第18話「イケメンパラディンをいけ好かない経理女からMTRした話」1/2
私は目を開けた。体が浮いている感覚に気付き、顔を持ち上げると目の前にイケメンがいた。
「やあ、ツッコちゃん、起きたのかい?」フリードは周囲に光があふれるようなさわやかな笑顔を私に向けた。
——はうっ! このイケメン! 狂人だというのはわかっているはずなのに、この距離でこの顔は破壊力バツギュンですよ!?
私の鼓動は太鼓の乱れ打ちのごとくドコドコと鳴っていた。
私は目をそらすと、周囲を見渡した。車が走り、周囲の人たちからは好奇の視線を浴びせられていた。
どうやら私は抱き上げられているようだ。町中を。お姫様抱っこで。この超絶イケメンに。
「ちょ! ちょっとフリードさん、おろしてください。ハズカシイノデ……」
私は両手でフリードの胸を押しながら、足をばたつかせた。語尾が消え入るような声を絞り出した。
「ダメだよ? ツッコちゃんはケガをしたし、無理がたたって体がボロボロなんだから」フリードは背中を支える手で背中を優しくなでると、暴れて落ちそうになった私を抱き直した。フリードの首元に顔をうずめる形になる。
私は息を飲んだ。いや、飲むことができなかった。心臓が胸を突き破らんばかりの勢いで高鳴っており、肺が空気を取り込むことを拒否していた。
——いや、無理をさせたのはあなただけど! でも、イケメンの首筋! 大変です。お母さん、お父さん。ドキがムネムネでそんなことどうでもいいくらいです。
「おい、フリード。ツッコの顔が真っ赤になったり、真っ青になったりしているからほどほどにしてやってくれよ?」
フリードの後ろからエスルスが顔を出した。
「ええ、わかってますよ、エスルス様。ツッコちゃんがバタバタして、落ちると危ないのでしっかり抱きしめておきます」フリードはさらに私を自分の体に密着させるように抱きかかえる。
「ふ、ふ、フリードさん! それ抱きしめてるから。抱きかかえてるのじゃないから……」私は何とか首を出し、肩を叩いた。
その時、フリードの肩の向こうに、女性が拳を震わせながら立っているのが見えた。
「あらあら……フリード? あなたその子と何をしているの?」
女性はヒールの音をカツカツと鳴らしながら、早歩きで近づいてくるとフリードの肩をつかんだ。
「なんだ、ヨウシャールか? どうしたんだい?」
フリードは一瞥もすることなく答えた。
「あらあら、『どうしたんだい?』 じゃないわよ……? あなたは私の恋人なのに何を白昼堂々とお姫様抱っこしてイチャイチャしているのよ?」
ヨウシャールは鋭い目で私をにらみながら、右手を前にかざし、右に水平に払った。
「イチャイチャなんかしていないよ。僕のプリンセスをエスコートしているだけだ」フリードは肩をすくめた。
「「は……?」」私とヨウシャールは同時に間の抜けた声を上げた。息が合うと絶対に思わなかった二人の声がハモった。
「何を驚いてるんだい? 今日から僕は彼女の家ですむというのに」フリードはヨウシャールの方に体を向けると眉を下げて、じっとヨウシャールを見つめた。
「「ちょっとどういうこと」」「ですか!?」「なのよ!?」またハモった。シンクロナイズドハモリングだった。
「エスルス様がね。剣の稽古のためにツッコちゃんの家に住めというんだよ。魔女様の命令には逆らえないからね」フリードは顎をエスルスの方に向けた。
「あらあら……私との同棲はどうするのよ!? 恋人同士でしょ?」ヨウシャールは胸に手を当て、一歩前に出た。目は泳いでいた。
「恋人になったつもりはないよ。君が望むからそばにいただけだ。僕は今は魔女様とツッコちゃんに興味があるから」フリードはエスルスと、私に目線を送った。目線は相変わらず近かった。
「ええ!? 興味がある!?」私はフリードの目に心も射貫かれるようになりながら鼻を広げた。
——どういうことなの!? え? それって私のことが……好きってこと!? 顔はタイプだけど、狂人だからなぁ……どうしよう……
私はじっとフリードの顔を見つめ、フリードの言葉を待った。




