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第2話「食欲の魔女を豚の生姜焼きで天に昇らせた話」2/4

「はぁ……はぁ……」私は肩で息をしていた。24歳OL、底辺ダンジョン配信者とはいえ走る足は持っている。だが、今はパワーヌルでのデバフ効果で体はふらふら。走ったおかげでさらに気分が悪い。状態異常MAXだ。


 ――やばい気持ち悪くなってきた……


「はぁーー……大きな家だねぇ……この世界に来てからこんなに大きな家を見るとは思わなかったよ……」エスルスは私の家を前にして口を開けていた。


 私は自分の一人暮らしの自宅を見た。祖父から受け継いだ邸宅。


 深夜の静寂の中に堂々と佇む、格式高い純和風の大邸宅。


 立派な瓦屋根(かわらやね)土塀(どべい)でぐるりと囲まれた敷地は、個人宅の域を完全に超えてちょっとした歴史公園レベルに広い。門をくぐれば、素人目にも手入れが狂気的に行き届いていると分かる松や石灯籠(いしどうろう)の日本庭園が広がり、その奥には重厚な漆喰(しっくい)の蔵と、一人で住むには広すぎる木造の母屋(おもや)が静かに鎮座(ちんざ)している。田舎ならではの容赦(ようしゃ)ないスケール感。維持管理費と固定資産税(免税だけど)の現実的な恐怖が襲いかかってくるその佇まいは、まさに「お屋敷」と呼ぶにふさわしい圧倒的な存在感を放っていた。


 ――まあ、手入れは祖父の懇意(こんい)にしていたご近所さんが快くやってくれてるんだけどね……ホント、感謝しかないよ……って! そんなことよりトイレに案内しないと! 家は近いとは言ったけど正門から5分はかかる!


「エスルス! トイレ我慢できる!? 行くよ!」私は走り出した。


「いや~……この家をみたら驚いて引っ込んでしまったよ……」エスルスはケロッとしていた。興味深そうに邸宅や日本庭園のような庭を眺めていた。


「え~! まあいいけど……とりあえず中、案内しますね~」私は顔をひきつらせた。

 ――こいつ自由すぎるだろ……やけくそだよ! こんちくしょ―ッ!


 私はドスドスと足を踏み鳴らしながら自宅の居室に向かって歩き出した。


 ――――


 私はエスルスを居間に案内した。驚くことなかれ20畳ある。


 良く言えば開放的、悪く言えばガランとしたその空間には、無駄な家具が一切置かれておらず、磨き上げられた畳の香りがうっすらと漂っているだけだ。


 そんながらっとした空間の壁面には、立派な掛け軸と、それを見守るように歴史を感じさせる鎧兜、そして一本の包丁が飾られていた。その掛け軸には、父・(トオル)が力強い筆致で書き残したという「食実剛健(しょくじつごうけん)」の四文字が、奇妙な存在感を放ちながら堂々と鎮座していた。


「これは……なんて書いてあるんだい?」エスルスは掛け軸を興味深そうに見ていた。


食実剛健(しょくじつごうけん)……それは私の父が昔書いたものらしい……私が物心つく前に死んじゃったけど……意味は食をしっかりしていれば、取り組んでいることが実を結び、強くなり、健康にもなるって意味らしい……父は料理人だったから」私は目を伏せた。


 ――お母さんも私が15の時に亡くなった。おじいちゃんもおばあちゃんも去年立て続けに。頼れる家族は誰もいない……ああ……ホントどうしよう……これから……


「食実剛健……トオル……」エスルスは顎に手を当てて何かを考えていた。私の方を見た。


 口を開こうとしたその時、


「ぐ~~~~~~ッ」っと本日二度目の鈴虫の泣き声が居間に響いた。


「お腹が空いたよ!」エスルスは笑みを浮かべた。


「へいへ~い……お待ちくださいませ、魔女サマ~」私はエスルスに向かって手をひらひらと振りながらキッチンに向かった。


 ――全くこのポンコツ魔女め……それにしても、さっきの間は何だったんだろう……


「ボクも行くよ。キッチンに興味があるし、調理工程も見たい」エスルスは腕を組んでついてきた。


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