第17話「イケメンパラディンを激辛ソース入りビーフシチューで大興奮させた話」1/2
フリードは体を左右に揺らしながら、左手でトオルに切り裂かれた傷を押さえていた。
オレンジ色に光るが、弱弱しい光が漏れるだけですぐに消えてしまった。
フリードは膝をつき、ハァハァと大きく息を吐いていた。
「みじめだね。フリード。虎の巣をつつくからそういうことになる」ボクはフリードを見下ろした。
「エスルス様、手厳しいですね。魔法力もなくなり、剣を握ることすらできそうにありません」フリードは地面に座り込んだ。
フリードは傷を負い、血を失い、穏やかな顔を取り戻していた。
「フン……自業自得だね。トオルがいなかったらツッコは死んでいたかもしれない。そのまま反省してるんだね」ボクは腕を組み、冷ややかな視線を浴びせた。
フリードは言葉を返すことなく、うなだれていた。
「う……」ツッコがボクの腕の中で小さく震えた。ゆっくりと目を開けた。
「ここは……? そうだ、LOVE美さんは!?」ツッコは体を勢いよく起こした。
「ぎっ……!」ツッコは歯を食いしばり、体を抑えていた。
「どうしたんだい? ツッコ!?」ボクは彼女の背中に慌てて手を添えた。
「全身が痛くて……何これ……」ツッコは両腕で自身の体をかかえ込むようにして震えていた。
ボクはふっと小さく息を吐くと、ツッコにトオルから聞いた話を説明した。
————
私はエスルスの話を聞いて、リーベの方に顔を向けた。
リーベの服には赤茶黒いシミが残っているが、小さく寝息を立てていた。
私は体を引きずりながら、リーベの頭を膝に乗せた。
「リーベさん、ありがとう……」私は目に涙をため、優しくリーベの頭を撫でた。
「ん……」リーベの瞼が震えた。リーベの目と私の目があった。
リーベは目を見開くと、口を震わせた。
『ぜ、ぜ、ぜ、ぜ、零距離ーーーーーっ! 女神が目の前に零距離よーーーーんッ! 女神零式が顕現よ――――ッ! その距離数㎜ッ! 幸せッ! 幸せ家族計画! 夜の営みに必要なラテックスウウウウッ!』
リーベは全力でのけぞり叫ぶと、力尽きた。
「む……無理しちゃダメですよ」私は苦笑いしながら、そっと彼女の肩を押し戻した。
「ああ、叫びすぎたよい……さっきはビーフシチューありがとな」リーベは天井を仰ぎながら、片手をひらひらと振ってへらりと笑った。
「え? ああ、どうでしたか」私は胸の前で小さく両手を合わせ、窺うように視線を投げた。
「最高だったぜ? 天にも昇る心地で体が元気になっちまった。ツッコはすげぇな」リーベは胸を軽く拳で叩き、親指をグッと立ててみせた。
「わ、私は何もしてないよ……」私はぶんぶんと両手を左右に大きく振った。
「いや、そうでもないよ? あれは確かにツッコ、君のお父さんの力だが、料理を作ったのはキミだ」エスルスは顎に手を当て、軽く首を振ってみせた。
「どういうこと?」私は掌を上に向けてエスルスを見上げた。
「トオルの力『調理の極意』は調理工程の中で食材の生命力を限界まで高め、その力を食べたものに昇華する力だ」エスルスは人差し指を立て、静かに空間を指し示した。
「お父さん……が、引き出したんだよね?」私はぎゅっと両手の指を組み合わせ、自分の手元を見つめた。
「いや、トオルがやったのはきっかけだけだよ。調理工程ですべてが決まるから君の力だ。アイツで試してみるといい」エスルスはへたり込んでいるフリードの方に親指を向けた。
エスルスがゆっくりとリーベの横まで来ると、しゃがみこみビーフシチューの入った容器をつかむ。
私のカバンを一瞥すると、そちらに向かいゆっくりと歩き、カバンを開け、ごそごそと漁っている。
何をしているのかは背中で隠れて見えなかった。
「エスルス、何をしたの?」私は、眉をひそめた。
「ん~? 気にしなくていいよ。さ、これをアイツに食べさせてやるんだ。殺すには惜しい男だからね」エスルスは、意味ありげな笑みを浮かべ、容器を私に差し出した。
私はビーフシチューの入った容器を手にした。
エスルスはその横でスマホを取り出し、配信を再開していた。




