだ。
「エスルス・トゥルナリン……邪魔をするなよ」セラはエスルスにけられた腹を軽くなでるとゆっくりと立ち上がった。
「邪魔も何も、ボクの食事係に何をしようとしたんだい?」エスルスは私のことをつかんだ。
「え? エスルス?」私は間の抜けた声を出した。
エスルスは私をつかんだまま、中庭に飛び出した。
「ごめんよ、ツッコ。即オチは前に話した闘気を使って戦うタイプだからね。あのまま家で戦ってたらマズイ」エスルスは私の襟首を掴んだまま、庭の芝生の上に着地した。
「まずいって……何が!?」私は空中で足をバタバタさせながら尋ねた。
「あのまま家で戦えば、ヤツのスキルで家が消し飛ぶ」エスルスは私を下ろすと、両手を前に構えた。
『暴食の闇よ、すべてを喰らう深淵よ……我が声にこたえたまへ……』エスルスは目を見開き、魔法のようなものを唱え始めた。
エスルスの影が、広がり、周囲に闇が広がり始めた。
「何これ……」私はよたよたと後ずさった。後ろにある松の木に体があたった。
「はっ! 食欲の魔女も本気ってことか。いいぜ? アタイのとっておきでねじ伏せてやるよ」
セラは両の拳を自分の前で打ち付けると、鈍い音が響いた。
両手を引くとセラの体から青い光があふれ始めた。
光はキンキンと甲高い音を立てると青い光は蒼白く変わり、周囲を真っ白に照らし始めた。
地面が揺れ、大気が震えた。
庭にある灯篭が倒れた。
裏庭の山からは一斉に鳥たちが飛び去った。
エスルスはその様子を見ながらも詠唱を続けている。
周囲に広がった闇はエスルスの掌に集まると小さな球体となった。
『食らいなぁッ! ソニックゥゥッ! カタストロフゥゥッ! インパクトォオオッ!』
セラが両腕を正面に突き出すと蒼白色の閃光が正面に打ち放たれた。爆音を立てながら閃光を周囲に弾き飛ばしながらエスルスと私めがけて飛んできた。
『全てを喰らえ、FressgierDunkelheit(暴食の深淵)……』
エスルスが詠唱を終え、目を見開いた。目は漆黒に染まり、手から小さな黒色の玉がふわふわと放たれた。
黒色の玉は静かに、静かにすべてを飲み込み迫る蒼白色の波動に近づいていった。
黒色の玉が蒼白色の波動に触れた時、深淵が一気に広がり、光を包み込んだ。
闇が集束し、光を飲み込んだ。
「エスルス……すごいね」私は圧倒的な魔力と闘気の衝突を前に、ただ呆然と呟いた。
「ツッコ! 伏せるんだ!」エスルスが両手を広げると、地面が膨らみ、私たちの周りに土の壁がせりあがった。
壁の隙間から青白い光が空に昇り、周囲にものすごい振動と爆音が広がり、目の前にあった土の壁が吹き飛んだ。
周囲に土煙が広がり、何も見えなくなった。
「ツッコ、無事かい?」私は土煙の向こうにエスルスの影を見つけた。
「はっはっは! エスルス! あんたの魔力もこっちの世界じゃ形無しじゃねぇか!」セラの声が響いた。
徐々に土煙が晴れていき、私は目を疑った。
エスルスの足元には血だまりができていた。
頭からは血があふれ、銀髪を赤く染める。
ディアンドルもボロボロだった。
それにも関わらず、エスルスの後方から私が座っている周囲は、衝撃を受けることなくきれいだった。
「エスルス! 大丈夫!?」私はエスルスに駆け寄り体を支えた。
私は土煙がなくなった正面を見つめた。だがそこにはセラはいなかった。
「全く! 情けないったらありゃしねぇな! 所詮はその程度か!」セラの声が下から聞こえた。
私は声の方に視線を落とす。
そこにはうつぶせにぶっ倒れて、顔だけをこちらに向け、腰を震わせるセラと目があった。
私は再び目を疑った。




