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第19話「イケメンパラディンと一つ屋根の下で同棲するようになった話」 2/2

「トオル自身もよくわかってないことも多かったみたいだからね」フリードは、サラリと黒色の前髪をかき上げながら、涼やかな瞳を細めた。

 

「そうなの?」私は、フリードの方に向き直り、髪から漂う香りに惚けていた。

 

「ああ、トオル自身もスキルの効果であとから名前をつけただけだから」エスルスは頭をさすっていた。

 

「白い線なら見えたことがある。ミノタウロスを倒したとき、アシッドスライムのときも……」私は、ミノタウロスに切られたお腹をなぞりながら、記憶の糸をたぐるように視線を床に落とした。

 

「たぶんそれは諜理のスキルの片鱗だろうね」エスルスは、頬をテーブルにつけたまま、面倒くさそうに片目だけをこちらに向けた。

 

「私も強くなれるのかな? スキル使えるようになるの?」私は、お腹から手を離すと、すっと背筋を伸ばして膝の上で両拳をギュッと握り締めた。

 

「可能性はあるね」エスルスは、上半身を起こすと、ポリポリと頬を掻いた。

 

「使いこなすにはどうすればいいの?」私は、乗り出すように身を乗り上げ、じっと二人の顔を交互に見つめた。

 

「わからないな」エスルスと、フリードは声を合わせた。

 

「ツッコちゃん、気を悪くしないで。僕らはどちらかというと魔力を力に変えるタイプだから、トオルのような闘気を使うタイプのスキルは苦手なんだ」エスルスは、片手で前髪を払うように整えながら、申し訳なさそうに眉根を寄せた。

 

「えー……食欲の魔女は知識の権化じゃなかったの?」私は、ジト目を向けながら、口の端を半端に歪めて腕を組んだ。

 

「ボクにも苦手なことはあるよ。肉体強化の魔法や、食事を魔力に変換はできるけど……」エスルスは、ふっと目を伏せ、肩をすくめて両手を広げた。

 

「そっか、使えない魔女だな、煎餅ばっかり食いやがって」私は、あごを少し引き、小鼻をフンと鳴らしながらそっぽを向いた。

 ——エスルスにもできないことがあるんだね。

 

「ツッコ、本音がダダ漏れじゃないかな……」エスルスは、キッと睨むとこめかみをヒクつかせた。

 

「ああ、ごめん、うっかりしてた。まぁいろいろ試してみるよ。ヒントくらいあればうれしいけど」私は、苦笑いを浮かべながら肩をすくめて見せた。

 

『剣を、たくさん振れば目覚めるかもよ? 嫌悪するくらい振ってみたらどうだぁい?』フリードは、瞳孔を開かんばかりの勢いで目を血走らせる。早着替えならぬ、早ガンギマりだった。

 

『あ……、そういうのもういいです。いらないです。それするなら出ていってください。ストレートゴーホームでお願いします』私は、両手でバッテンを作りながら数歩後ろへ下がり、硬く引きつった笑顔のまま目を逸らした。


「ツッコ、闘気を扱うには体力は必要だからそれはあながち間違いでもないよ。配信者をやるにも体力は必要だろう?」エスルスは、空になった煎餅の袋をきれいに畳みながら、軽くあごを引いて頷いた。

 

「あー、たしかにそれはそうだね、ほどほどにはするよ」私は、苦笑いを浮かべたまま後頭部をポリポリと掻き、視線を泳がせた。

 ——今回もコボルトや、狂人に襲われて危なかったしな……

 

『じゃあ、明日からいっしょに振らないかぁい』フリードは、ぬっと顔を近づけると、血走った目を濁らせて胸の前で拳をギュッと握り締めた。

 

「ツッコは体がスキルの反動で痛んでるから明日はやめておくんだよ。でもツッコ、この男はたしかに強いから、強くなるにはもってこいだよ」エスルスは、すかさずフリードの首根っこを指先でつまみ、クイッと後ろへ引っ張り戻した。


『死なない程度にほどほどにお願いしますね……』私は二人を見つめてため息をついた、


「ツッコちゃん、わかったよ、ほどほどだね」フリードは爽やかな笑顔を見せたが、体は小刻みにふるえていた。 


 こうして限界OLと食欲の奇女、イケメンガンギマリパラディンの三人の配信生活兼同棲生活が始まるのであった。 


 ————


 次の日、私は業務開始直前に出社した。剣を振りすぎたせいか、スキルの影響は分からないが体が痛い。めちゃくちゃ痛い。階段を昇り降りするだけでふくらはぎがはち切れんばかりだ。


 居室にはいると何やら騒がしい。


『おい、宮國がSランク配信者を殺したらしいぜ?』『Aランクのリーベも犠牲になったらしい』 


 事実とは異なる不穏な会話が聞こえる。

 

「ひぇひぇ! 宮國! お前来るのが遅いぞ! お前の動画が大炎上してるんだ! 社長が、兄者が呼んでるから今から行くぞ!」クソ上司は血相を変えて私の両肩を掴んできた。

 ——炎上? あなたのセクハラでも炎上は起きてますよ? 私の心は怒り心頭です。


 ——って、え? 炎上?


 朝イチ、会社に着いてから出会った第一村人(クソ上司)との会話は『大炎上』という不穏な言葉で、この先の波乱を直に示していた。

 =============【作者より】


 読んでいただきありがとうございました。


 調理の極意に関する解説で少し世界観が広がりましたかね?

 

 フリード編は決着、次回新章開幕です。

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