第21話「瞬撃の拳闘士を公園で見つけてテイクアウトした話」 1/2
私はブランコで空を見上げる女性の横顔を見つめていた。
——ガタイはいいけど綺麗な女性だな……
私の視線に気づいた女性が立ち上がる。
「テメェ? 何見てんだ? 見せもんじゃねーぞ?」女性は私の前まで近づくと眉間を引きつらせながら私のことを見下ろした。
「い……いえ、きれいだなと思って見つめてました。ごめんなさい。許してください」私は全力で体を前に曲げた。
——何この人、威圧感が凄すぎなんだけど……絶対、人殺す系女子だ……
「あん? 何がきれいだって?」女性は怪訝そうに片方の眉を跳ね上げ、ガシガシと後頭部を掻いた。
「えっと……あなたが月に照らされる姿が綺麗だなって思って見惚れてました」私は顔を引きつらせながら、必死に言葉を返した。
「な! 何言ってんだい! 女同士で『月がきれいですね』だって? アタイにはそういう趣味はねーよ。やめてくんな!」女性は顔を真っ赤にして両手を振った。
「え、いや、そこまで言ってないんですけど……落ち着いてください」私は引き気味に一歩後退りした。
「お、落ち着くだぁ……? テメェ、アタイに向かって何てこと言い出しやがるんだッ!」女性はカッと目を見開き、自身の胸元を押さえた。
「え……? ただ『冷静になって』って意味で……」私は両手を前に出してなだめようと試みた。
——え、何この人? 細マッチョみたいなイイガタイしてるくせに勘違い女子? 地雷系でゴリラ、もしかして私はこのモンスターをハントした方がいいのか?
「すっとぼけるんじゃねぇよ! 『落ち着く』って言ったら……それもう『一緒に家庭を作れ』って意味だろ!? つまり、嫁に来いってことじゃねぇかッ!!」女性は耳まで真っ赤に染め上げ、大音量で叫びながら激しく両手を振り回した。
「ハァッ!? なんでそうなるんですか!? 飛躍しすぎですよね」私は恐怖も吹き飛ぶほどの衝撃で突っ込んだ。
——こいつ、脳まで筋肉になってやがる。パワーヌル飲ませたらどうなっちまうんだ?
「順序ってものがあるだろう……よ? 出会った瞬間に『月が綺麗』で告白して、次のセリフで『落ち着け』って……どんだけスピード婚狙ってんだテメェは……いくら瞬撃の拳闘士って呼ばれているアタイでもそんなにすぐ覚悟ができねえよッ……」女性は頭を抱えて公園内をうろうろと行ったり来たりし始めた。
「あの……聞いてます? 全然違います。頼むから話聞けよ、コラ」私はパワー・ヌルを一気飲みすると半ばやけくそ気味に毒を吐いた。
「あん? てめぇ、今なんつった?」女はぴたりと立ち止まると、射貫くような目で私をにらんできた。
「話聞け、コラって言ったんですよ。知能指数がヌルですか? ヌルヌルなんですか?」私も相棒のせいで知能指数がヌルになっていた。
「てめぇ……ちっせぇ体のくせにイキがんじゃねぇぞ……」女性は顔に青筋を浮かべていた。ピクピクと血管が動いている。
「あなたも、でっけぇ体のくせして私なんかに絡んでんじゃないですよ」私の顔は青みがかって、ビクビクと震えていた。
私は冷静になっていた。私は身長150cmで体重は50㎏程度しかない。具体的な数値は乙女の秘密だ。かたや30㎝近くは大きいうえに二の腕が私のふくらはぎくらいある相手。
——うん。間違いなくアルコールでトンで、イキがっていたのは私です。本当にありがとうございました。
その瞬間、「ぐゥ~~~~~~っ!」という音があたりに鳴り響いた。
私は周囲を見渡した。目の前のゴールデンポニーテールゴリラが顔を真っ赤にしていた。
「昨日から何も食べてないんだよ……」
私は、勝機を逃さなかった。
「よかったら一緒に私の家でご飯食べませんか! 今から帰るところなんです」私は満面の笑みを浮かべて、両の掌を返した。
「え、いいのか? さっきは何か絡んじまってすまねぇな。あんた、話が分かるじゃねぇか」
「私ほど話が分かる人はいませんよ。ははは! あ、私は宮國通子です!」私は普段出さないような軽快な声で答えた。
「宮國さんか、アタイの名前はセラ・ブラスト。よろしくな」セラはごつごつとした大きな手を差し出した。
私はその手を握ると、二人で最寄り駅に向かいながら歩き出した。
ユラユラと揺れる金髪ポニーテールと、ふらふらと左右に揺れる私の体を月明かりが照らしていた。




