第18話「イケメンパラディンをいけ好かない経理女からMTRした話」 2/2
「ツッコちゃんの料理はとても刺激的でね……」フリードは、空を見上げた。ゆっくりと口角を上げた。
『嗚呼! 思い出しただけでも、輪廻転生してしまうくらいの刺激的な料理なんだぁい!』フリードの口から泡が混じったよだれがあふれ、目はガンギマっていた。DIE君を彷彿とさせる形相だった。
私はため息をついた。死んだような目をして、ヨウシャールの方に顔だけ向けた。
——ああ……うん。これはないな。私のときめきを返せ。この野郎。クーリングオフどころか、利子もつけて直ちに全額返済しろ。
ヨウシャールは全身を震わせ、下を向いていた。
「あらあら、フリード……頭がわいたのかしら、いえ……もともとだったわね……その女のどこがいいというのよ!?」ヨウシャールは顔を上げて叫んだ。きれいな顔立ちがゆがんでいた。
「「ご飯だよ」」フリードとエスルスの声がハモった。
——おい、待て。食欲の奇女。お前まで参戦するとややこしいことになる。やめろ。やめろ……?
私は顎を撫でた。
——いや、いいぞ。もっとやれ!
私は心の中でサムズアップをした。そして、その手を逆向きにひっくり返した。
「ツッコの作るご飯は神の領域だよ。ボクが言うんだから間違いないよ」エスルスは腕を組んでのけぞっていた。その瞳は、どこか底知れない美食への渇望で濁っている。なぜか人差し指は上を向いていた。
私はエスルスの人差し指の先を見上げた。
空に浮かんだリーベがいた。
「リーベさん……何やってるんですか?」私は顔をひきつらせた。
「聞かないでくれぃ。けが人だから運ばれてるんだけど。まさかの風船扱いだぜ」リーベは顔を手で覆い丸まった。
「あらあら……ご飯だけで、私を捨てるというの? こんなチンチクリンなのに? 人込みで帰りながら脱力系チューハイをキメている限界女子だというのに?」ヨウシャールは私に人差し指を向けた。
リーベが顔を覆っていた手を離し、ヨウシャールに指を突きつけた。
『あんた! 何言ってるのよ!? ツッコが限界女子ですって!? 限界なんかないわ! ツッコはおいしい料理で人の心と体を癒す限界突破な調理スキルを持ったエンジェルなのよーーー! その輝きはアンリミテッド! GENッ! KAIッ! TOッ! PPAッ! 限界突破な輝きなんだからぁーッ!』
リーベは鼻息荒く、まくし立てた。
「あらあら……」ヨウシャールはリーベを見上げて、唇を噛み締めた。
「……フリード! あなた、だれのおかげでSクラス配信者になれたと思ってるのよ! 私が社長に、弟のエゲツェフにお願いしたからでしょ!?」ヨウシャールは足を踏み鳴らし、フリードをにらみ、ギリッと歯ぎしりをした。
「いまさらそんな肩書に興味はないよ」フリードは首を横に振った。
「キミが何をしたか知らないけれど、この男のルックスと剣技なら下手なことをしなくてもSクラスくらいにはなっているよ」エスルスは肩をすくめた。
私は小さく口を開こうとしたが、やめた。
——下手なことするから無理なんじゃないかな。いやギャップ萌え……はないな。うん。ない。絶対に。
「そうだぜぃ!? この男は狂人だが、剣の実力はスクワライド様にちょっと劣るくらいの実力はあるぜ!」リーベはふわふわと浮いたまま腰に手を当てた。
「あらあら……何よ、本当に私を捨てるというの!」ヨウシャールは目に涙を浮かべ、すがるように近づいてきた。
「ああ。ツッコちゃんの方がいい」フリードはそのまま振り返ると、スタスタと駅に向かって歩き出した。
エスルスはそれに続く。私はお姫様抱っこで、リーベは魔法で浮かされてそれに強制的についていかされる。
私は肩越しにヨウシャールの姿を見た。
あのいけ好かない美人の経理女は地面に膝をつき、下を向いて体を抱き、大声を出して泣いていた。
私はゆっくりとフリードの胸に顔をうずめた。笑みがこぼれて止まらなかった。邪悪で醜悪な笑みだった。
——ああ! 快感だ! あの女のイケメン彼氏を寝取った……いや、飯取ったりーーッ! NTRならぬMTRだ!
私は、赤みを帯び始めた空に照らされるイケメンのにおいをかぎながら、愉悦に満ちた笑みを浮かべ続けていた。
「あらあら……本当に腹が立つわ……」ヨウシャールはよろよろと体を揺らしながら立ち上がった。
「……絶対に許さないんだから……明日、覚えていなさいよ」
ヨウシャールの怒りに満ちた声は私には届くことはなかった。
=============【作者より】
読んでいただきありがとうございました。
MTRという単語が浮かんだとき作者は嬉しくて小躍りしました。
が、人に飯を取られるというネットスラングがあることを知りしょぼんとしました。




