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第20話「イヤな同僚を動画がバズった結果セクシー部門に送り込んだ話」 2/2

「おやおや、とてつもない数値ですね。視聴者数が増えること自体は悪くありません。広告収入にもなりますからね。ただ……」


 エゲツェフは眼鏡をはずした。


 金色の縦に線の入った右目で柳井を見下ろした。


「おかげでSランク配信者のフリードの株が暴落して、視聴者数に影響が出ているのはどう落とし前をつけてくれるんですか?」


「お、俺に関係がありますか?」柳井は唇を震わせながら、エゲツェフを見上げた。


 エゲツェフは机の方に向き直るとファイルをつかんで柳井の顔にぶつけた。


「おやおや、しらばっくれるとは本当にたちが悪い……」


 柳井はその書類を手にして震えていた。


「削除された投稿を書き込んだ人物の自宅住所だ。心当たりはありますよね? 柳井社員」


 エゲツェフは腕を組み、冷ややかな視線を下へと投げた。


 柳井は手に持った紙をぐしゃぐしゃに皴を入れるほど震えていた。


「柳井社員、君にはセクシー男優配信部門の出向を命ずる」


 エゲツェフは人差し指をスッと柳井の鼻先へと突きつけた。


「え!? セクシー男優配信部門ですか!? あの男同士でくんずほぐれつするあの部門ですか?」柳井は尻餅をついたまま、両手で頭を抱え込んだ。


「おやおや、ご存じのようで安心しましたよ。これからの会社の発展(ハッテン)にせいぜい貢献してください……」エゲツェフは口元を吊り上げ、両手を軽く広げてみせた。


「い、嫌だァアーーッ! それだけはやめてください! 社長!」柳井はエゲツェフの足に縋り付いた。


「おやおや、みっともない。おい、連れていけ」


 エゲツェフが合図をすると黒光りする日に焼けた肉体を見せびらかす、海パンマッチョが二人やってきて、柳井をつかんだ。


「離せッ! 離してくれぇーッ!」


 柳井はマッチョたちに担がれて私の前を通り過ぎた。ドップラー柳井だった。目の前を通るときは高い悲鳴が、離れるにつれて低くなった。


 遠くから柳井の叫び声が聞こえた気もするが、私は考えるのをやめた。私は息を吐いた。

 ——柳井……安心して眠れ、骨は拾ってやらん。さんざん私を馬鹿にしてきた罰を受けろ。


「おやおや、宮國社員、何を安心しているんですか? まだ話は終わっていませんよ?」


 エゲツェフの縦に線の入った青色の瞳がきらりと光った。


「え……? まだ何かありますか?」私は首をわずかに傾げ、警戒するように一歩身を引いた。


「おやおや、さっきの話だけのために君を呼ぶわけがないでしょう。話は二つあります」エゲツェフは人差し指と中指を立てた。


「一つ目、今回の騒動の結果、君の借金はチャラになりました」エゲツェフは中指を閉じた。


「二つ目、これはヨウシャールからの提案ですが、宮國さん、あなたはSクラス配信者をめざしてください。できなければあなたは魔石採掘部門でロクディモントと一緒に今回の件のトラブル分の補填をしてもらいます」エゲツェフは人差し指も閉じて拳を作った。


 エゲツェフはロクディモントに近づくと、その拳をロクディモントに押し当てた。


「「な! なんでですか?」」私とクソ上司の声がハモった。実現したくないハモりだった。

 ——魔石採掘部門って送られたら最後、外出許可権を貯めないと外にすら出られないという黒いうわさがある超ブラック部門じゃ……絶対にイヤだ!


「おやおや、簡単な話ですよ。疑惑をなくすためです。宮國社員がSクラス配信者になれば正々堂々とフリードを倒したことになり、疑惑は晴れます」


 エゲツェフは両手を広げ、ごく当然のことのように胸を張ってみせた。


「そ、そんなこと言ったって……私まだFランクですよ?」私は両手のひらを胸の前でひらひらと振って頬をひきつらせた。


「おやおや、では今すぐ魔石採掘部門に行きますか? それとも三か月かけてSランク配信者をめざしますか?」エゲツェフは人差し指をスッと私の鼻先へ突きつけてみせた。


「さ、三か月ですか?」私は指をさされたまま硬直した。


「あらあら、できないとでもいうの? 昇格考査は月に2回あるわ? Sランクなら6回連続で昇格すればいいのだから。フリードを倒したあなたには簡単でしょう?」ヨウシャールは口元に手を当てて、笑みを隠していた。


「おやおや、それは期待できますね。それでは話は終わりです」


 私はそのまま社長室を後にした。


 クソ上司が「ボクまで送り込まれないように絶対に何としてもSクラス配信者になるんだ! 君ならやればできる!」などと無責任な励ましを言っているような空耳も聞こえた気がするが、右から左に通り抜けていった。


 私はそのあとの記憶が不確かなまま、帰路についていた。


 三か月でSクラス配信者。途方もない道のり。


 私は空を仰いだ。そして、大きくうなだれた。


 コンビニに立ち寄り、私の相棒であるパワーヌルのグレープフルーツ味と、カプサイシン味を購入する。


 会社の最寄り駅近くにある公園までキメながら歩いた。


 公園に立ち寄ると、ブランコに揺られる一人の人影が見えた。


「柳井のヤツが行方不明になっちまった。アタイはこれからどうすりゃいいんだよ」


 金色のポニーテールを揺らす、大柄な女性が満月を見上げていた。

 =============【作者より】


 読んでいただきありがとうございました。


 さて、新章「Sランク配信者を目指して」開幕です。ブランコに揺られる女性は何者なのか?

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