第19話「イケメンパラディンと一つ屋根の下で同棲するようになった話」 1/2
私と、エスルス、フリードはリーベを最寄り駅まで送った後、私の家に向かった。
「ツッコちゃんのお家は大きいな……剣の稽古にはもってこいだね」フリードは居間の『食実剛健』の掛け軸を見つめながら呟いていた。
「そういえばツッコ、キミがトオルを呼んだきっかけはわかってるのかい?」エスルスは座布団のうえに座り込むとテーブルのうえに置いてある煎餅の袋を開けた。
「いやぁ、それがよく覚えてなくて……そこの狂人が剣を振りながら近づいてきたから、カバンを持って逃げたんだけど」私は掛け軸を見つめるフリードの背中を指さした。
「正直、壁に追い詰められてカバンに手を入れて何かないか必死に探したあたりから記憶がない」
——最後に見たのはDIEソースのガンギまった顔なんだよな……
「ああ、それなら僕がわかりますよ」フリードが振り向いた。見返りイケメンだった。
——コイツ、ほんとにタイプなのに狂人なの残念なんだよな……
「カバンをあさっていたらその掛け軸と同じ文字が彫ってある包丁を握って僕に向けたんだ、ガタガタと震えながらね?」フリードは、私に近づくと人差し指を顎の下に、親指を顎先に当てる。
クイッと上に向けると見つめてきた。
「雨に濡れて震える子猫ちゃんみたいだったよ」フリードは吐息を漏らすと、私の顔にかかった。クソ上司とは異なるいい匂いがする。ファンシーブリーズである。
私の脳内はお花畑だったが、DIEくんのガンギマスマイルを思い出して踏みとどまった。
——アイツは残念イケメン、アイツは残念イケメン……DIE君と同じガンギマリの、残念イケメン……
「それで? その後どうなったの?」私は顔を振って逃れながら尋ねた。
「身体が金色に光ったと思ったらトオルに変わった。多分、あの瞬間からトオルだったと思う」フリードは、両肩を軽くすくめながら、ふっと柔らかく息を吐いた。白い歯が上品に覗く。
「あとはいくつか気になることがあったね」フリードは、人差し指を立てて軽く左右に振ると、視線を斜め上へと遊ばせた。
「気になること?」私は、両手をテーブルの上で固く握り締め、わずかに前のめりになる。
「目が白く輝いていた。あと、全身が紫色に輝いてそれから動きが変わった」フリードは、腕を組んで自分の肘を親指で軽く摩りながら頷いた。
「それはトオルの諜理の極意と、跳理の極意だね」エスルスは、煎餅の袋から粉を指先でつまみ、口に運んでからゆっくりと瞬きをした。
「チョウリの極意?」私は、首をこてんと左へ傾げ、眉をわずかに寄せた。
「そう、諜理の極意、諜報の諜と書く、は世の理に触れて、それを紐解き最適解を導く分析系のスキルだよ。跳理の極意は、理を跳び越えるスキル、超人的な力を発揮する身体能力強化のスキルだね」エスルスは煎餅をかじりながら補足した。
「金色に光ったのもチョウリの極意なの?」私は、片方の眉をぴくりと上げ、テーブルの端をトントンと指先で叩いた。
エスルスは煎餅の袋を逆さまにした。欠片しか落ちなかった、
空になった袋を忌々しげに見つめた後でゆっくりと私の方に視線を向けた。
「あんなスキルは見たこともないし、聞いたこともない。トオルが発動しなかったスキルか、ツッコのユニークスキルの可能性がある」
エスルスの、食欲の魔女らしい射抜くような好奇の視線が私を見据えていた。
「ユニークスキル?」私は、息を飲みながら身を乗り出した。
「ああ……ボクは一通りトオルのスキルについては聞いたことがあるけど……」エスルスは机の上に突っ伏した。
煎餅のかけらを吸うのに夢中で会話をやめた。
私はエスルスの頭を無言ではたいた。
——コイツ、やっぱり食欲の権化だな。好奇心どこいったんだよ。残念魔女め。




