第13話「イケメンパラディンにだらしない姿を見せたら狂人になった話」 2/2
「やってみます」
私はコボルトに向かって駆けた。
コボルトは音に気づいて私の方を見た。
構わず首元を狙った。
金属音が響いた。剣は受け止められていた。
コボルトが牙で剣を咥えていた。
私はコボルトのお腹を蹴ると後ろに飛んだ。
剣は奪われていた。
コボルトが近づいてきた。
私の剣で切りかかってきた。
私は目をつむった。
何も起きなかった。
目を開けるとフリードの黒い外套が目に入った。
コボルトは崩れ落ちていた。
「ありがとうございま…」私が体を起こしてお礼を言おうとしたその時、
フリードに肩をつかまれた。
『ツッコちゃあぁぁぁん? 君はなにをやっているんだぁい……?』フリードの目が血走り、瞳孔が開いていた。
「ひっ……私、頑張ったけど剣はまだ苦手で……」私は震え、目をそらした。
『ツッコちゃあぁぁんは、普段剣の稽古はしているのかぁい……』フリードは口からヨダレを垂らしていた。
「と、時々だけです。毎日はしてないです」私は目をそらした。
——イケメンが……イケメンが狂人になっちゃった……逃げたほうがいいかな。刺激しないほうがいいかな
『それはよくなぁい! 剣には真摯に向き合わずになにをしてるんだぁい!? ボクが剣の振り方を教えて上げるから稽古をするかぁい?』フリードは自身の黒剣に手を添えた。
「は、はい! やります! お願いします」
私は自分の剣を拾い構えた。
そこから私の地獄は始まった。
剣を振り始めて一時間が経過した。何回振ったか分からなかった。私は肩で息をしていた。
「フリードさん……腕が痛いです。何回、何時間振るんですか?」私は汗を拭った。
『ツッコちゃあああぁん……キミはなにを言ってるんだぁい? 剣は真心を込めて振り続けるんだぁい。時間や本数なんて些末なことを気にするのはやめて真摯に向き合うべきだとおもわないかぁい?』フリードは目をギラつかせながら剣を振っていた。姿勢が崩れることなく、切っ先は見えなかった。ただひたすらに同じ動作を私の倍以上の速度で繰り返していた。
私は息を飲んだ。
——口答えしたら殺されるかもしれない。ヨウシャールのやつなんてゲテモノと付き合ってるんだよ……
私は剣を振り続けた。
2時間が経ち、
3時間が経ち、
腕の感覚がなくなってきた。顔は涙と汗と鼻水でドロドロだった、
狂人はガンギマった表情とは裏腹に涼しげに剣を振っていた。不気味さが極まっていた。
私は剣を振った。
——誰か……助けてよ。エスルス……スクワライドでも文句を言わないから……
「まったく、なんて顔して剣を振ってんだよい、ツッコ」
狂人と私は同時にその声の主の黒髪ツインテールの少女の方に振り返った。
=============【作者より】
読んでいただきありがとうございました。
イケメンから一転、恐怖の狂人となったフリード……。
絶体絶命のツッコを助けに現れた、黒髪ツインテールの少女の正体とは!?
そして、空飛ぶポンコツ魔女は間に合うのか!?
次回更新は7月17日(金)です。
〇今回の声に出して読みたいかっこいいドイツ語講座ァーッ!
Rind:牛(牛肉)
Wein:ワイン
Apokalypse:黙示録=アポカリプスですね。
eine Galaxie銀河 これはわかりやすいですね。Galaxyです。
※eineは一つのという意味ですね。 英語のaと同じような使い方をします。
des Geschmacks!(デス・ゲシュマックス) = 味覚の 英語だと、tasteとかflavorの意
Das ist wahrhaftig eine Galaxie des Geschmacks
ダス・イスト・ヴァールハフティヒ・アイネ・ガラクスィー・デス・ゲシュマックス!
これはそのまま直訳で、まさに味覚の銀河だ! というわけですね。
食欲の魔女の味覚は下衆MAXと覚えてください。
次に、Ich komme:私は来る。 komme=comeですね。
jetzt:今=now
ドイツ語の「 j 」の発音は、英語の「j」とは大きく異なり、日本語の「ヤ・ユ・ヨ」の音(yの音)になります。
1. 基本は「ヤ・ユ・ヨ」の音
ドイツ語の「j」は、ローマ字の「y」と同じように発音します。後ろに続く母音とセットで覚えるとカンタンです。
ja/ 「はい」
je/ jetzt(イェッツト:今)
ju/ Jung(ユング:若い)
jo/ Job(ヨブ ※ただし英語由来の言葉は例外あり、後述)
ですので、jetzt の場合は「ジェッツ」ではなく、「イェツト」(最後のtは軽く息を抜くように「ト」)と発音するのが正解です。
ブクマや感想、★評価をいただけると執筆の励みになります。引き続きよろしくお願いします。




