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第10話「食欲の魔女にビーフシチューで生き地獄を味わわせた話」 2/2

キッチンの調理器具コーナーから厚手の鍋を取り出した。


 鍋にサラダ油をタラタラと入れた。鍋を傾け薄く引いていく。


 鍋を火にかけ油がふつふつと泡を出すのを待った。


 牛肉を鍋に投下した。ジュジュジューっという音とともに、肉の焼ける香しい匂いがキッチンに広がった。

 

 表面にしっかり焼き色がつくまでじっくりと焼いていく。


 「ここでしっかり全体を焼くことで煮崩れを防げます」


 シュウシュウ、パチパチと油が跳ねる音が強くなったとき、肉をくるりんとひっくり返し、別の面を焼いていった。

 

 これを全面に繰り返していく。ジュジュジュー、ぱちぱち、くるりん、ジュワジュワ、パチチという音と、


 肉の焼き目から出る肉汁の焦げる薫香が周囲を包み込んだ。


 肉が焼けたら一度バットに戻した。牛肉はバットの上で肉汁の汗をかいていた。


 『あああ! ツッコぉ! またそうやってキミはボクの心をわしづかみにするんだ!』エスルスが体を大きく揺らした。ワイプ外に消えたり戻ったりした。


 スクワライドLOVE美:トンカツといい、本当に何でもおいしそうに焼くわね。コンビニでいいから宝石のビーフシチュー買ってこようかしら。


 スクワライドしか勝たん子:また、飯テロ配信してるのね。20時台にこれをやるのはやめてほしいわね。いや。いい意味でよ?


 「ありがとうございます」私はカメラに向かって会釈をした。


 同じ鍋にバターとにんにくを入れた。


 「牛肉のエキスが染み出しているから味に深みが出ます」私は鍋を傾け、肉汁とバターをなじませながらニンニクを炒めていく。ニンニクがキツネ色に姿を変えていった。


 室内には肉の獣臭さに、バターの甘みを含んだ香ばしさ、ニンニクの刺激を孕んだ香りが広がった。

 

 手早く玉ねぎ、人参、マッシュルームを入れた。


 ジュウジュウという音とともに玉ねぎがしんなりとしてきた。


 バットを手に取ると、牛肉を鍋に戻した。バットに溜まった肉汁や油もゴムベラで鍋に入れた。


 鍋に赤ワインを加え強火をかけた。


 スクワライドLOVE美:やっぱり、ツッコちゃんって料理うまいわよね……どこかで習ってたの?


 「いえ、完全に独学ですね、キッチンは立派で祖父と祖母が食べるのが好きだったので料理当番は私でした」私は鍋を見つめながら、小さく答えた。

 ――そういえば、ビーフシチューはおばあちゃんの誕生日に作ったらすごく喜んでくれてたな……


 スクワライドしか勝たん子:家族思いなのね……そういうところも好きになるポイントかしら……


 しばらく沈黙が続いた。


 鍋がボコボコと煮立ち始めた。ブドウの酸味とアルコールの独特の甘い香りが広がった。


 「ここからは煮込んだり、数時間がかかるので、しばらくは配信つなぎますが、何かほかのことしててください」


 私は水、コンソメを入れた。中で溶かすようにぐるぐると混ぜた。


 コンソメが溶けたところで、トマトペースト、ケチャップ、ローリエ、ウスターソース、お好み焼きソースを鍋に入れた。


 タイマーを90分で設定して、一度エプロンをはずし、服を着替えに自室に戻った。


 「ああ、ツッコもああ言っているから、みなもご飯を食べてくれ……ボクは……ボクは出来上がるのを待つとするよ……」エスルスは机に顔を突っ伏した。ぐぎゅるるるるーん♡という音が響いた。


 スクワライドLOVE美:さっきご飯食べたけどコンビニ行ってくる……


 スクワライドしか勝たん子:私はこれからだけど……同じく行ってくるわ……


 ツッコラーA:ボクもぉ……

 

 スクワライドLOVE美:他にもいたのね……同接60……ご飯作ってるだけなのにすごいわね……


 ――――――――


 90分後、私はキッチンの前で鍋を見つめていた。


 ジャガイモを加えて、タイマーを再度30分後にセットした。


 「ツッコ~……いつこの料理はできるんだい? お腹がペコペコだよ……」エスルスは机に顔をつけたまま、顔の向きだけを変えて私を見た。


 「え……? これは明日のご飯だから今日はこの後一晩寝かせるよ?」私は手を胸に当てて、エスルスをじっと見つめた。


 「は……?」エスルスはアの形で口を開いて固まった。


 「え?」私も同じようにエの口を開いて固まった。


 エスルスは震えていた。机をバンッ! と叩くと立ち上がった。全身を使って大きく息を吸い込んだ。


Duuuuurch(ドゥーーーールッヒ)ッ!』エスルスは下にしゃがみこんだ。


dieeeee(ディイイイイー)ッ!』エスルスは再度立ち上がった。


『|Höeeeelleeeeeeeヘエェェェェレェェェェェェッ!』エスルスは後ろにのけぞった。


『|geeeeeeeheeeeeeenゲエエエエェェエェェェンッ!』そのまま大きく手を広げ、地面に頭がつくかつかないかすれすれまで体を後ろに倒し、膝を曲げた。


 カメラは静かにその姿をすべてを捉えていた。


Durch die(ドゥルヒ・ディー・) |Hölle gehenヘレ・ゲーエンッ!!(ああああぁぁ……これぞまさに生き地獄ッ、ツッコぉ……ボクをどこへ連れて行くというのだいッ)!』


 エスルスは前に飛び起きるように体を起こすと咆哮した。


「わかったよ。何か食べられるもの軽く作るからちょっと待ってて……」私は冷蔵庫の中から納豆と、豆腐とねぎを取り出した。


 タイマーの時間は残り22分を指していた。

 =============【作者より】


 読んでいただきありがとうございました。

 食欲の魔女の晩御飯はどうなるのか!?


 次回更新は6月28日(月)18時10分です。


 〇今回の声に出して読みたいかっこいいドイツ語講座ァーッ!


 Durch die Hölle gehen

 (ドゥルヒ・ディー・ヘレ・ゲーエン)


 直訳: 地獄を通る。


 意味: 地獄のような苦難を経験する、辛い試練を耐え抜く。


 今回の作品の中ではビーフシチューを作る香りが生き地獄だったという食欲の魔女らしい

 愛すべきポンコツさを際立たせていますね!


 ブクマ、感想、★評価をいただけると執筆の励みになります。引き続きよろしくお願いします。

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