第16話「限界配信者の父が狂人に稽古をつけた話」 1/3
ボクは、ツッコを見つめていた。
「ほ、本当にトオルなんですか? ツッコは! ツッコはどうなったんですか?」頬を伝る涙をぬぐった。
『俺にもよくわかんねぇんだけどよ。ちょっち、ツッコの中に入っちまったみたいなんだよ……っと、それより』
ツッコ、いや、トオルはゆっくりとツインテールの少女のもとに歩いた。
『おい、エスルス。ちょっち、この子治せるか?』トオルは少女を指さし、ボクの方を見た。
「魔力がそこまでないので、傷をふさぐくらいまでなら」ボクは少女の隣にしゃがんだ。
『十分だ。とりあえずやれるとこまでやってくれや』トオルはカバンの中を漁っていた。
「ええ……わかりました」エスルスは少女に手をかざした。オレンジ色の光が指先からあふれ、ゆっくりと少女の傷を包んでいく。
リーベの傷はふさがり血が止まった。
『嬢ちゃん、ちょっちいてぇかもしんねぇけど、我慢してくれよ?』トオルはリーベの胸に手を当てた。
ドンッと大きな音が響くと、リーベの体が小さく跳ねた。
「がはっ! げほっ、ごほっ」リーベは口から血を吐き出した。
ゆっくりと目を開けると、手を伸ばした。
「なんだ……ツッコか? 無事だったかよい? わっちはもうだめだよ」リーベの手は震えていた。顔は血の気が引いて土気色だった。
『ツインテールの嬢ちゃん、弱気になるなよ? ちょっち、体を起こすぞ』トオルは支えていた、腕を持ち上げ、リーベの体を起こした。
「ツッコ、体に力が入らないんだよぃ……腹減っちまった」リーベは、小さく口角を上げる。瞳が小刻みに揺れている。目の焦点が合っていない。
『なんだよ、嬢ちゃん、腹減ってんのか? ちょうどいいな、これでも食いな?』トオルはボトルの蓋を開け、リーベの口元に近づけた。
「これは何でぇ?」リーベは、鼻を引くつかせながら、手を伸ばした。
『ツッコが作った、ビーフシチューみたいだぜ? 食ってみな』トオルは、ボトルを少し傾けた。
「へぇ、最後にツッコの料理がくえるたぁ、わっちも幸せもんだねぃ」リーベは頬を緩ませ、ボトルに口をつけた。
『弱音はいてる暇があったらさっさと食っちまえよ?』トオルは小さく微笑んだ。
リーベは喉を鳴らす。
「うめぇや、ツッコ……野菜がとろとろに溶けて、トマトの酸味がほのかに香り、牛のうまみが広がると、体にしみこんで力が湧いてくるみてぇだ」
リーベが小さく息を漏らす。体から緑色の粒子があふれ始めた。
緑色の光がリーベを包み込む。
土気色だった肌の色が、つやつやと赤みを帯びていく。
あふれた光は徐々にリーベの中に戻り、はじけるように消えていく。
しばらくして緑色の光が消えた。
リーベは目をつむり、スースーと小さな寝息を立て始めた。
『よし、これで大丈夫だ』トオルは静かに立ち上がり、自分の手のひらをじっと見つめた。
「トオル、今のは調理の極意ですよね?」ボクはその姿を見上げた。
『ああ、そうとも。ツッコは徐々に力に目覚めつつあるようだぜ?』トオルは自身の肩を軽く回しながら、大きく口角を上げた。
「ツッコが……? 片鱗はありましたが」ボクは思わず言葉を詰まらせた。
『ああ、この体でいろいろできたからな。たぶん、俺の力を引き継いじゃあいるが使いこなせてはいないみたいだ』トオルは小さな手で、自身の後頭部をごしごしと掻いた。
「いくつ……使えましたか?」ボクは小さく息をのんだ。
『今のも含めて、3つだな』トオルは三本指を立てて、ボクに示してみせた。
「3つですか?」ボクは目を見張った。
『ああ、だがまだまだ負担は大きいようだ』トオルは眉間にしわを寄せ、自身の胸元を押さえた。
「具体的に状況を教えてもらえますか?」ボクは一歩身を乗り出し、真剣な眼差しを向けた。
『ああ、俺が気付いたのはちょうど、そこにぶっ倒れてるイケメン坊主が俺を切りつけようとした時だった』
トオルはフリードの方に顎を一度だけ向け、語り始めた。




