第15話「食欲の魔女がイケメンパラディンに煽られてゲラーデンした話」 2/2
ボクはツッコのもとに向かうために空を飛んでいた。コボルトの巣穴は近い。
「おい、フリード! ツッコ! 聞こえるかい?」
スマホから音は聞こえなかった。スマホの画面を見るが配信が途絶えている。
ツッコラーA:おいおい、どうなっちまったんだ?
スクワライドしか勝たん子:ツッコちゃんは? それにLOVE美さんはどうなったの?
「ツッコラー君、勝たん子さん、ボクが必ずツッコは助ける。LOVE美さんはどうなってるかわからないが……」ボクはスマホを胸元にしまった。
ツッコラーA:おいおい、縁起でもねぇこというんじゃねぇよ。エスルス、任せたぜ?
スクワライドしか勝たん子:二人をお願いね。
エスルサーA:エスルス様、お気をつけて。
「ああ、もちろんだとも。さて、洞窟に着くからここで失礼するよ。配信はつないでおく」
ボクは、地面に着地すると、その勢いのまま洞窟内をかけた。
周囲に大きな振動が響き、土煙が広がった。
音に驚いたコボルトたちが大量にあふれてきた。正面から十。横穴からも大量に。
『Ich bin gerade total geladen!(ボクは今アタマに来てるんだ!)』ボクは片手を上空にかざした。黒い閃光が周囲を照らす。手のひらの上に漆黒の塊がうごめき始める。
『 Stör mich nichtォッ!(邪魔をするなぁッ!)』
漆黒の塊から触手が伸びると、周囲に伸びた。
コボルトたちの体を貫いた。
触手がゴボリ、ゴボリと音を立てて何かを吸い上げていく。
コボルトは枯れ木のようにやつれると粉々になり、霧散した。
——チッ! まずい。魔力の足しにもなりゃあしない。これからあの狂人剣士とやりあうというのに、持つかな。ボクの魔力は。
ボクは走った。目をつむり、集中する体から青い光がにじみだし、周囲をゆっくりと包み込んでいく。
——見つけた。剣を振りかぶっている男が一人。剣を構えている女の子が一人、倒れている女性が一人。女性の息は荒いが死んじゃあいないようだ。
ボクは足を踏み込んだ。大地を蹴り、地面を滑空した。
——もうそこだ……頼む間に合ってくれよ。ツッコが死んだらボクは明日から何を食べればいいんだ。
通路の奥に開けた場所が見えた。
フリードの背中が見えた。その奥は背中に隠れてよく見えない。
ボクは目を見開いた。
フリードは剣を振りぬいていた。
「ツッコ! 大丈夫かい!?」
ボクは部屋の中に入った。部屋の中は静かだった。
よく見るとフリードの蒼剣が地面に落ちている。
蒼剣は真っ二つに折れていた。いや、切れていた。
「なんだ……これは?」
ボクはフリードに目を戻した。
フリードは剣を下ろしたまま、静止していた。
ゆっくりと横に揺れるとそのまま崩れおちた。鮮血をあたりに散らした。
黒剣の刃が甲高い音を立てて、地面に転がった。
ボクはフリードの立っていた先に目を向けた。
視線の先にツッコがいた。
その手に『食実剛健』と刻まれたトオルの包丁を持ち、紫色の光に全身を包まれていた。
横たわったフリードの姿を見つめるその双眸は、淡く白い光を放っていた。
「ツッコ……? その力。まさか?」
ボクは息をのんだ。ツッコの目を、体を上から下まで食材を味わうように見つめた。
ツッコの体から力があふれている。体のそこから滲み出すように。
——これはトオルの? チョウリの極意?
「なんだ、お前は?」ツッコは低い声を上げた。ボクのことをにらんできた。
ツッコは右手に握る包丁の切っ先をボクに向けた。
「どうしたんだい……ツッコ? ボクだよ、エスルスだよ、食欲の魔女だ」
「エスルス……食欲の魔女……?」ツッコは左手で顎を抑えた。
ゆっくりボクに近寄ってきた。
「ああー! エスルスか! 銀髪の腹ペコ娘がベッピンになったじゃねぇか!」
ツッコはボクの頭を撫でまわした。懐かしい触り方だった。
「キミは、ツッコじゃないね……?」
ボクは口を押えた。口に手を運ぶのは食事の時くらいだと思っていた。
——昔、小さなころに、彼はボクが落ち込んでいると決まって頭を撫でまわした。
「キミは……いや……」
ボクは目を震わせた。
「あなたはトオルですか?」
ボクの潤む瞳は、ツッコの笑顔に、父トオルの面影を見ていた。
=============【作者より】
読んでいただきありがとうございました。
ツッコとフリードの間に何はあったのか?そして、ツッコの身に何が起こっているのか?
〇今回の声に出して読みたいかっこいいドイツ語講座ァーッ!
●Du spinnstwohlッ!(ふざけるなッ!)
Du・・・あなた、君、お前 youですね。
spinnst・・・頭がおかしくなっている。
wohl・・・~だろう。
「お前! 頭がおかしくなってるんじゃないか?」が、「ふざけるんじゃない!」というようなスラングになります。
●Ich bin gerade total geladen
gerade・・・今、まさに、ちょうど just now
total・・・完全に、すっかり 英語のトータルんと同じです。
geladen・・充填された、とか、爆発寸前に怒っているの意です。
ゲラーデ、ゲラーデン、音が似てますが二つ並べて「今怒ってるんだ!」になります。
● Stör mich nicht
Stör・・・邪魔をする。
mich・・・私の myですね。
nicht・・・~しない。 notですね。
これはそのままですね。ボクの邪魔をするな! です。




