第10話「食欲の魔女にビーフシチューで生き地獄を味わわせた話」 1/2
ヨウシャールと別れた後、私は電車の中で一人目をつむっていた。
――ああー……別に恋したいとか、恋人欲しいとかそういう気持ちが強いわけじゃないけど、目の前でああいうことされるのはムカつくなぁ……イチャイチャしてみてぇけど相手いないからなぁ……
私は空を見上げた。月がきれいだった。
――ああ、誰かのために何かを作る気分味わうために手の込んだものでも作るかぁ……食うのは食欲にあらがえない残念美女だけど……
しばらくして電車が最寄り駅に到着した。時刻は20時すぎ。私は二本の相棒を短時間で吸収し、フワフワする頭で駅前のスーパーに立ち寄った。
スーパー内でふらふら歩いていると、大きな和牛の牛すね肉が特売で売っていた。
「こ……これは……」私は牛すね肉を手に取った。
きめ細やかで美しい赤身、その中にうっすらと通るような白い脂身、ビーフシチューにもってこいの9:1の黄金比で象られた至高のすね肉だった。
――ビーフシチューで決まりだな。肉に、ワインに、キノコ、トマトピューレ、ローリエ。人参、玉ねぎ、ジャガイモ、ニンニク、バターは前に買ったな……あとは何だ!?
私はスーパーの中を買い物カートを押しながら練り歩いた。ふと黒い瓶に目がついた。
『DIEソース』、圧倒的な辛さを誇る激辛調味料だ。パッケージには『死んだほうがマシだ!と、死神に懇願する辛さ!』と、ポップなタッチのキャラクター『ダイ君』が目をガンギマラせて叫んでいた。
――これ、あの魔女に食わせたらどうなるんだろう……
私は買い物カートに入れるかどうか一瞬躊躇したが、好奇心にはあらがえず、隠すようにそっと置いた。
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「ツッコぉ……体が痛いんだ……」
家につくと食欲の魔女がヘロヘロになり、壁に手をつきながら出迎えてくれた。
「エスルス……どうしたの?」私は靴をそろえながら質問した。
「いやぁ……カツとじ煮が美味しすぎてね。荒業をキメたら足の筋がちょっと筋肉痛になってしまってね……」
エスルスは太ももをさすっていた。
「一体何をやったんだよ……お前は……」私は顔を引きつらせながら、買い物袋を片手にエスルスの横を通り過ぎた。キッチンの方に向かった。
「ツッコ、置いてかないでくれよ……お腹が空いてるんだ……」エスルスは足を引きずりながらよろよろと私についてきた。
キッチンに入ると私は魔女の存在をないものとした。上着を脱ぎ、エプロンを締めた。
髪の毛をゴムで上で束ねると、バンダナを巻き髪をまとめた。
両手を洗い、材料を洗い、調理の準備を整えた。
エスルスはその様子を無言で見つめながら私のかばんからカメラを取り出し、起動した。
「みなさん、エスルスだよー。ツッコが料理を始めたので突発配信始めます」
エスルスは配信用の定位置であるキッチンテーブルに座ると私の様子を眺めていた。
私は、包丁を手に持ち、二度ほど手の中で回転させた。
牛すね肉を繊維に沿って一口大にスッスッスッと切った。断面が鮮やかに光りルビーのようだ。
塩・こしょうをふって小麦粉を薄くまぶして一度バットに置いた。
玉ねぎはくし形切り、人参は乱切り、じゃがいもは皮をむいて大きめの一口大に切っていく。
ジャガイモは水にさらし、最後にマッシュルームは半分に切った。
スクワライドLOVE美:あら!? 今日二度目の調理配信? 入るの遅れてツッコの超絶技巧の包丁さばき見れなかったわ……残念。
「やあ、LOVE美さん、ツッコが料理を始めたから配信してみたよ。これだけだけど許してくれるかな?」エスルスはカメラ目線だった。
スクワライドLOVE美:ツッコちゃんの料理するところは絵になるから何度でもみたいわよ! もちろんあなたの面白い食レポもね?
「それは光栄だね。でも、ボクの食レポはためにはなれど、面白くはないだろう?」エスルスは首を傾げた。
スクワライドLOVE美:ために……? ……なる? ああ……そうね、前回のカツとじ煮の食レポ、ダブルルッツ、ダブルトウループからのタメを入れてのトリプルアクセルは見事だったわ。いいタメだったわ。
「はて? 君はいつも言語中枢が破壊されているのか的を射ないことを言うね。まあいいや。ツッコの様子をみようよ」エスルスは顎に手を当て斜め上を見た。その後に、私の方に目を向けた。
スクワライドLOVE美:今は落ち着いてるから非常に不本意だけど同感だから別にいいわ。
私はそのやり取りを横目に一呼吸置いた。




